第17話 うれしい「初めて」

まずは澄野が動いた。


「ちょっと。なんでここにいるんですか。出てってください。」


瀬川先輩を出そうと、腕を引っ張り出す。


「あら、それじゃあなんであなたはここにいるのかしら?それに私は彼と話があってきたのよ。あなたに邪魔する権利なんてあったのかしら?」


急に鋭い口調になった瀬川先輩。対する澄野は悔しそうに唇を尖らせて睨んでいた。これってなんの修羅場だよ。


「なあ澄野、別に良くないか。話聞くだけだし。それにお前も来てんだし、な?」


「ふーん。それならいい」


そう言って立ち去ろうとする。思わず引き止めそうになる。結構楽しいのに


「止めないであげて、ゆきくん。これからする話は彼女がいたら面倒だから」


「面倒って・・・なんの話なんですか、瀬川先輩」


「まあ、彼女についてはまだいいから。それよりも、本当に覚えてないのゆきくん。昔のことを」


一体なんの話だろうと、とぼけてみたい。ないことにしたい。

だが心当たりは有るのが嫌になる。もしかして、瀬川先輩は知っているのか?俺の過去を。


「そう。それじゃあ思い出してもらうわね。」


そういっておもむろに制服にてをかけ、脱ぎ始めた。


「いやちょっとまって。まだそういうのは・・・」


そう言いながらも指の間から少しのぞき見ていた。欲望か理性か。

そこから見えたのは豊かな胸でも、くびれの有る腰でもなかった。

そこには少し薄いが、胸の間から下腹部まで有る直線の傷跡があった。


「・・・」


「驚いたかなゆきくん。でもあのあと、ちゃんと手術は成功したんだよ。今も生きてるんだよ。」


「・・・先輩」


「ねえどうしたの?あの時みたいに褒めてよ。約束したじゃん」


先輩の、悲痛な声が聞こえた。その言葉を聞くたびに胸が苦しく、痛くなっていった。


「約束・・・したのに」


「先輩、すみません。俺」


「いいよ、ゆきくんとやっと会えたんだし。それにあの約束も冗談みたいなものだしね。別にどうでもいいよ」


嘘だ。俺でも分かるくらい下手だ。

だがなんて言えばいい?知らない過去、覚えてない約束を言われて、俺はどうすればいい?


「そこまでにしたら、瀬川香織さん」


そこに仲裁人が入った。驚いて背後を見る。そこには華蓮先輩が立って、腕を組みドアにもたれかかっていた。


「あなたは知らないだろうけど、彼にも色々と事情が有るのよ。いくらあなたが彼と親しくても、配慮すべきことはあるわ。」


「うう」


瀬川先輩が悔しそうに唸った。一理有るらしい。そこに華蓮先輩が畳み掛けた。


「話をしたいんなら部屋を片付けてから言ったら?結構散らかってたわよ。あれじゃ、荷物の中身見られるかも」


「はっ。卑怯な・・・」


たしかに、卑怯だよなこの人。うんうん、納得できる。咲村さんの件もすべて計算通りだったんじゃないか。

悔しながらも瀬川先輩は出ていった。


出ていって、華蓮先輩は深呼吸して一枚の紙切れを差し出した。


「はい。これあげる。だからあなたも頂戴」


こにはメールアドレスと思しき羅列が書いてあった。これって、、、


「早くしてよ」


スマホを握りしめ、上目遣いで頼まれた。これには俺、結構弱いな。


今日俺はアドレス交換をした。これが初めてだった。ちなみにメールは恥ずかしいので、多分できないと思う。本末転倒と言ってくれ。

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