第10話 弟子と女子高生の捕虜が、一緒に風呂に入ったからと言って、期待する展開は無く、外で待つこちらの想像だけが膨らむ件

 マインという女に散々脅され、ようやくお昼を食べることが出来た。

 お昼は、マインという女が作った創作イタリアンの、抹茶グラタンと、抹茶スープスパだったが、さすがにお店を出すだけのことはあって、苦さと甘さのバランスが絶妙に取れた美味しいものだった。


 デザートまで食べ終わると、マインは言った。


 「燈梨は、昨夜も、お風呂に入ってないんじゃなぁい? 入れさせてあげましょうよぉ、ついでに私も、昨夜は入ってない系なんですよぉ……」


 嫌な予感がした。あのおじさんは、きっとマインの言う事なら、無条件でOKするだろう。

 もし、そうなった時、お風呂場で、あのマインが、私に何をするのかが、分かったものじゃないのだ。


 さすがに、ここまでの流れから見て、お風呂場に拳銃を持ち込んだりはしないが、突然、おじさんのカミソリで、私を襲ったり、浴槽に沈めて私を亡き者にすることは充分考えられる。


 私は、おじさんに目線を送って、必死にあのマインとお風呂に一緒に入るような事だけはやめて……と、訴えたのだが、よりにもよっておじさんは


 「分かった。燈梨も、疲れて風呂で溺れるとヤバいから、舞韻、頼む」


 なんて言ってきた。

 あのマインが、私の方へと目線を向けて、ニヤリとしたのがはっきりと見えてしまった。


 脱衣場でマインが、頼みもしないのに、私の着替えを手伝ってきた。


 「ふふふ、これが制服ねぇ~。私は、女子高生の経験が無いからね~。憧れる系なのよぉ」


 と言うと、私のブラウスを、下着を脱いだ自分の身体に、あてがい始めた。

 私のブラウスから、マインの乳首が透けて見えているのは、私にとって非常に不快だ。


 その視線に気付いたマインは、リボンやブレザーまで着てから、私に向かって言った。


 「なぁにぃ~、何か不服な訳? 良いのよ、私の肌が自分の制服に触れてるのが汚らわしいって言っても~」


 私が何も言い返せずにいると、マインは更に言った


 「早く入りましょうよぉ~、ちょっと、胸もきついし、そろそろ私も脱ぎたい頃合い系ねぇ」


 マインの方を見ると、私のブラウスは、胸の部分がはち切れんばかりになっている。

 私は、マインの方を見た。私は、胸がかなり大きい方だと思っていたが、それよりも遥かに大きい。その視線を見たマインは言った。


 「なによぉ~。私の胸をジロジロ見て、スケベね。サイズが知りたいの? 120のGよ」


 私が、下を向いていると、マインは、さっと服を脱ぐと


 「もう沸いてるから、入りましょう。それとも、裸で外にいるのが趣味系? 」


 と、私の腕を掴んで言ったので、素直に中に入った。


 この家のお風呂は、大理石を使ったかなり凝った浴槽になっていた。広さ的にも、浴槽に3人でも入れる広さになっていた。


 私は1日ぶりの浴槽の感触を楽しんだ。

 この生活になってから、毎日のお風呂など望めない状況になっていた。


 下手をすれば、宿に恵まれず、おじさんと出会ったビルの屋上で過ごすことになる夜もあれば、宿が見つかっても、家主が毎日お風呂に入らない人だったりすれば、入れなかったりするからだ。


 ただ、そういう人でも、事をする日だけは、しっかりお風呂に入れてくれる。分かりやすいと言えばそうだが、そういう宿も、ゲームのように楽しみながら占うようになっていった自分がいた。


 マインは、洗い場にある椅子に腰かけると、私の方を向いて言った。


 「タオル、持ってるでしょ、頂戴」


 さっき、おじさんからお風呂場のタオルを受け取っていた。

 渡そうと思って一瞬ためらっていると、マインは、不満そうな表情で言った。


 「なによぉ~、別にタオルで縛ったり、首絞めたりしないわよぉ。今更あなたに手出ししたら、フォックスもさすがに怒るからね」


 私は、気になってることがあったのでボディソープを泡立てている彼女に訊いてみた。


 「マイン……さん? 」

 「何? 」

 「本当は、昨夜お風呂、入ってますよね」

 「ええ、別に家にいたし、入らない理由がない系だし」

 「なんで嘘ついてまで、私と一緒に入るの? 」

 

 マインは、背中を洗いながらニヤリとすると、言った。


 「あなたが、お風呂に入るフリして、爆弾とか仕掛けないか見張りに……ってのは嘘で、お風呂場ってのは、一番隠し事が出来ない場所なの。あなたの身体もね」


 私は、ドキッとして、両手で胸を隠したが、マインはそこには関心なく、私の表情を一瞥すると笑って


 「別に、あなたのコンプレックスを探そうって訳じゃないの。身体を見れば、虐待された跡だとか、リストカットしようとした痕跡だとか、クスリの痕跡も分かるの。もし、それらの跡があれば、私たちもプロだから、それ相応のケアが必要になってくるって訳」


 私は、その言葉を訊いて、こみ上げてくるものがあったが、次に口を突いて出たのは


 「……でも」

 「でも? 」

 「私の始末は? 」


 だった。

 私は、この段階では、この人たちが、自分を匿ってかくまって護ってまもってくれるのか、それとも、口封じに始末するため、私を油断させているのかが分からなかった。


 だから、ストレートに確認しておきたかった。

 とは言え、これで本当に始末すると言われても、諦めがつく類の事象でもないのだが……。


 すると、マインは笑って言った。


 「するつもりなら、とっくにしてる系よ。さっき地下室で、殺る気になれば、いつでもできたんだから、痕跡が残るリスク冒してまで、上に連れて来ないわよ」

 「えっ!? 」

 「安心なさい。フォックスはあなたを始末するつもりはないわよ。ただし、ここから黙って逃げ出すようなことがなければね。それは、私も同じ」

 「じゃあ、ここにいてもいいの? 」

 

 マインは、クスッと笑うと、言った。


 「さっき、フォックスにここに置いてくれって、頼んでたでしょ? 良いって言われなかった? 」

 「あ……」

 「1つ言っておくわね。今まであなたがどんな所にいたのかは知らないけど、ここは、少なくともそこと比べたら天国みたいな所よ。だから、ここで、自分の人生を見つめ直しなさい。それが、当面の宿題ね」


 私は、マインの言葉を反芻しているうちに、おかしな気分になっていた。

 この人たちは、殺し屋で、私はその現場を目撃した唯一の目撃者なのだ。

 なのに、なぜこの人たちは、私を匿って、あまつさえ、私の悩みを解決させる手助けまでしてくれるのだろう。


 「なんで? 」

 「え!? 」

 「なんで、ここまでしてくれるの? 殺さないまでも、放り出せばいいじゃん」


 私が思わず言うと、マインは、再びクスッと笑って


 「じゃぁ、こう考えたらどう? ここで、悩みを解決させたあなたは、この後の人生、フォックスに恩を感じる。すると、見た事を話したくなくなる。……これは、新たな口封じだって」


 私はマインを見ると、マインは


 『そういう風に言ってるんだから、それに乗っかっておくのが長生きするコツよ』


 と、言わんばかりの表情で私を見つめている。なので


 「分かったよ」


 と答えると、マインは


 「良かったぁ~。分かって貰えて」


 と、ニッコリして言った。

 そして


 「背中、流してあ・げ・る」


 と、言うと私の腕を掴んで、強引に湯船から洗い場に引っ張り出した。

 私は、まだこの人とは仲良くなれないような気がする。


 

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