第7話 秘密の地下室で、弟子は本性を剥き出しにするのだが、その残酷さに、見ているこちらが恐怖を感じる件

 俺達3人は、地下室にやって来た。

 ここは、1階の店のカウンター裏にある、一見すると有線の機械に見える機器に指紋認証をさせると出てくる階段によって出入りできるようになっている、言うならば隠し空間だ。


 地下への階段が出てくると、先頭にいた舞韻は、燈梨を自分の前に押し出し


 「オラぁ、キリキリ歩く! 」


 と、ドンと背中を押すと燈梨を先頭に地下室への階段を下りていった。

 途中で、不慣れな燈梨が歩みを止めようとしたり、振り返ろうとすると


 「背中から、ぶち込まれたい? 」


 と、カバメントの撃鉄をわざと引く音を立てて脅していた。

 このガバメントからは、マガジンは抜かれており、チャンバー内にも弾丸は入ってはいないのだが、それを知らない燈梨は、そう言われて震えあがり、瞬間、歩みを早める。

 すると、燈梨を縛る縄の端を持っている舞韻が


 「誰が走って行けなんて言ったぁ? 」


 と、縄を掴んで引っ張って燈梨を止める……というを繰り返していた。


 地下は、完全防音になっており、武器庫と射撃場で半分、残りは、舞韻が拷問場と呼ぶ倉庫兼、牢と万一の際の居住スペース等になっている。


 舞韻は、射撃場へとやって来ると、射撃台のすぐ脇にあったパイプ椅子に燈梨を座らせて、椅子と上半身を縛り付け、足首と膝上も縛り上げて、身動きを取れないようにした上で、燈梨に耳栓をしてから、ガバメントに弾丸を込めて5発撃った。5発は狙い通りに、的の中心と、四方に一定間隔で当たっていた。


 燈梨は、その様子を目を丸くして、舞韻と、的を交互に見つめていた。

 その様子に気付いた舞韻は、マガジンを引き抜いてから空撃ちをして、弾丸を抜いた上で、燈梨に近づき、耳栓を外すとガバメントを燈梨のおでこに近づけて


 「次は、あんたの番よぉ。どっちが良い、頭? それとも心臓? 」


 燈梨は、ブンブンと首を横に振り続けていたが、舞韻が顎を掴んでこちらを向けさせ


 「フォックスにあれだけ言われてたのに、逃げようとした以上、もう選択肢はない系よぉ」


 と、妖艶な笑みを浮かべて言うと、うなだれる燈梨を尻目に、武器棚からコルト357マグナムを取り出して弾丸を込めると、片手で的に向けて撃ち始めた。

 弾丸は、やはり先ほどと同じように、中心に当たった1発を囲むように当たっていた。舞韻の腕は、言うまでもなく相当なものだ。

 全弾撃ち尽くした舞韻に言った。


 「舞韻は、コルトが好きだな」

 「そんな事ない系ですよ。私のもう1丁はワルサーP5だし、S&Wも相性がよくて好きですよ。銃に拘りは持たない主義系なんです」

 「でも、舞韻の組み合わせだと、弾丸を2種類持ってないといけないから、普通は統一した銃で持つだろう。やっぱり拘ってるんだよ」


 舞韻は、「やれやれ、オーナーは頑固ですねぇ」と言わんばかりに肩をすくめてジェスチャーすると


 「それじゃ、始めましょうか」


 と、燈梨の肩を掴んで言った。

 舞韻の得意な時間の始まりとなった。


 「さぁ、あんたはどこの誰? 素直に答えなさい! 」


 “ヒュン”という鋭い音がして、飛んできたダーツの矢が、燈梨の首に掛けられた的の端に刺さった。

 舞韻と燈梨は、ダーツのように244センチ離れた位置にいる。燈梨は壁際に追いやられ、逃げられないようにされている。

 燈梨は成す術なく、うなだれたまま首を横に振り続けた。


 「そんな答えがある訳ないっしょ! 名前訊かれて『知りません』なんて答える奴いる訳? 」

 「うう~! 」


 燈梨の口にはガムテープが2枚、×字に重ね貼りされ、剥がれないようにされている。

 舞韻がさっき、リビングで逃げようとして転んだ燈梨を発見した際に貼り付けたものだ。

 今の燈梨は、喋れない状態にされているのに、舞韻から拷問されているという、ただのイジメとしか思えない状況にされている。


 ちなみに舞韻の得意なのは、戦闘だけではなく、この世界で舞韻の事を知らない人間はいないというほどの、拷問の名手なのだ。

 相手が屈強な男の兵士でも、舞韻の手にかかれば24時間以内に落ちるというのは、その界隈では周知であり、舞韻は別名を『拷問女王』と呼ばれていたほどだった。


 その舞韻が、さっきの燈梨の行動には少しばかり、カチンときたのだ。

 と、なると、舞韻の行動も過激となる。舞韻は、メインの拷問に入る前に、燈梨に対してキツメのお仕置きをしているのだ。

 喋れないのに、喋れと迫り、恐怖をひたすらに与える事で、この先の拷問の展開を楽にすることと、逃げようとした事への罰を与える事の一挙両得を狙っているのだ。


 “ヒュンッ”

 今度は、的の真ん中に刺さった。ゲームなら、ダブルブルで盛り上がるところだが、燈梨にとっては気が気ではない状態だ。舞韻は相変わらずニヤニヤしながらダーツを構えている。


 「今度は、いつ、どうやって、ここまで来たのかを答えて貰おうかな~。ちなみに、私、昨日ちょっと、仕込みの時に手首痛めたから、手元が狂う系かも~。もしかしたら左目あたりに刺さっちゃう系かも」

 「むううー! 」

 「真面目に答えなさい! 」


 “ヒュンッ”

 目をつぶって身構えた燈梨の顔のすぐ左脇をダーツの矢が掠めて、壁に刺さった。同時に燈梨の髪の毛が2本ほど抜けて壁に一緒に刺さった。


 「あらあら~、惜っしいー! もう少しで左目貫通してたのにぃ……ちなみに次、ふざけた唸り声で返答したら、右目を確実に行くからね」

 「むうううー! うんんんー! 」


 燈梨は叫びながら顎をしゃくって、必死にガムテープを剥がすようにジェスチャーしているが、舞韻は一切無視して続けた。


 「さあ、今度こそ答えなさい! あんたはどこの誰で、いつ、どうやってここまで来たのかを5秒以内で」

 「……」


 燈梨は沈黙した。さっき、唸り声で返答したら確実に目を潰すと言われたので、敢えてそうしているのだろう。

 しかし、当然舞韻はそういうリアクションは想定済みなので


 「ターイムアーップぅ! 残念ねぇ、答えて貰えないなんて。じゃあ、約束通り右目を行くわね……って、矢がもう無い系ね。仕方ない」


 と言うと、舞韻はガバメントを取り出して構えた。


 「矢が無い以上、コイツでいくしかない系ねぇ。取り敢えず、私も鬼じゃないから、最後に言い残すことがあるなら訊く系よ」

 「うううー! むううううー! 」


 燈梨は首を横に振り続けて、必死に喋らせて欲しいことをアピールしているが、舞韻は、燈梨の口の事だけは一切スルーして

 

 「もう手遅れ系ね。言い残す事もないようだし、そろそろ終わりにしましょうねぇ」


 と、言うと燈梨の元まで歩いてきて、問答無用でガバメントを、燈梨のこめかみにピッタリとつけると、撃鉄を引いた。


 「うううううー! んんんんー! 」

 「さようなら。言われた通り、大人しくしていれば、こんなことにならなかったのにねぇ」


 燈梨は暴れて何とか逃れようとしたが、椅子にピッタリと縛り付けられ、足も2ヶ所縛られていては、全く身動きが取れずに、その場に固まるしか方法はなかった。

 舞韻は迷わずに引き金を引いた。


 “チャキッ”

 身じろぎもせず、目をつぶっていた燈梨が、恐る恐る目を開けて顔を上げた。

 ガバメントに、弾丸は入っていなかった。

 舞韻は、更に数度引き金を引くが、何度やっても同じ反応だった。


 燈梨は、口を塞がれているため、鼻から大きく息をふう~っと出して安堵した。

 しかし、舞韻は次の瞬間、屈み込んだかと思うと、足首に付けているワルサーP5を抜いて燈梨に見せた。


 「安心したっしょ? 『コイツ、弾丸の入ってない銃で脅してたのかよ』って、でも、コイツにはたっぷり入ってる系よぉ」


 と、言うと、燈梨の目の前でマガジンに8発の弾丸を入れて装填し、スライドさせると、妖艶な笑みを浮かべ、優しい声で言った。


 「さあ、遊びの時間はもうおしまい。今度こそ撃ち抜くから安心して待っててね」

 「んんんんんんー! ううむむむむー! 」


 燈梨は再び叫び声をあげて暴れようとするが、身体はビクともしない。やがて涙を流しながら


 「うっうっうっ」


 と小さく嗚咽を漏らすようになった。

 すると、舞韻が顎を掴んで上を向かせ、今までになく怖い声で


 「今度、逃げようとしたら、こんなもんで済むと思うなよ! 」


 と言うと、燈梨はコクコクと首を縦に振った。

 すると、舞韻は冷たく無表情に燈梨を見ると言った。


 「言っとくけど、フォックスが反対してるから、今回はこれで済ませてるだけで、私だったら、ダーツの段階で片目潰してるから」


 それを訊いた燈梨の表情は凍り付き、身体がガクンと、椅子に崩れ落ちた。

 舞韻はその状況に構うことなく


 「いい? これから喋らせてあげるけど、訊かれた事だけに答えなさい。そして、嘘がバレたら、小指から1本ずつ切り落とすから、そのつもりで答えなさい! 」


 と、言うと、燈梨は再びコクコクと首を縦に振った。

 舞韻は、俺の元にやって来て


 「オーナー、良いんですかぁ? 無傷からはじめて、爪の1~2枚剥いでからの方が素直に吐くと思いますよぉ。それに、失禁もしてないから、脅しも足りてないと思いますよぉ」


 と、燈梨にも聞こえるように言った。

 燈梨は目を丸くして、首を横に振り続けていた。


 俺は、燈梨の元へと行くと、燈梨の向かいにパイプ椅子を広げると座った。

 同時に舞韻が、燈梨のすぐ脇に同じくパイプ椅子を出して座り、舞韻は遠慮なく、燈梨の口に貼られたガムテープを勢い良く剥がした。

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