第4話 信頼できる弟子と捕虜の関係が最悪な場合、間に立つ自分は滅法参る訳で
午前8時43分。
階下から直列6気筒の音が聞こえてきた。
同時に、接近してきたものに対して自動的に反応するモニターが入り、音の主の姿が映る。
R34型スカイライン 4ドアセダン25GTターボ、色はベイサイドブルー。ちょっと間の抜けたような顔周りが後期型であることを物語っている。
階下の駐車スペースに止まると、1階のドアが開き、しばらくしてから階段をトントンと上がってくる足音が聞こえてきた。
ドアが開くと同時に
「おはようございまーす。オーナー起きてます? ……寝てますよね? 休みだし」
と、若い女性が現れた。
コイツは、
弟子とは言っても、既に稼業は引退させており、この世界に関わることと言えば、ギルドに出入りしては、俺の依頼を調整したり、ギャラ交渉をしたりしている。また、俺の仕事のサポートをする事もある。
年齢は24歳。17歳の時、俺がとある海外の紛争地で、処刑される寸前のところを解放し、日本へと連れてきたのだ。
明るい茶髪で肩より少し短め、耳あたりからウェーブをかけており、活発な印象を受ける。
目がパッチリしていて、顔立ちは整っているが、美人というより可愛らしい印象を受ける。
服装は、黒いTシャツの上に、白い長袖シャツのボタンを半分くらい外して着崩している。シャツの裾は、パンツのベルトホールの高さで結んである。
下は七分丈くらいのスキニーデニムのパンツで、彼女の活発な印象をさらにアップさせている。
舞韻はドアを開けるなり
「あれ!? 起きてる。珍しい事もある系ですね」
と言って、ドアを徐々に開けていくと、燈梨という女子高生が視界に入ったようだ。
燈梨は、助けが来たかも……と思い、体を揺すって自分の今の状況をアピールしている。
舞韻は、燈梨の前まで歩いて行き
「あれ? オーナー。夕べの仕事って、ヒットじゃありませんでしたっけ? 誘拐の仕事なんてありましたぁ? 」
事も無げに言うと、テーブルの上にあるガムテープを手に取って、ビーーっと伸ばすと
「誘拐なら、目隠ししておかないとダメですよぉ。ついでに口にも貼って黙らせておきますね」
と、言ってそのまま貼り付けようとするため、燈梨は顔を背けて
「違う、今剥がされたばかりなの! 話すことがあるから! 」
と、言うが、舞韻はニコニコしながら、燈梨の顎を掴んでまっすぐに向き直らせると
「あんたに発言権なんて無い系よ」
と言って、燈梨の口を再びガムテープで塞いだ。
「それじゃ、オーナー、邪魔者も黙らせたところで、説明して貰いましょうか」
と、俺の方に向き直ると、迫ってきた。
ちなみに、舞韻が俺の事をオーナーと呼ぶのは、この家の1階がカフェレストランになっていて、そこを借りて経営しているのが舞韻だからだ。
舞韻は、大学卒業後に外食系の大手に就職したのだが、そのノウハウと人脈を活かして、自分で経営をしてみたいと、元々俺がバーをやっていた跡の店舗を改装して、切り盛りしている。
俺は、昨夜からの事を舞韻に説明した。
すると、舞韻はやれやれ……と、いった様子で肩をすくめると
「そんなの迷うまでもない系じゃないですか」
と言って、壁に掛けてあるダーツの的を外して、燈梨の首に掛けると、シャツの中から、コルトガバメントを出して、照準を合わせながら
「これから続きをする系ですよ。オーナーと私で、どっちの方が高い得点にぶち込んで、この小娘を逝かせてやるか。どうです? お昼賭けましょう」
と、妖艶な笑みを浮かべながら言って撃鉄を引き、ブローバックさせた。
「うーー! むうーー! 」
燈梨はジタバタと体をくねらせ、足をバタつかせて抵抗しようとしたが、両足を縛られているため、バタつかせた足でバランスを崩して、ソファに崩れ落ちた。
それを見た舞韻は
「あらあらぁ、パンツ見せてはしたない。足も縛られてた系なのね。可哀想に」
と言うと、ガバメントの撃鉄を戻して元通りにしまい、燈梨の足の縄を解いて立たせた。
そして、再びガバメントを構えると
「さあ、好きに逃げ回って良い系よ。動く的の方が、燃えるってもんよ。ウサギ狩りにはちょうど良い頃合い系ね」
と言うと、燈梨は仁王立ちになったままで、首を横に振り続け
「むーー! ううーー! むううーー! 」
と、必死に叫んだ。
「逃げ回らなきゃ撃たれないって思ってるなら、お生憎さま。撃つわよ。安心して、楽に逝かせてあげるから。そこのフォックスとは違って」
舞韻は言うと、燈梨の胸元にあるダーツの的の中央部を狙って、引き金に指をかけた。
「おい! リビングが汚れるだろ。やめるんだ」
と、舞韻のガバメントを取り上げる。元々、ここで撃つ気がないのは分かっているので出来ることだ。
舞韻は口を尖らせてブーたれた。
「オーナー、この娘に肩入れしてる系ですけどぉ、殺っちゃた方が、良いに決まってる系ですって」
「んんんんんー! 」
燈梨は、首を横にぶんぶんと振りながら叫んでいる。
舞韻は、燈梨の顔にピッタリと自分の顔を近づけて
「騒いだってぇ、誰も助けになんて来ない系よぉ。ヤバいところ見ちゃった以上はぁ、覚悟決めた方が良い系よぉ。今のうちに念仏唱えるってんなら、コイツを剥がしてあげるけどぉ」
と、口のガムテープを指さした。
燈梨は即座に首を横に振った。
俺は、舞韻に
「ちょっといいか? 」
と言うと、舞韻は燈梨をソファに座らせると
「逃げようとしても無駄だからね! 」
と、言い放つと足を縛り上げてから、俺について部屋を出た。
階段を降り、1階の店へとやって来た。
店は平日の朝から夕方までの営業だ。土曜日なので、いつもは満席に近い店も、静まり返っている。
俺は、舞韻に燈梨の学生証を渡して
「ちょっと、身元を調べてくれるか? 」
と言うと、舞韻はまた口を尖らせながら言った。
「オーナー、本当にあの娘を始末しない系ですか? 後で色々厄介になってくる系ですよ」
「いや、妙に引っかかるんだ。警察に駆け込めない事情とか、普通の家出女子高生とは違う雰囲気とか、だから、まず調べてみてから今後の事を考えようかと」
燈梨という娘の夕べ(正確には今朝だが)からの行動は、不可解なことが多い。
屋上で捕まり、銃を突きつけられた際、普通の娘なら泣きわめくところだが、燈梨に関しては、沈着冷静に、生き延びるためには声を出さない選択をした。
ここに連れて来られてからもそうだ。普通なら泣きわめくか、大声で助けを呼ぼうとするのだが、燈梨はそれをせずに、俺たちに殺されないようにするためには、どうしたら良いのかを考えて行動しているように見える。
そこが妙に引っかかるのだ。そして、そこが分かるまでは少なくとも短絡的に殺すような行動には出ない方が良いと思っている。
舞韻は、俺の事を懐疑的な目で見ていたが、はぁ~っとため息をつくと
「もぉ、分かりましたよ。これが偽名でないなら、午後には分かる系でしょう」
と言ってから、俺の顔の前に顔を近づけてきて
「まさかとは思いますけどぉ、あの小娘に『ヤらせてあげるから、命だけは助けて』とか、言われてヤっちゃったんじゃないでしょうねぇ? もし、そうだとしたらマジサイテーなんですけど」
と、不潔なものを見るような表情で言ったので
「アホか! ヤる訳ないし、そんな誘いも受けてないわい! 」
と言うと、舞韻は分かってますよ……と、言いたげな表情で、カウンターから出したノートパソコンで色々と調べ始めた。
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