第2話 言い訳をする男は、人間自体が小さく見えるというのは自然の摂理で
連れ帰ってしまった……。
つまりは、女子高生の始末に失敗してしまったのだ。
言い訳をすると、確かに意を決して撃鉄を引いたのだが、その時、階下の階段に仕掛けたセンサーが反応した。
誰かに見つかると、余計に面倒ごとが増えるため、現場を素早く片付けると、手摺から彼女を解いて、機械室の物陰に隠れた。
息を殺して見ていると、ただの酔っぱらいが、階を間違えただけなので安堵したが、即撤収しなければならない事には変わりない。
荷物を担ぐと、女子高生のブレザーを脱がせた。
何かされると思ってビクッと暴れようとしたが、さっきの事を思い出して、殺されると思ったのか、大人しくなった。
俺は、結束バンドを1本出すと、彼女の手を後ろに回して、親指の付け根同志をちょっときつめに結び付けた。
そして、その上からブレザーを羽織らせると、ガムテープを貼られた口にも大きめのマスクをかけた。
これで、拘束されている状態ながら、傍目には、ブレザーを羽織っている女子高生にしか見えないので、堂々と連行することが出来るのだ。
防犯カメラのない業務用エレベーターに乗ると、通用口から出て、裏口の駐車場に止めておいた白の先代型スズキ・エブリィのスライドドアを開けて、女子高生をリアシートに座らせると、目にもガムテープを貼った。
そして、旗竿入れとライフルを荷室に入れると、ドアを閉めて、室内から運転席に移って出発した。
業者の格好をした男が、旗竿を持って乗るのに違和感のないこの車も、今回の仕事用にギルドが用意したものだ。
足の付かない質の車なので、たとえ目撃されてナンバーを控えられたとしても心配はない。安心して仕事に専念できるのも、ギルド所属のいいところだ。
20分ほど街中をグルグルと、カメラに映らないルートで周回し、後席の女子高生に場所を探られないようにした。
目隠しをしていても、勘を研ぎ澄ませば、道順を覚えられる。そんな時に、この行動は必要なのだ。
ギルドが指定した車両の返却場所である、ホテルの地下駐車場に指定時間内にエブリィを入れる。
ギルドのルールでは、車両返却は指定時間内に行うのが鉄則で、間に合わない場合は別途連絡し、指示を仰ぐ。指定時間内であれば、指示場所のカメラが、不慮の事故で、別の映像に切り替わっていたりするのだ。
車を片付け、ライフルと余計な荷物を降ろすと、キーをロッカーの指定の番号のところに入れる。
封筒が一通入っているので、それと引き換えにキーをロッカーに入れて、撤収だ。
さっき、エブリィを置いたすぐ脇のスペースにある車のドアロックを開ける。
2代目、日産サファリ、エクストラロング・ハイルーフ。
5メートル近い全長、1.9メートルを超える全幅、2メートル近い全高に、4200ccのエンジン、最小回転半径は6.7メートルと、都市部で乗るのには全く向かない車であるが、兵士だった俺にとっては、安心して命を乗せていられる車だ。
海外で、サファリ(海外名はパトロールだが)に何回命を救われたかは分からないし、共に死線を潜り抜けたことも数えきれない。俺にとって原風景のような車だ。
似たような車であるランドクルーザーには、間違っても乗らない。
豪華一辺倒になってボディが重いし、盗難に遭う事に怯えて乗る車など、実用の足にならない。そして、海外で戦友が帰らぬ人になった際に乗っていたのも、この車を嫌うポイントの1つだ。
観音開きのバックドアを開け、トランクにライフル入り旗竿ケースを、後席ドアを開け、余計な荷物という名の、女子高生を2列目シートに乗せた。
目隠しをした状態で、背の高いサファリに乗せようとして、若干暴れられたため、スカートの中が丸見えになってしまったが、そんな事に動揺する俺ではない。
ちなみに、ピンクだった。それくらい、丸見えだったのだ。
そして、今に至る。
今の時刻は午前2時36分。あれから2時間が経過している。
俺はというと、リビングで、ウイスキーのロックを飲みながら、考えている。“この後、どうしよう? ”と、いう事に対してだ。
目の前のソファには、例の女子高生が寝息を立てている。
ここに到着して、トランクを開けた段階で、既にこの状態だった。その状態で、抱えて2階のリビングまで運び、可哀想だろうと目隠しのガムテープを剥がしたのだが、全く起きる気配がない。
その間、俺は、風呂に入った。仕事の後は、汚れた身体を清める意味で、必ずやっている儀式のようなものだ。
起きていれば、彼女を風呂に入れてやるところだが、その気配もないので困っている……って、よく考えると、もし、始末するとなれば、そんな事をする必要は無い訳で、俺の思考回路は混乱しきっている。
それから30分考えたが、埒はあかなかったし、酒も無くなってしまった。
「考えるだけ無駄か……」
俺は、自分に言い聞かせるように言うと、歯を磨いて寝ることにした。
こんな稼業にいても、体は大切だ。あと30年後も自分の歯で噛める喜びは享受したい。
歯磨きが終わってリビングに戻ったが、やはり、女子高生は目覚める気配がなかった。
俺は、寝室から毛布を2枚出して、1枚を彼女に掛け、もう1枚を自分で被った。
寝室で寝る派の俺だが、寝てる間に、女子高生が目覚めて逃げ出すようなことになったら目も当てられないので、監視の意味も含めて、主義を曲げてソファで寝ることにした。
「失敗……したなぁ」
俺は、噛み締めるように言って、その後に続く「この後、どうしようか」について考えながら眠りについた。
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