殺し屋さんは引退前の仕事で、女子高生の口封じに失敗する
SLX-爺
始まりと生活編
第1話 失敗した男の言い訳はかくも見苦しく
仕事に失敗した……。
いや、正確には仕事の主目的は達成したのだが、詰めに失敗した結果、取り返しのつかない事になってしまったと言うべきか。
2時間ほど前に遡る。
時刻は午前0時20分。俺は、とある雑居ビルの屋上へとやって来た。ここが今日の仕事場だ。
俺は、背負っていた旗竿を立てるケースをフロアに置くと、旗竿に混ぜて入れてある、木製のグリップを掴む。
出てきたのは、愛用のライフルだ。10丁以上ある中でも、最も相性のいいやつで、性能的にはそこそこでも、俺に馴染むので、大事な仕事の時はコレ、と決めている。
風向き、風速を測る。予測通りの数値なので、シミュレーション通りの結果になるとみて間違いない。
時刻を見る。午前0時22分。作戦決行は午前0時32分だ。
俺の名前は、
子供の頃から、コードネームでしか呼ばれていないため、藤井俊哉よりも、フォックスと呼ばれる方がしっくりくる。
年齢は……訊かれるのは好きではないが、答えておこう。42歳だ。
この稼業を続けるには、そろそろ限界ではないかと思い、ギルドに引退を申し出たのが半年前。
そこから引き留め工作に遭い、ようやく、今月までの仕事をこなせば引退……と、いうところまで漕ぎつけた。
今日の仕事は、クスリをキメて、通行人を殺傷しながらも、心神喪失で罪に問えなかった男の処刑の執行と、いうもの。
この手の、害虫の駆除は、もっとも俺の得意とする分野で、受ける仕事は、この分野の仕事オンリーにしていた。
時刻は、0時24分。スコープを覗き、ターゲットの状況を確認する。
決行は、あと8分後、準備は万端だ。弾丸を早めにこめておく。
早く来ないかな、0時32分。最終電車の音に合わせて一発で決める。
個人的に、こんな害虫は、一発で仕留めずに、じわじわと苦しませてから逝かせる方が好みなのだが、依頼者である遺族の意向を酌んで、確実な絶命を使命に、呼吸を整えていた時だった。
“がさっ”
隅の方で、何か音がした。物音というやつであるが、最初にこの屋上に俺がピッキングで入った際には、しっかり見回って、猫1匹いない事を確認したので、きっと落ち葉か、最近すっかり見かける機会の減った、コンビニやスーパーのビニール袋だろう。
一応、確認しておこうと、音のした方に歩いて行った。
……ほら、やっぱり何もないじゃないか、ただのビニール袋だ……と、言うためだけに向かった先で、俺の動きは一瞬止まった。
「……あ……」
目が合った。
そして、思わず声が出てしまった。
誰もいないハズだったその場所には、何故か人がいたからだ。
何故だ? 確かに確認したはずだが……と、思った時、人の後ろに扉の開いた非常階段があった。確かにさっきは施錠されていたのを確認したが……。
「女子高生? 」
人影を見て俺は思った。
人影は、ブレザーにチェックのスカート、胸には赤い縞のリボン、ブレザーの下にはカーディガンを着ている、世に言う女子高生の制服を着て、そこに座り込んでいた。
髪は肩より少し長めで、くせっ毛ではないだろう。ストレートに伸びている。
目は切れ長だが、パッチリしており、整った顔立ちだが、可愛らしい印象を受ける。俺の印象では、これから可愛いから、徐々に美人に移行していくタイプの顔に見える。
と、柄にもなく人物鑑定をして悦に入っていた俺は、我にかえった。
そして、次にしなければならない事を実行に移した。
まずは時計を確認、0時26分。……いかん、貴重な時間のロスだ。
0時30分。
俺は照準を合わせると共に、集中力を高めた。
「ううーー! むうううーー! 」
声が俺の耳を打ったが、無視した。
屋上の手摺に後ろ手に手首を縛り付けられ、口をガムテープで塞がれたさっきの女子高生が、俺を非難の目線で見つめる。
本来なら即、始末だが、作戦行動前に銃声を響かせて、依頼事項を遂行できないようにすることは避けなければならない。
と、なれば取るべき行動は1つだ。
銃声を電車の音にかき消させる本来の仕事を遂行した後、この女子高生を始末する。
筋書きはこうだ。
コイツは、このビルの中で、痴漢に目をつけられて屋上で襲われそうになったが、抵抗したために拳銃で撃たれて殺害された。
殺す前にちょっと、服装を乱れさせて、それっぽく見せるつもりだが、可哀想なので、襟元をちょっと乱れさせるくらいにしておこう。無意味に死者の尊厳を踏みにじるのはどうかと思うからだ。
「うむー! むむーー! 」
集中力をかき乱す声が、さっきからするために、時刻を確認すると0時30分。まだ少し時間に余裕があるため、胸元からベレッタを取り出して、女子高生の額にピッタリつけると、口に人差し指を当てて、撃鉄を引く。
すると、女子高生は静かになったために再び集中する。
只今、午前0時30分57秒。あと、1分3秒だ。
照準を完璧に合わせる。
あと、44秒後に、手筈通りに間違いを装った電話が奴にかかってくる。奴の癖から、電話がかかってくると、窓際に出てくる。
それと0時32分着の最終電車に合わせて、俺が引き金を引けば、この仕事は成功という訳だ。
今日は更にもう1人処分をして帰ればすべて片付く。
若干の余計な動きが生じたが、大きな乱れはなく仕事を終えられそうだ。
0時32分。
最終電車の到着の音に合わせて引き金を引く。
頭に1発、確実に喰らわせて、息の根を止めたことを確認すると、撮影と報告を15秒以内に終える。
今日はここからひと仕事だ。
この小娘を始末しなければならない。
ライフルを仕舞うと、ベレッタを取り出して女子高生の額に当てる。
確実に、且つ、苦しまずに仕留めるには頭が一番だ。
女子高生が、潤んだ目で俺を見るが、情け無用で無視する。
声を出すと即、撃たれると思っているのか、ふぅーっ、ふぅーっ、と彼女の呼吸の音のみが響き渡る。
「悪く思うなよ。楽に逝かせてやるから」
俺は、静かに言うと、撃鉄を引いた。
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■あとがき■
多数の作品の中から、お読み頂きましてありがとうございます。
フォックスに命を狙われた燈梨。蛇に睨まれた蛙……もとい、狐に睨まれたウサギがどうなっていくのか、そして、燈梨とフォックスの成長物語を執筆予定ですので、長い目でお付き合いよろしくお願いします。
★、♥評価、ブックマーク等頂けますと、今後、作品を続けていく活力になりますので、宜しかったら、お願いします。
感想などもありましたら、どしどしお寄せください。
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