着替え②


はぁ〜一日の疲れが取れていくのが分かる。やっぱり風呂はいいな、今度旅行とか行きたいな〜露天風呂がある旅館とかに泊まりたい。今度連休あるしそこで行ってこようかな、でも絶対月夜がついて来るよな……


やばいこのまま浸かってると寝るなこれ、さっさと出て寝よ、明日も学校あるし


湯船から出て風呂フタをした。そして脱衣所に出て入る前に準備しておいたタオルで体を拭く。基本ドライヤーは使わないから風邪をひかないように念入りに髪を拭かないといけない。


月夜に着替え任せたけどなんかなんか企んでるとかないよな?なんか怪し、いやいやこれはただの優しさだ!妹の優しさを疑っちゃいけないよな?うん、優しさだ優しさ


着替えが入っているカゴから服をとる……


「月夜のやつやってくれたな」


急いで着替えを済ませリビングに行くと月夜がソファーにさっきと同じ様に座ってテレビを見ていた。


そして俺が出たことに気づくと体を俺の方に向けて身を乗り出すようにして


「お兄ちゃん出たんだね!」


と嬉しそうに言ってくる。そりゃ自分の作戦が成功したんだ。嬉しくもなるだろう


「月夜さんこれはどういうことかな?」


俺は今来ているTシャツを指さした。そう、月夜が用意した服は俺の知らない服だった。全体的に白い服で正面には赤いハートがプリントアウトされていてその中に妹と大きな文字が書いてあり、

背中の方には[ILOVE妹]と言う文字があった。


「俺こんな服持ってなかったよな?」


もちろんこんな服自分で買うはずがない


「私からのプレゼントだよ!ちょっと待ってね〜」


そう言って月夜は着ていた服を脱ぐとさっきよりも酷い絵面になってしまった。


「じゃ〜ん実は私の分もあるのです!」


月夜の服の下には俺と同じく白がベースのTシャツの正面には、これまた同じく赤いハートがあり、その中には兄と書かれている。無論ここまで一緒なのだ、きっとあの文字も背中の方に入っているだろう。


「月夜、ちょっと後ろ向いてくれないか?」


「なに!?お礼に後ろから抱きしめてくれるあれ!私すごい憧れてたんだよね〜」


「違うけど後ろ向いてくれ」


呆れ気味に言うと月夜は、プクッと頬を膨らまして不満そうにしながらも後ろを向いてくれた。

でも頭にピョコッと生えているアホ毛はブンブンと犬のしっぽのように揺れている。昔から思ってたけどなんだそれ


「はぁやっぱりか」


月夜のTシャツの裏には誰もが想像出来る通り


[ILOVEお兄ちゃん]


と俺と同じようにプリントアウトされている。もちろんそんな服着てる所なんて見た事ない。


「このTシャツ前から買ってあって早く着たかったけどお兄ちゃんと同じタイミングで着れるの待ってたんだよ?」


「そんなの待たなくていいんだぞ?」


「しかも2点セットで安くなってたの!」


「俺が今日以降着るとでも思ってるのか?」


「もちろん!お兄ちゃん優しいから着てくれると信じてる!」


月夜は、目をキラキラさせながらこっちを見てくる。昔からその視線には耐性がない…だけど流石にこれを着るのはちょっと……


ガチャッ


「「ただいま〜」」


最悪のタイミングで最悪の人が帰ってきてしまった。

鍵を玄関に置いてリビングの方に2人の足音が聞こえてくる。


「駅で偶然お父さんとあったから一緒に帰ってきたわ」


「今日はいつもより仕事が早く終わって帰れることになったんだよ」


そんな会話をしながらリビングの扉を開けて入ってきたのは、仕事帰りの母親と父親だ。この母親の軽率な言葉のせいでって今言ってもどうしようもないか……


普通だったら両親が帰ってきたことぐらいで動揺する必要などないのだが今の俺たちの服装は親としては複雑な気持ちになるだろう。でももちろんもう隠す時間なんてあるはずがない。


荷物を下ろして両親がこちらを見ると少し硬直した後に


「あらあら、2人はいつまでたっても仲良しね〜湖月ったら〜ついに月夜の気持ちに答えるようになったの?」


「違うから!」


「え!?違うの!」


「月夜、1回静かにしててくれ」


「湖月、お前大学生にもなって妹とそれは流石としか言えないぞ」


「俺の意志で着てる訳じゃないから!」


俺の両親は意外とノリがいい人だ。だからこの状況にも別になんとも思ってないだろうしむしろ楽しんでいるだろう。だけど息子としてはすごく恥ずかしい……


「お母さん、お父さん、お兄ちゃん酷いんだよ!せっかく買ってあげた洋服もう着ないとか言ってるの!」


おい!この親にそれを言うのはズルいぞ!普通の親だったら「湖月も大学生なんだし、わかってあげてね」とか言うんだろうけどうちの親の場合


「あら〜それは酷いわね」


「父親権限として湖月は家にいる間その服を部屋着にしなさい!」


そう言って父親は俺の方を指さす。


まぁそうなるよね……月夜さん?あなたさっきからニマニマしてるけど後で冷蔵庫に大切にしまってあったプリン目の前で食うからな!覚えておけよ!


「さて!いいものも見れたし、ご飯チャチャッと作っちゃうわね」


「私も手伝う〜」


月夜と母親はキッチンの方に行き晩御飯を作り始めるようだ。


「じゃあお風呂に入ってこようかな、湖月着替え任せた」


父親はそう言ってそそくさとお風呂場に向かった。

なんでうちの家族は揃いも揃って月夜の事を認めちゃうんだよ!しかも何事もなかったかのようにしてるし。


・・・・・・また俺の1人負け?

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