13. 童貞アタックチャンス


 結局、小一時間ほど説教を受けて俺たちは解放された。


「警棒も取り上げられてしまいました」


 塩瀬は残念そうに言った。


 聞くところによると、彼女は俺たちが日焼け止めを塗っている間に、流れるプールを逆走して、不埒ふらちなことをしていたカップルたちをたたき回っていたらしい。それも大きな問題ではあったのだが、塩瀬のハレンチ行為対策に対する正義感溢れる弁舌を聞いて、皆はむせび泣き拍手喝采はくしゅかっさいをした。おかげで俺たちは無事に解放された。


「逮捕されなかっただけ良かった。塩瀬くん、でかしたぞ」


「そうですね。この魔窟を放っておけないという意味では、私たちは同じ船に乗っていると言っても良いでしょう」


「で。次はどこで遊びますぅー?」


「ここです。先ほど監視員の方が言っていらしたのですが、この場所で度重なる変態行為が行われているそうです」


 塩瀬が立ち止まったのはウォータースライダーの前だった。


「ここのウォータースライダーはこの近辺では最大級の大きさです。あまりの長さゆえに、カップルが途中のトンネルで変態行為をしてSNSにあげた動画がバズっているそうです」


「何だそれは。けしからんっ」


「そしてトンネルから出てくる時に、ほぼ真っ裸の状態で出てくるので青少年の育成に非常に良くないと噂になっています」


「それは良くないっ」


「ですので。全裸で出てきたカップルの頭を、スイカ割りのようにこの警棒でカチ割ります」


 塩瀬はおっぱいの間から警棒を取り出した。そうかそこにも隠していたのか。


「というわけで、3人でここの見回りをしましょう」


「嫌ですぅー。こんなクソ暑いところで見張りなんて、ギャルのすることにあらずぅー。せんぱぁい、私と一緒にウォータースライダーを滑りましょー」


「いや、しかしなぁ、塩瀬くんを一人にするわけにも行くまい」


「そうです。小依さん良い加減仕事をしてください」


「中の見回りも必要ですよぉー。ここに3人いたって仕方ないじゃないですかぁー」


 そう言った小依は俺の耳元でこそこそと耳打ちをした。


「もしかしたらぁ、私のポロリとか見られちゃうかもぉー、なんて」


「じゅるり」


 塩瀬を説得して俺と小依で行くことにした。

 情報通り、かなり大きなウォータースライダーだった。流れも早い。出口でポロリを待つと言う手もあったかもしれない。


「見下ろすと、なかなかに風情のある光景だな」


 ウォータースライダーの頂上からの眺めも中々であった。上から尻と乳が見える。新しい発見だ。日本三大名勝の一つに食い込むくらいの景色だ。尻だけに。


「さ、せんぱーい」


 順番が来て、小依は早速射出の準備に入った。2人乗りの浮き輪の後ろに陣取っている。


 俺が前に座ると、小依は監視員の隙を見てぬるりと、俺のゾーンに進入してきた。小依をケツでしいてるみたいな感じだ。


「近すぎる」


「良いんですぅ。おっぱいを枕がわりにしちゃってくださぁい。日々お疲れの先輩のために、出血大サービスですぅ。さぁさぁ」


「こうか……」


「そうですぅー。では、出発ちんこぉー!」


 ふかぁ。


 何だこれは。俺は小依のおっぱいに頭を委ねて、感無量のふかぁを味わった。

 気分はもはやどんぶらこと川を流れる桃太郎であった。目を閉じ水流と、小依のおっぱいに身を委ねていると、後ろから実に楽しそうな声がした。


「それでは。童貞タイムアタックぅーのお時間ですぅー!」


 小依の脚が伸びてきて、俺の股座またぐらの辺りで器用に動き始める。嫌な予感しかない。


「まさか、お前ここでやろうって言うんじゃないだろうな?」


「ここでやらねばいつやるんでしょー。据え膳食わぬはギャルの恥ぃ。チンポチンポのしゅーりんがん。先輩のぽんぽこを当てて出口までに一発発射するタイムアタックのお時間ですぅー。ウェーイウェーイー」


「バカなっ。こんな短時間でできるはずがないっ」


「無理は承知の高楊枝たかようじぃー。それではアタックチャーンスぅ。たまごっち先輩のたまごっちを当てていこうと思いますぅー!」


「やめろぉ」


「ほうれほうれ」


「あああっ」


 ぼろんっ。


 俺は開脚しながら、無様な姿で水流の上を滑走することになった。


「くっ。あああっ。素肌に水流が冷たいっ」


「やぁーん、みぃーつけた♡」


「その脚を退かせっ」


 こんなゲーム紛いのことで男の恥を晒すわけにはいかない。出口では塩瀬が待機している。いきなり全裸の俺が出てきたら、面目丸潰れという他ない。下手すれば頭をかち割られる。


「くそっ。離せっ離せっ」


「ああ。そんなぁおっぱいの上で暴れるとぉー。取れちゃいますぅー。あああ。やあんっー」


 ヒューと俺の横を小依が来ていた上の水着が疾走していった。


 水着が取れただと?


「ビキビキっ」


「わあ。先輩のぽんぽこの海綿体が弾ける音がここまで聞こえてきたぁー。すごぉいー」


「今、どうなっている。説明しろっ」


「先輩はぁ私の生乳の上に、頭をのせていますぅー」


 ビキビキっ。


「それではぁ。小依ちゃんのアタックチャーンスぅー」


「何だそれはぁ」


「クイズに正解すると先輩の心のパネルを開けられる。ビックチャンスですぅー。何番のパネルを開けるか聞いてくださいなぁー。でないと、パンツ元に戻しませんよぉー」


「ちくしょうめ。何番のパネルを開ける気だっ」


「2ばーんっ」


 おっぱいでほっぺたが挟まれる。


「くっ。あああっ」


「これでぇ。縦一列、小依ちゃん一色になりましたぁー。先輩はもうおっぱいのことしか考えらなくなりましたぁー」


「おっぱいおっぱい」


「連続解答チャーンス。次の問題ですぅー。玉は玉でも遊べない玉はなーんだぁー?」


「は? 金玉?」


「正解はお玉ですぅー。小依ちゃん大正解ぃー、金玉は遊べますぅー、ふにふにぃー。というわけでとつげきぃー」


 小依の脚がお玉のところでクニクニと動いた。


「ふああ」


「じゃあ最後の問題でぇーす。下は大火事、上は大洪水。これなーんだぁー?」


「お風呂っ。お風呂っ」


「ぶっぶー。正解はぁ、先輩のぽんぽこさんでしたぁー。やだぁ、股間汁が漏れてスプラッシュマウンテンー、グリグリぃー」


「っ。ぎゃあああああ」


 水流と共に疾走していく。

 真っ暗な空間でおっぱいに後頭部を埋めながら、俺は小依に股間をふみふみされていた。上はおっぱい、下は放水間近の様相だった。


「ダメっ。やめてっ。お願いっ、それ以上足を動かさないでっ」


「何がダメなんですかぁー? ふふふ。ぐりぐりー」


「あっ。あっ。あっ」


「早く吐き出しっちゃってくださいよぉー」


「ぎぎぎ」


「しぶとい童貞さんですねぇー」


 時に思うのは、ウォータースライダーというのはまるで人の一生であるかのようだ。高いところから滑り落ち、ずるずると一瞬で落ちていく。抗えども抗えども、流れに逆らうことはできない。ただ出口が訪れるのを、歯を食いしばりながら耐えている。いっそ流れる水になれたら楽になれたものを。


「ふー、ふー」


「しぶといですねぇ。何がそこまで先輩をき立てるんですかぁー?」


「てっ。てっ」


「て?」


「最初はせめて手が良い……」


「あらぁー」


 光だ。出口が見えてきた。


「まずい。早く隠せっ」


「あらぁ、ざんねーん。小依のタイムアタックしっぱーい。来週のチャンスにご期待くださぁーい」


 間に合わないっ。


「あああっ」


 全裸のまま着水する。


 ざぶんと着水の衝撃に紛れて慌てて水着をつかむ。ギリギリ間に合ったか?

 辺りを見回すと、塩瀬どころか人の姿はほとんどなかった。とっぷりと日が落ちて、他の水浴客の姿は忽然こつぜんと消えていた。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


「きっと全宇宙が気をきかせて、私と先輩の2人きりにしてくれたんですよぉー」


 浮かび上がった小依がザバアと抱きついてくる。


 生乳だった。


「あっ。何してる。水着はどうしたんだ」


「先輩が脱がしちゃったんじゃないですかぁー、もう。覚えてないんですかぁー?」


「刺激が強すぎる。ぶふう。ぶふう」


「二人っきりのプールで水中変態しちゃいましょー。最初はぁ、手が良いんですよねぇー?」


 水中で小依が俺の股間を弾く。


「ああっ」


「ふふふ。もう準備万端」


「くっ。離れろぉ」


「誰もいないから本番までやってしまっても構わんですよぉー。初体験は水中って言うのも童貞の先輩らしくて、キュンキュンですぅー」


 小依が俺の股間に再び手を伸ばしたその時、彼女の背後から塩瀬が現れて後頭部をぶん殴った。


 目を回した小依が水面にぷかあと浮いた。


「まだ仕事は終わっていません」


「塩瀬くん……」


「ここから本番です」


 その声を合図にしたのかのように、パチンと照明が切り替わっていく。 

 プールの雰囲気がどんどん変わっていく。まるで夜のネオン。歓楽街の様相を呈してきていた。


「どうしたんだ。どうして人が消えている?」


「ここにはもう健全な人間はいません。一定の年齢を超えない限り、この空間では生きていけないのです」


「入場制限? そんなバカなことがあるか。公共の場所だぞ」


「それがあるんです」


 ぼんやりとしたライト照らされる塩瀬の身体は、いつもより妖艶ようえんに見えた。 


「これが世に言う伏淫魔殿ふくいんまでん……ナイトプールです」


 紫やピンクの照明に照らされる裸同然の若い男女たち。


 そこには見るからに不埒ふらちな空間だった。

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