9. 女子更衣室


 ややメンタル面に不安はあるものの、俺は復学することができた。おっぱいに挟まれると乳児期逆行現象は起きてしまうが、学校内に置いてそんな場面は早々あるまい。


「珠木委員長がいない間に、校内の不純恋愛はますます進行が進んでいっています」


 クイッとメガネをあげて塩瀬牡丹は言った。


「この2週間だけで不純恋愛によって退学者が3人、停学者が2人出ています」


「由々しき自体だな。今は世紀末か?」


「3人ってどゆことですかぁー?」


「3人で行為に及んでいたということです。にわかには信じがたいことですが」


「うわぁ、エッロぉー」


 ゲラゲラと笑いながら小依をバンバンと机を叩いた。全く品性がない。こいつめ、おっぱいに常識を吸い取られてしまったのか?


「見回りを強化せねばなるまい」


 童貞率の低下はすなわちモラルの低下だ。安定した学園生活を送るためには童貞の存在が必要不可欠だ。この世の終わりのような事態を解決するためには、やはり風紀委員長である俺が動かなくてはいけない。


「よし、早速今日からだ。不純恋愛行為が発見された場所はどこだ?」


「3人の停学者が出たのは女子更衣室です。野球部のマネージャーと部員2人が変態行為に陥っています」


「けしからんっ。けしからんっ」


「しかも何者かが室内にカメラを設置していたということで、闇サイトにあげられていた映像をPTAの会長が発見。通報に至っています」


「ガサ入れもせねばならんということか。大仕事だ」


「うっしゃー」


「お前は来るな」


 立ち上がろうとしたギャルを静止する。


「どうしてぇー」


「お前に背中を預けられんということだ。お前が俺にしたことを絶対に許さないからな」


「それは否定できないですけどぉー。エロあるところにギャルありぃー。私がいなければ何も始まりませんよぉー。無理にでも付いてきますぅー」


「ふん。そう言うと思って、もう貴様は拘束した」


「あれっ。いつの間にぃ」


 じゃらりと自分の手についた手錠を見て、小依は目を丸くさせた。

 前回までと同じてつを踏むわけにはいくまい。先手必勝。もう乳首もおっぱいも使わせない。


「やーん。離してぇ。離してぇ。ここから私にエッチなことをするつもりなんだぁ。このわがままボディを好き放題しちゃう気なんだぁ」


 エッチなこと? 好き放題?


「じゅるり」


「委員長。行かないのですか」


「あぁ、そうだったな。あばよ。変態ギャル」


「わーん、二人で勝手にエッチなことしたら許しませんからねぇー」


「するか。バカァ」


 更衣室へと見回りに言った俺と塩瀬牡丹はロッカーに閉じ込められた。


「むぐむぐ」


「委員長。静かにしてください。しっ、静かにっ」


 どうしてこんなことになっている?

 更衣室のロッカーに女と閉じ込められるなんて清純な学園生活にあってはならないことだ。もはやエロ漫画だ。頭空っぽにして夢詰め込めるエロしか取り柄のない漫画。だがそれが良い。


 しかも相手は俺の理想とする女性の塩瀬牡丹だ。あの変態コギャルの下品なおっぱいとは違う、制服の下に隠匿された神秘の的なおっぱいの片鱗が今、俺に当たっている。


 神は俺に何を試している?


 ばぶうしろと? このモチモチした白い肌をお揉みしてしまってもよろしいのですか?


 しかし揉めば最後。その先はない。ここで幻滅されてしまっては塩瀬牡丹と砂浜で追いかけっこする夢は霧散してしまうのだ。


 ばぶう。


 当の塩瀬牡丹は平然としている。ロッカーの隙間から外の様子をのぞいていた。


「こんな夜更けに男女が2人、とても怪しいです」


 言ってしまえば俺たちもそうだが。あ、肩のところにおっぱいがむぎゅうむぎゅうしてる。


 そして塩瀬が言った通り、部活終わりと見られる男女2人が手を繋いで何やら話し込んでいる。とても仲むつまじげだ。


「彼女たちは変態でしょうか?」


「そうかもしれんな。突入しよう。突入しちゃうか」


 触れているのはおっぱいだけではない。この狭いロッカーの中で塩瀬の髪も服も脚も腕も触れている。ああ、スカートが股のところで擦れておるぞ。


 ばぶう。ばぶ。


 もうひとりのぼくも囁いている。まだ病み上がり。これ以上、正気を保っていられない。


「まだです」


 俺に意に反して塩瀬は踏みとどまった。


「もう少し待ってください。まだ彼らが変態と決まったわけではありません。もう少し待ちましょう」


「現行犯逮捕したいという訳だな」


「はい。ですのでこのまま監視を続行します」


「分かった」


 グオオオオオオオ。


 この無自覚エロスめぇ。俺が正気を保っていられるのも今の内だぞぉ。大丈夫かぁ。大丈夫なのかぁ。


 しかし自分から抜け出すにはあまりに惜しい。五感の全てが塩瀬に持っていかれている。塩瀬風呂と命名しよう。くんくんはあはあ。良いなあ。良い匂いがするなあ。


 ぶう。ぶう。ばぶう。


 扉の外では徐々にイヤらしいことが進行していた。


『ちょっと、どこ触ってるのぉ』


『良いだろ。誰もいないんだしさ』


『あっ。んっ。ちゅ……♡』


 即落ちぃ。

 ベロチューまでし始めたぞ。女の方も満更ではなさそうだ。なるほど、世の中のいやらしいことと言うのはこの様に進行していくのか。


 眼福がんぷく。眼福。

 普段なら凝視しつつ最後までやり遂げるとこまで見届けてやるのが筋だが、こっちにだって事情がある。俺だって塩瀬と『良いだろ誰もいないんだしさ』『あっ、たまきいいんちょっ、だめですそんなところ。ちゅ……♡』なんてことをやってみたいではないか。


 ぐっへっへっへっ。


「もう良いだろ。突入しよう」


 全ては未来のために。

 このまま永遠に塩瀬風呂に浸かっていたいという願望はあったが、浸かり過ぎてのぼせてしまっては話にならん。お風呂から上がってからが本番だ。 


 だが、俺の意に反して塩瀬は踏みとどまった。


「まだです」


「まだなのか!?」


「はい。あれはただの接吻せっぷんです。変態行為ではありません」


 どこまで見る気なんだ?

 そうこうしている間にも俺の理性は限界だった。ああ、揉みたい。その俺の肩のところに触れているおっぱいを揉みたい。さぞ柔らかいのだろうなあ。ふにふに。


「ばぶう」


「委員長?」


「い。いや何でもない」


 何でもなくはない。

 この風呂。ただの風呂ではない。石川五右衛門も真っ青の釜茹で。このまま塩瀬に包まれて、茹で汁ごと溶かされてしまった方がどれだけ楽だろうか。ああっ、動かないで。太ももがおピンピンに触れているでござる。


 塩瀬がハッと息をついた。


「男子生徒が女子生徒のスカートの下をまさぐり始めました。変態行為発見!」


「突入するでござる?」


「突入します!」


 塩瀬がガチャガチャと金具をいじり始める。


 よく頑張った俺の理性。感動した。合法的に塩瀬と一緒にロッカーに入ることができたし、何だかんだ人生で一番幸運な日だったかもしれない。悔いはない。


「あれ? あれ?」 


 塩瀬が首を傾げた。


「どうした?」


「服が引っかかって、扉が開かないです」


 ばぶう。

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