8. あえぎ声当てゲーム


【あえぎ声当てゲーム】


 ①目隠しをする。


 ②エッチなビデオを再生する。どちらかが清楚系女優でどちらかがギャル系女優が出演している作品。


 ③どちらの声かを当てる。3問全問正解で俺の勝利。


 小依がルールを決めた瞬間、俺は自分の勝利を確信した。バカめ。出題される問題は俺のHDDにある動画。分からないはずがない。


「それほど清楚にこだわりのある先輩だったら、セリフを聞いただけで分かるはずですよねぇ」


「当然だ」


「じゃあ始めますよー」


「いつでも来い」


「第一もぉん!」


 カチッとクリック音がして女の声が聞こえてきた。


『やー、すごぉい。このバナナぁ、シュガーポットがたくさんあってぇ。食べ頃ぉ食べ頃ですぅ』


 なるほど。

 簡単過ぎる。俺をバカにしているのか?


「さあどうです?」


「楽勝だな」


「へぇ。自信満々ですねぇ。正解はぁー?」


「清楚だ」


 タイトルも当てられる。『真面目系植物女子のバナナ取り放題やりまくり』だ。ちなみに今のセリフは動画の最後のシーンで、すでに清楚性が喪失されつつあるので、品性のないセリフ回しになっている。


「話にならん」


「きゃー、かっこいいー。じゃあ、第二もぉん!」


 カチッとクリック音がして女の声が聞こえてきた。


『あー、なにかきてる、きてるよぉー、りにあっ、りにあっ、りにあっもーたーかーでっ、おおさかからぁとうきょうまでぇ、いちじかん、はぁーん(ぷっしゃあああ)』


 なるほど。なるほど

 これまた回答者である俺を愚弄ぐろうした問題だ。


「清楚だ」


「わぁー、すっごぉい。どうして分かったんですかぁ」


「バカにしているのか? こんなセリフがあるのは『新幹線のトイレでやっちゃう乗り鉄オタっ子。時速353キロメートルの結合』しかないだろ?」


「へぇ。さすがむっつりスケベェ」


「清楚マイスターだ」


「じゃあ最後の問題、行ってみましょっかー」


 負ける気がしない。


 カチッとクリック音がして女の声が聞こえてきた。


『あっ、こんな、みけらんじぇろさまのどうぞうの、まえでぇーこんなはしたないすがたぁ、あぁ、あぁっ。わっ、わたしっ、このままだとっ、るねっさんすしちゃうぅうううう(ぶっしゃああああ)』


 余裕。

 タイトルも分かる。『清楚な美術部員、彫刻に囲まれてルネッサンスしちゃう2時間半』だ。


「どうです?」


「全く。勝負にならないな」


「分かるんですか?」


「当然だ。答えは……」


 清楚だ、と言おうとすると、小依がわざとらしく大きな声で言った。


「わあぁー。困ったなあ。先輩が勝ったら、もう童貞奪えなくなっちゃうぅー」


 なんだと。

 この問題に成功したら、この女は俺の童貞を奪いに来なくなる? 


 となると俺はもう生意気だが確かな実力があるおっぱいをもう拝めなくなってしまうのか。あのおっぱいを揉みしだきたいと言う気持ちを永遠に捨てることになるのか?


 それで良いのか、珠木司。


「せ、せ、せい……」


「どうしたんですかぁー? 先輩?」


「せいっ、せいっ」


「せい?」


「くっああああああああ」


 すでにこの女の術中にいた。


 単なるゲームではない。俺自身を問われている。試されていたのは知識ではなく、さらに深い知性、さらには倫理観そのものを問う問題だ。


 俺は自分が今まで小依の手のひらに転がされていたことに、ようやく気がついた。


 俺が相対してたのは単なる子ギャルではない。人の皮をかぶった悪神に近い何かだ。


 そして敗北を悟った瞬間、もう隙はできていた。


「どうして何も言わないんですか? 先輩?」


「なっ」


 叫ぶ暇もなく、服の下に小依の手が伸びてきていた。俺の乳首をコリコリとつまみながら耳元で囁いた。


「早くう。答えを言ってくださいよぉ」


「くっ、あっ、あっ」


「どっちですかぁ。清楚ですか? ギャルですか?」


「あっ、あっ、あっ。せい、せいっ」


 言えぇ。

 言ってしまえば俺の勝ちだぁあ。


「せいっー」


「えいっ」


 強い力でギュッとつままれた。


「あっ、ああっ、あああっ」


「ダメですねぇ。ちゃんと答えを言ってくださいよぉ。清楚ですか? ギャルですか?」


「あっ。あっ。ぎゃ。ぎゃ」


「ん?」


 勝てない。


「ギャル」


「もっと。大きな声で」


「ギャル。ギャルだぁあああああ」


「ぶっぶー。正解はぁ、清楚ちゃんでしたぁ」


 あと一問なのに残念でしたねー、とクスクス笑いながら、小依は俺の乳首をつまむをやめなかった。


「あっ、あっ。やめっ、やめっ」


「先輩は本当に乳首が好きなんですねぇー」


「うっ、はっ、はな、せっ」


「やめませぇーん。勝負に負けたのは先輩ですよぉー、というわけでぇ」


 どーん、と小依は俺の肩におっぱいを乗せて、顔を挟んだ。


「おっぱい板挟みの刑ぃー」


「ぐおああああ」


「どうです? さっきよりも敏感に感じるんじゃないですかぁ?」


「くっあああ」


 い、け、な、い。


 記憶が。封印した記憶が流れ込んでくる。


「あ、あ、あ」


「また可愛い先輩見せてくださいよぉー」


「嫌だっ。だれかっ、たすけてっ」


 ——————お母さん。


「くっあああああ」


「お?」


「……ばぶう」


「あららぁー」


 嬉しそうに拍手をする音が聞こえた。


 俺は目隠しをしたまま、おっぱいに挟まれたばぶう。ぶう。


「ままっ、ままっ」


「あらあ。元気になっちゃってぇー。どうです? おっぱい気持ち良いです?」


「ふあーん。ふあーん」


「上機嫌でちゅねー。よちよち」


「おかーさんっ。おかーさんっ」


「はぁい、私がママででちゅよー」


 ばぶう。ぶう。ぶうう。おぱおぱ。ばぶ。ぶうっ。ぶうっ。ばぶう。ばぶばぶ。ばぶうっ。


「にぃに?」


 ばぶう?


 この声は妹?


 なぜだ。ミキちゃんの家に行ったのではなかったのか?


「にぃに。どうしたのっ。その人、お母さんじゃないよっ」


「はぁい。先輩の妹ちゃーん」


「誰なのっ」


「誰ですかねぇ。せんぱぁい」


「ままっ、ままっ」


「ですってぇ」


「その人、お母さんじゃないよっ」


 頬にパチンと妹の平手打ちを受けて正気に戻る。


「あ。ああ。知っている」


「何してるのっ。後、エッチなビデオ見るときはちゃんとヘッドホン付けてって言ったよねっ」


「ごめんっ。ごめんっ」


「バカにぃに!」


 バタンと扉がしまった。


 小依が俺の耳元で囁いた。


「続けます?」


「……もう帰ってください」


 帰ってもらった。

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