第120話 私の幼馴染

 私、星川明里はアイドルを目指す、どこにでもいる平凡な女子高生だった。

 でも、ひょんなことから親友のカノッチ――愛乃花音と供にイヴィルダークという組織と戦うことをラブリンという妖精にお願いされた。

 戦い方なんて分からないし、戦うことは怖かった。でも、私が戦うことで少しでも多くの人の笑顔を守れるなら力になりたいと思い、私は戦うことを選んだ。


 さて、そんな私には幼馴染がいる。

 名前は悪道善喜。私はあっくんと呼んでいる。


 あっくんのことを一言で表すならバカだ。

 でも、悪いバカじゃない。猪突猛進と言ってもいいかもしれない。これと決めたらそれに向かって真っすぐ突き進む。

 それがあっくんだ。


 あれは私が中学二年生の頃だったと思う。

 私はいじめを受けた。

 丁度その頃から私が男の子に可愛いと言われることが増えて、女の子たちは私に嫉妬していた。

 そんな中、私が当時いじめをしていた子たちを注意したことがきっかけで私へのいじめは始まった。


 毎日、毎日、教師や男の子たちにバレないように陰湿に、そして継続的に私へのいじめは行われた。

 下駄箱には虫の死骸が入れられ、カバンの中には悪口を書かれた紙が入れられた。

 陰口を言われ、意図的に廊下でぶつかられた。


 多分、大人からしたら可愛いものだと思えるくらいの嫌がらせかもしれない。でも、当時の私にとってはその日々は辛くて苦しいものだった。

 

 だけど、心配はかけたくなくて両親にもあっくんにも言わなかった。誰にもバレていないと思っていた。あっくんが時々「大丈夫か?」と聞いて来たけど、その度に私はいつも通りの笑顔を振りまいた。

 でも、あっくんは気付いていた。


 ある日、突然今まで私にいじめをしてきた子たちが私に謝ってきた。

 突然のことに、驚いちゃったけど、その子たちの顔に涙が浮かんでいて、その子たちが必死なことが伝わってきたから私はその子たちを許した。

 その日、あっくんは職員室に呼ばれていて一緒に帰ることが出来なかった。


 後になってから、あっくんがありとあらゆる手段を使って、私へのいじめを止めたということを知った。

 当時の中学の先生は、


「あいつが泣いている女の子数人を連れて職員室にやって来たときは驚いた。だが、俺は怒るに怒れなかったよ。俺たちが助けられなかった星川明里をあいつは助けたんだから。星川、あの時はすまなかった。いい幼馴染を持ったな」


 苦笑いを浮かべながらそう言っていた。


 その時のことをあっくんに尋ねると、あっくんは恥ずかし気にそっぽを向いて、


「か、勘違いすんなよ! 本心から笑ってない星川を見たくなかっただけだからな!」


 そう言っていた。


 嬉しかった。

 言葉には出さなかったけど、本当は助けて欲しかった。誰かに、気付いて欲しかった。

 思いは言葉にしなきゃ伝わらない。だけど、私とあっくんの関係なら言葉はいらないんだ。そう思えた。

 

 だけど、私には一つだけ不安なことがある。

 それは、私の存在があっくんを縛っているんじゃないかってことだ。


 幼馴染の私はそこまで思わないのだが、周りの女の子曰くあっくんは付き合う相手として悪くないらしい。寧ろ、魅力的な部分が割とあるのだとか。

 あっくんに告白をしよっかなーと私に言ってきた子もいる。

 でも、あっくんはあんまり他の女の子を見ない。


 あの日、あっくんの両親が亡くなった日から、あっくんは私のために生きているように見える。


 だからこそ、あっくんにだけはイヴィルダークという組織と戦っていることを知られたくなかった。

 それを知れば、あっくんは必ず私のために自分の身の安全を顧みずに行動すると思ったから。


 あっくんはそろそろ自分の幸せを考えるべきだと思う。この世の中には素敵な女の子がたくさんいる。

 かのっちもそうだし、クラスの中にもチラホラいる。


 あっくんに彼女が出来れば、あっくんも自分のことを大切にするようになるはずだ。

 少なくとも、私のために自己犠牲をすることは無くなるだろう。

 それに、あっくんに彼女が出来たからといって私とあっくんの関係性が途絶えるわけじゃない。


 大切なことは、あっくんにとって大切な人を増やすことだ。あっくんにとって、大切な人が増えて、あっくんを支える人が増える。そうなれば、きっとあっくんは私が傍にいなくても笑顔で生きていけるようになる。


 それが今まで私を助けてくれたあっくんへの、私なりの恩返しだ。

 


***



「俺が好きなのは、誰よりも可愛くて、笑顔が素敵な女の子。星川明里、お前だ」


 あっくんが私を見ている。

 夕陽に照らされた顔は、何故かいつもより大人っぽく見えてかっこいい……じゃなくて!


 え?

 今、あっくんは何て言った?

 あっくんの好きな人は、私? 


 頭の中がぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。

 だって、私はアイドル目指してて誰とも付き合うつもりはないって予め公言してる。

 それにあっくんは私のことを女としてというよりは家族みたいな存在だと思ってるはずだ。

 じゃなきゃ、あっくんの家で私が無防備になっているのに手を出してこないことに説明がつかない。


 と、とりあえず返事した方がいいのかな?

 でも、あっくんは好きだって言っただけで、もしかすると異性としての好きじゃないのかもしれない。


 う、うん! きっとそうだ!


「も、もーあっくんは紛らわしいなー。私が聞いた好きな人っていうのは、異性として好きな人ってことだよ。ライクじゃなくて、ラブの方だよー」


 笑いながらあっくんの顔を見る。

 あっくんは真剣な表情で、真っすぐ私の顔を見つめていた。

 その目にドキリと心臓が高鳴る。


「ああ。だから、俺は星川明里を愛してるって言ったんだ」


 あっくんの言葉に顔が熱くなる。あっくんの顔が見れない。

 心臓の鼓動がやけに大きく聞こえて、時間の流れがここだけゆっくりになったかのような感覚に襲われる。


 告白されることには、正直慣れている。

 でも、こんな感覚は初めてだった。


「あ、う……え、えっと……」


 言葉が上手く出てこない。

 あっくんに何と伝えたらいいんだろう。


 私が返答に困っていると、あっくんがゆっくりと口を開く。


「急に言われたらびっくりするよな。でも、俺は本気で星川のことが好きだし、いつかは結婚だってしたいと思ってる」


「け、結婚!?」


「ああ。子供は五人は欲しい」


「こ、子供!? 五人も!? セ、セクハラだよ! やっぱりあっくんは変態だよ! ば、バカー!!」


 そう言って私はあっくんに背を向けて走り出す。


「あ、ちょっ! 星川!!」


 あっくんが私の名前を呼ぶが、振り返らずに急いで家へ帰る。


 セクハラと言ったが、本気でそう思ってなんていない。

 ただ、これ以上あっくんの真剣な顔を見てたら心がどうにかなってしまいそうだったから、逃げる口実が欲しかっただけだ。



 家に着いた私は、「ただいま」も言わずに、二階に続く階段を駆け上がり、自分の部屋に入る。そして、そのままベッドに身体を投げ出してうずくまる。



「あっくんはただの幼馴染、あっくんはただの幼馴染……」


 今も尚ドキドキと高鳴る胸を押さえて自分に言い聞かせる。

 アイドルを目指す私は、きっとあっくんと付き合うまでたくさんの時間がかかる。

 それよりも、あっくんは他の素敵な女性と付き合って早めに結婚した方が幸せになれるはず。


 それに、私にとってあっくんはただの幼馴染だ。

 今までも、これからも……。


 なのに、なのに、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう。



***********


 いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!

 楽しみにして下さっている方々には申し訳ありませんが、今回から更新頻度を二日に一回にさせていただきます。


 現在、「惚れっぽい男の俺が学年一の美少女に恋をした結果」という作品を更新しておりますので、よろしければそちらの方も読んでみてくださると嬉しく思います。

 

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