第67話 水着回

『さあ、少しの休憩を挟んで女神祭のセカンドステージです!』


 アナウンスの言葉に観客たちが沸き上がる。

 それもそうだ。セカンドステージでは、イリス様たちの水着姿が拝めるのだから。


『セカンドステージでは水着姿を披露してもらいます! 美しいそのスタイルと、自ら選んだ水着のセンスが露わになります! 順番は星川さん、愛乃さん、前野さん、白銀さんで行きます! そして、今回も彼女たちを審査する審査員を紹介します!』


 アナウンスの言葉と供に壇上に三人の男の姿が現れる。


『一人目はこの方! 夏場はとりま海でナンパっしょ! 難波なんば|!』


「俺という名の海に溺れな!」


 日焼けした肌に金髪の男が椅子に座る。


『二人目はこの方! 本能に忠実! まさに男の中の男! オスの中のオス! 江口!』


「堪能させてもらう」


 二人目の男は修学旅行初日の夜に、男子を扇動したあの江口だった。


 やべえ。あんな奴に審査員を任せたらイリス様たちの美しい肌が汚らわしい視線にさらされてしまうぞ!

 ……いや、冷静に考えたらこの学園の殆どの男子が江口と大差ない奴らだわ。修学旅行で覗きしようとする奴らだし。


『三人目はこの方、美術部部長の光曽ピカソさんです!』


「ん~! 私の芸術魂を燃え上がらせるような熱く美しい姿を見られることを楽しみにしていますよ」


 三人目はベレー帽を被り、筆を持った男だった。


『以上の三人にお任せします! それでは行きましょう! 一人目は星川さんです!』


 アナウンスが場内に響き、外套を身に付けた星川がステージの中央にやって来る。

 笑顔を振りまきながら歩く姿は、芸能人の様に輝いて見えた。

 ステージの中央に立った星川は、深呼吸を一つしてから、外套を脱ぎ去った。


「「「うおおおお!!!」」」


 星川の水着姿が露わになった瞬間、歓声が沸き上がる。

 星柄の入ったビキニタイプの水着。艶とハリのある健康的な肌が非常に良い。

 何といっても、サイドテールに纏めている髪がより一層星川の明るさを強調していていい。腰に浮き輪を持っているのも非常にポイントが高いと言える。


『これは美しい! さて、審査員の方々の反応はどうでしょうか!?』


「君と言う名の海に溺れちまったぜ……」

「眼副だ……」

「素晴らしい! その姿はさながらヴィーナス!! 彫刻にしたいよ!」


『これは高評価です!! 素晴らしい水着姿をありがとうございました! それでは、星川さん一言お願いします』


「みんなー! この夏は誰にする?」


「「「アカリーン!!」」」


「ありがとー!!」


 パフォーマンスも完璧にこなし、星川は笑顔でステージを後にした。

 流石は星川。観客たちを乗せるのも上手い。


『それでは次に行きましょう! 続いては愛乃さんです!』


 アナウンスの言葉が響くと、今度は外套を身に付けた愛乃さんがステージ上にやって来た。

 愛乃さんは少し恥ずかしそうにしていた。


 ステージ中央に立ち、愛乃さんが外套を脱ぐ。


「「「ふおおおお!!!」」」


 そして、愛乃さんの水着姿が露わになる。

 星川と違い、露出が少なめの桃色が主体のワンピースタイプの水着。アクセントとして添えられたリボンが可愛らしい。

 子供っぽさもどこか拭いきれないが、だが寧ろそれが愛乃さんの女の子らしさを高めていた。


『星川さんとはまた違うタイプ! 審査員の方々の反応はどうでしょう!?』


「俺と一緒に恋という名の波に乗らないか?」

「はあ……はあ……ぺろぺろしたくなるぜ……」

「決めたよ。君は水彩画にしよう。それが君の純朴さを最も表現できる」


『これは高評価! 非常に高評価です!』


 アナウンスの言葉に歓声が沸き上がる。


 いや、待て。やばい奴いただろ。

 明らかに犯罪一歩手前のやついたんだから見逃すなよ。


 当然ながら、そんな俺の心の声が届くはずもなくステージは滞りなく進んでいく。


『では、愛乃さんから一言お願いします!』


「ははは……少し恥ずかしかったです」


 苦笑いを浮かべながら愛乃さんはそう言ってステージを後にした。


 星川もそうだが、愛乃さんも可愛らしかった。こうして他の人の良いところが見れる機会というのは中々に無い。


『さあ! セカンドステージも後半へ! ファーストステージでは素晴らしいお弁当を披露してくださった前野さんの登場です!』


 外套を着た前野さんがゆったりと、静かにステージの中央にやって来る。


 タマモは男を魅了する素晴らしい身体を持っている。あいつのことだ。どうせ露出を極限まで増やした扇情的な水着で来るだろう。


 ステージの中央に立ったタマモが薄ら笑みを浮かべる。

 そして、外套を脱ぎ去った。


「「「な……!!」」」


 前の二人と違い歓声が沸き上がらない。

 全員が唖然とした表情を浮かべていた。それくらい、タマモは露出の少ない水着を着ていた。

 本当に大事なとこだけを隠した紫色の布。一人だけ、次元が違った。


「あら、反応してくれないの?」


「「「ふおおおおおお!!!」」」


 タマモの言葉から少し遅れて今日一番の歓声が沸き上がる。


「や、やべえ! 何だよあの格好!」

「エロすぎるって! 高校生とは思えねえよ!」


 観客たちも皆興奮を隠せていないようだった。


 予想通りではあった。だが、観客たちの反応は予想外だった。

 いや、俺の考えが甘かったんだ。男子高校生はまだ子供。美しい女性の身体を見れば、興奮するのは当たり前だったんだ。


『こ、これは凄い! 審査員の方に話を聞いてみましょう!』


「……くっ! ダメだ……この俺でも、この波は高すぎる。美しすぎて、乗り切れねえぜ……」

「エロ過ぎて、逆に何も出来ない……!」

「悔しいが、今の私じゃ彼女のエロティシズムと美しさを表現することは出来ないっ!!」


『な、何と歴戦の審査員の方々でさえ手が出せないと言うほどの美しさ! 前野さんはファーストステージに続き、またしても会場の空気を独り占め!!』


「「「タ・マ・タ・マ! タ・マ・タ・マ!」」」


 会場に鳴り響くタマタマコール。

 その中で微笑むタマモ。


 やられた……! 会場の空気は完全にタマモ一色。これでは、タマモ以外の印象は消えたも同然だ。


「ふふふ。私以外に魅了されちゃダメじゃない」


 タマモはそれだけ言い残してステージを後にした。

 タマモが出て行った後も依然として続くタマタマコール。


『皆さん落ち着いてください! 落ち着いてください! あああ! 落ち着けごらあ!!』


 怒声がアナウンスから聞こえるが、観客たちはそんなことはお構いなしにコールを続ける。

 そんな中、最後の一人であるイリス様が静かにステージの中央に立つ。


 こんな状況じゃイリス様の水着なんて誰の印象にも残らねえ……!!


『ああ! とりあえず白銀さんです! どうぞ!』


 アナウンスもやけくそになっている。

 そんな中、イリス様は恥ずかしそうに頬を染めながら外套を脱いだ。


「まじか……」


 思わず口から言葉が漏れる。

 その場にいた全員が同じ思いを抱いたのだろう。

 さっきまでの歓声が嘘のように、沈黙が広がっていた。


 イリス様が身に付けていた水着は……紺色のスクール水着だった。

 やっべ……鼻血出そう。


「ブハァ!!」


 誰もが喋れずにいる中、審査員の一人である江口が鼻血を出して机の上に突っ伏す。


「ブッ!」

「カハッ!」


 それを皮切りに会場中に続々と鼻血を出して倒れる者が現れる。


『こ、これはどういうことでしょう!? 一体何が起きているのか!?』


 司会も会場中の人間も混乱している中、光曽が呟く。


「変態を殺す水着ですね」


 光曽の言葉に、もう一人の審査員の難波も頷く。


「スクール水着にエロさを感じる変態はこの世界に数多く存在する。だが、それはあくまで夢の中。変態たちの妄想に過ぎない。現実でスクール水着を着る高校生何て、今どきいない。少なくとも、俺はこういう大多数の人に見られる場面でそれを着る人を見たことは無い」


「もし、仮にそれを着る人がいたとして、そいつは相当計算高い女か、純粋すぎる女だけ。そして、白銀さんの反応を見る限り前者はあり得ない。考えられるのは後者だ」


 難波の言う通り、イリス様は何が起きているのか分からずうろたえていた。


 な、何故イリス様はスクール水着なんてものを!?


「失礼、白銀さん。あなたは、何故スクール水着を?」


 光曽がイリス様に問いかける。


「え……? だって、スクール水着だし、学校で水着って言ったらこれが正装じゃないのかしら?」


 さも、それが当然であるかのようにイリス様は言い放った。

 イリス様が「違ったのかしら……?」と首を傾げて瞬間に、光曽が鼻血を出して倒れる。


「光曽!」


「ふふふ……。見えたよ……新たな芸術……過去の偉人たちに習い裸の女性を描くのが芸術とは限らない……。スクール水着こそ、現代を象徴する芸術……」


 駆け寄る難波に、光曽は満足そうな笑みを浮かべながらそう言った。


「光曽……そうか。お前は、漸く自分の芸術を見つけたんだな……。ぐっ……ちっ。数々の女性の水着姿を見てきた俺も限界みたいだ。待ってろ光曽、江口……俺も、今逝くよ」


 ブシュッ!


 ステージ上で飛び散る鮮血は鮮やかで、その場にいる観客たちの目を、心を奪った。

 最後の審査員の難波もまた、鼻に真っ赤な華を咲かせ、気を失った。


『け、決着! じゃありません! 終了! 終了です! 気を失った人を速やかに搬送してください! それと、ステージにタンカを三つお願いします! セカンドステージはこれで終わり! ファイナルステージにご期待ください!!』


 アナウンスが響き、慌てて人が動き出す。

 ステージ上に一人残されたイリス様は唖然とした表情を浮かべた後に、慌てて倒れた江口たちに駆け寄っていた。

 そして、自らに近づくイリス様を見て江口は更に出血量を増やした。


 最早、殆どの人がタマモよりもイリス様の水着による事件しか頭に残っていなかった。


 三人の男を一発KOするなんて……。

 流石はイリス様! 常人じゃ、その凄さは測りきれねえぜ!

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