Episode43

 事前情報としてあるのはディエドスタさんとウォードマンさんが同期だということ、ふたりが幼馴染であること、そうして管理局から依頼を引き受けてくるなかで意図的に討伐依頼を減らしているのではないかという疑惑があること。


 本命は最後の一件のことを引き出すことだけど、なにか使えるものがあるか見つけていこう。


「私はディエドスタです。ここのオープニングスタッフとして働き始めたからもう5年かな。隣にいるヴィエラとは長い付き合いになります。受付の仕事にはもう慣れていますけど、たまにミスはあるかもしれないです」


「本当に長いことここに貢献してくださってありがとうございます」


「いえ、私は別になにかしたわけではないので」


 本当にね。なにかしてくれていたらそれだけで助かったんだけど、その片鱗すら見えないんだから困ったものだ。


「ディドスタさんは受付の仕事のなかで依頼を持ってくることも含まれていますよね。5年もそれを併せ持ってもらっていることになにか不満はありますか?」


「うーん、まだ若いので体力があるうちに働けたらそれで十分ですね」


「そうですか。わかりました」


 まあ、不満は出さないわな。これまで一切目立たないようにしてきていたわけだし。


 ただ、ウォードマンさんとの付き合いの長さが出た。次にそこを聞くことができるのは良い収穫だ。


「じゃあ、最後になりますがお願いします」


 僕の正面に座る女性。ディエドスタさんとどちらが力を有しているのかはわからないが、まるで緊張していない面持ちを見れば、メンタルの強さはそれなりのものだろう。


「どうも。名前はもう出ましたけれど、ヴィエラ・ウォードマンです。私もここが出来たときから一緒に働いています」


「ディエドスタさんとは同じ故郷なんですよね?」


「まあ、そうですね。年齢の同じなのでランが言った通り、仲良しですよ。それがなにか問題でもありますか?」


「いえ、勤務中の態度でここはラフなところだなーと感じまして。あまり固くなりすぎるのは好きじゃないんですけど、それを嫌う人もなかにはいますから、気をつけましょうって話です」


 実は査定中にそういうことを伝えてきた冒険者の人がいた。


 おしゃべりの声が大きすぎるというものだ。


「わかりました。これからは意識していきます」


「よろしくお願いしますね」


 まあ、仲の良い箇所に関してはこのあと個人間で聞きたいことがある。


 そのためにハーバーさんにはご退室願うか。


「それじゃあ、ここからは個人で聞きたいことがありますので、ハーバーさんはおかえり頂いて構いません。今日はありがとうございました」


「えっ、いや、そんな短くていいんですか?」


 雑な切り方になってしまったからか、困り顔だ。


 ここは申し訳ないが押し切らせてもらおう。


「ええ。ここのスタッフの皆さんが仕事をしっかりとこなしていることやスタッフ間の仲の良さは前任のギルド長から聞いていますから。その他ですこし気になったことがハーバーさん以外のおふたりにあったのですこし話をと」


「そ、そうですか」


「これからもハーバーさんや夫さんとの関係を続けさせて頂ければ僕は嬉しいです。いつも本当にありがとうこざいます」


「は、はぁ……こちらこそ、ありがとうございます」


 まだ納得しきってはいないが悪いことがない以上抵抗する意味もないことはわかっているようで、ミルに連れられ、そのまま見送られていった。


 そして、残ったふたり。いや、残されたふたりはさすがになにかあると、互いに顔を見て確認しあっている。


「ああ、そんな大したことじゃありませんから不安にならないでください。ミルが帰ってきたら、ディエドスタさんは彼女と、ウォードマンさんは僕と話をしましょう」


「分ける必要性があることなんですか?」


「そうですね。今みたいになにか示し合わせられたり、どちらかが圧力をかけて嘘をつかせたり、そういうことがないようにするための措置ですよ」


「そうです、か……」


 この時点で依頼のことだと気付いているかどうかは分からない。が、恐らくウォードマンさんの方は勘づいているんじゃないだろうか。


 だからこそ、僕が彼女を受け持つ。


 ディエドスタさんはすこし突けば、自ら吐き出してくれそうだし。


「ハーバーさんが帰られましたよ」


 ミルが戻ってくる。


「それじゃあ、ディエドスタさんはミルと一緒にに控え室のほうに行ってください」


「わ、分かりました」


 最後にもう一度ウォードマンさんのことを見るが、彼女はもう気にしてない。深い繋がりを見せたくないのかもしれない。


 それもそのはず。採用時の書類に書かれたふたりの住所は同じ。つまり同居していることになる。


 それを知られているとわかっている以上、下手に絆の深さを計られたくないのだろう。

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