Chapter4
Episode42
翌日、今日も今日とて出勤だ。
昨日は多くの場所を回り偉い人たちと話したことや査定を任せたミルへの感謝を込めたいろいろなサービスで疲れが溜まってすぐに寝てしまった。
もちろんサービス中は仕事の話はしなかったから今朝共有した。
「さあ、今日はようやく来た話し合いの日だね。無理に詰めはしないけれど、それっぽくこういうことがあったと意識付けようかな」
馬車で移動中、隣に座るミルとそんなことを話しながらギルドに向かった。
「「おはようございます」」
「おはよう。受付の皆さんは今日の勤務を終えた後にすこし時間を頂きますが、よろしくお願いしますね」
しっかりと全員に合わせて選んだ日だ。誰も文句を言いたそうな顔はしていない。
今日も組み合わせはディエドスタさんとウォードマンさんの2人と最年長ハーパーさんという別れ方。
あの2人組がどういう動きをするのか、楽しみだな。
◇◇◇◇◇◇
「では、今回の査定額はこのようになります。一階で受け取ってください」
「ありがとうございます!」
今日最後の冒険者の対応を終え、資料等を引き出しに入れて話し合い後にすぐ帰宅できるよう仕度を始める。
早くも足音が聞こえてきた。
数回のノックがはいる。
「ハーバーです。受付の方の終業作業が終わり次第、全員でこちらに来ますので少々お待ちください」
「わかりました。焦らず、しっかりと作業を済ませてきてください」
「ありがとうございます」
それから10数分ほどして再度ノックされる。どうぞと声を掛けるとなかに入ってきた。
「お待たせしました。3人全員準備が出来ています」
「それじゃあ、そこに並んで座ってくれないかな」
普段の査定客用のソファではふたりまでしか座れないから、申し訳ないけれど一人には普段僕が使っているギルド長用の椅子を使ってもらう。
もちろんこちらも腰を深く掛けても痛くならない良い質のものだから。
想定内のことだったけど、僕の椅子にはハーバーさんが、ソファにはディエドスタさんとウォードマンさんが座った。
「まずは僕の自己紹介から。ご存知だとは思いますが、ヒースと申します。冒険者育成学校を卒業したあと、ギルドのことを勉強してここを任せてもらえるようになりました。改めてよろしくお願いします」
少数ゆえ拍手の音はかなり小さいがぱちぱちと聞こえてきた。すぐに出たところから歓迎はある程度されているみたいだ。
「じゃあ、次はミルにお願いしよう」
ミルも素性は隠しながら、僕のサポート役として共に所属となったと説明する。年上だということも合わせて。
反応はたいして変わらない。僕らふたりは謎の多い箇所がある分、興味を他の人よりも持ってくれているのかもね。
「そうしたら、ハーバーさん、お願いします」
問題のふたりを意識して聞きたかったためにハーバーさんを先にするのは必然だろう。雇用の際に個人情報が書かれた紙を預かっているから、それを見ている僕らは大方把握している。
更新された情報や記載のなかったことがあれば、覚えて帰ろう。本当はメモを取りたいところだけど、それだとなにか調査しているみたいで怪しく思われても困る。
「はい。私ハーバーは、29歳で一応このギルドの最年長です。ここで働き始めてもう数年が経ちますが、未だにここで働けていることに感謝するほどに気に入っています。というのも、夫がいて彼がここの所属冒険者であり、その実情や危険を理解してあげられるから。それに身辺調査も。
おかげさまでこれまで浮気なく幸せな夫婦生活を過ごせています」
なんと結婚していたとは。それは知らなかった。
「夫さんとはここで知り合ったんですか?」
「ええ。初めの出会いは受付と依頼を受けに来た冒険者でした」
初めて話すことなのかすこし恥ずかしそうだ。結婚生活はまだ浅そうだな。
ここに所属している冒険者ということはその人のことも聞くべきか。
「夫さんのお名前を聞いても?」
「ワンス・ハーバーです。ランクはCですね。健全な冒険者ですよ」
健全というのはまともに働いているということかな。一応あとで履歴を調べられると分かった上での言葉だとしたらカモフラージュじゃないだろう。
まあ、彼女がそんな小賢しいことをしそうなタイプではないとは思う。そもそもすぐばれるようなリスクを冒すわけがない。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」
ハーバーさんは元々この程度で構わない。さあ、ここからが本番だ。
頭に一言一句こぼさぬよう取り込もう。
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