Episode41

 僕は世間のなかでどのような人間として扱われているのか、今一度ハッキリとさせておかなければこれからゆく先々で邪魔になるだろう。


「君の名はヒース。苗字はないわ。適当に付けることも出来たのだけど、完璧に全国民のものを把握していないから、もし誰かと被ったときに困ると思って辞めたわ」


「その理由はもちろん理解できますけど、そのせいで逆に苗字が知られていない怪しい人になる予感がしますね」


 なかには素性調査をしたがる者も出てくるかもしれない。


 その点を考慮すれば、あった方がいいんじゃないかと思う。


「2年もの時間があったなら、用意出来たはずでは?」


「それを言うなら、好奇心に心奪われた不届き者も2年で調べあげられることになるわ。そうなった場合の方が危険じゃないかしら」


「それは……間違いないですね。すみません」


 残念ながら、ない証明に近いことが出来てしまうのは不都合だ。


 永遠の謎として後世に語り継がれた方がまだ良いか。


「他に、出身は苗字を隠す上で共に表に出すことは不可能として、出生から18歳までの歴史はどのように作られているんですか?」


「それは一緒にこれを見ながら把握しましょ」


 そういって肩がぶつかるほど、距離を詰めてくる。


 同時に形かかる髪から柑橘系の香りがすっとした。凄く良い香りだ。


「メモは持ってきているの?」


「はい、重要な部分は写して持って帰ります」


 危ない危ない。意識がそちらに引っ張られる前にメモ帳とペンを取り出す。


「じゃあ、まずは10歳までね。といっても、ここは殆ど作っていないの。私が君の過去を偽る機会なんてないから。特定できるような過程を持っていなければ好きなように作ってくれて構わないわ」


「わかりました。じゃあ、大事な部分は学生時代以降の話になりますかね」


 15歳から通える学校。ちなみに試験に合格すれば18歳までなら入学することができる。


「ストレートで入学したとして、やっぱり謎の2年間が生まれてしまうと思うんですよね。もちろん史実通り勉学に励んでいたというのも悪くはないと思いますが、実戦経験のない人間がギルド長になった例って殆どありませんよね?」


「それはここを見てちょうだい」


 リリアさんの指さしたところを確認する。


 卒業後・18歳とタイトルを授かった人生ノートには多くのことが書かれている。


 認定ランクはDスタート、学校での成績は入学当初こそ高かったが伸び悩む。才能の高さを見込まれたランク付け。しかし、覚醒を待つ前に心が折れてしまう。


 うーん、たしかに挫折はリーネさんと手合わせした時に味わったことがあるけれど、そこからより一層の努力を重ねた以降はなかったからちょっと悲しい。


 天才タイプは僕より同級生のベネローズの方だったから。もちろん彼の努力も相当なものだったと理解した上で。


「名が大きくは売れていない点と後半に注目がなくなったせいで記憶から消えている点はありがたいですね。年齢が史実通りなら僕も合わせやすいですし」


「特にこの世代はルーザーくんとベネローズくんの2強以外は微妙だったものね。認定でルーキー以外の始まりが10人ほどしかいないなんて稀よ」


「それは……否定できませんね」


 常にトップが変わらないことはあれど、2番手まで変わらないのは成長力の薄さを証明していると思う。


 絶妙な子が多かったんだよね。それこそヒースのような。


「では続きを……」


 それから1時間ほど話を聞いて僕の素性についてある程度の理解を得た。


 ギルド関連で才能が爆発したというものだ。多才である程度のラインまではこなせてしまうために切り捨てまでに時間がかかってしまうのが難点らしい。


 19歳のときに冒険者を辞め、勉学に勤しむ時期に。ここから20歳直前までは外での活動が疎かになるとしたことで史実と一致するところをつくるみたいだ。


 とにかく他にもいろいろとあったが、リーネさんとの記憶や動機との記憶がなくなっている設定は気を付けなければならないところかな。不意に知り合いという雰囲気を出してしまわないように。

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