Episode39
ギルド内の設置物や査定表等の話し合いに1時間と少し。
密な内容だった。さっそくミルと共有して手を付け始めたいほどに。
「いろいろと、細かいところまでお答えいただきありがとうございました。今日手に入れたことを持って帰り、活かしていきたいと思います」
「私もそう願っているよ。ヒースくんには期待しているんだ。なんていったってクト家の息がかかった、いや、その上の存在の影がちらつく新人くんなんだから」
「はは……はっきりと申し上げますと、クト家のリリアさんと顔見知りであるのはたしかなのですが、どうしてそこまでの扱いを受けているのかイマイチでして」
さすがに知らぬ間柄と言うには無理があるとみて適度な嘘を織り交ぜた。それにリリアさんがどこまでの
ハントゥ局長が困ったものだと笑って返してくれて良かった。
「まあ、権力の強さは明らかだからねぇ。わざわざ出生を特定できないようにヒースくんとしか教えてくれないんだもの。相当なわけありだろう? 現存する冒険者の頂点にいるフェルナードちゃんでも出身やフルネーム、学生時代のエピソードまで知られているのにさ」
「本当にその通りです。とはいっても、異質な存在というのは排除されやすいらしいので僕の口から話すこともできないのですが」
人間は希望の込められた新たな策を排除したがるもの。それは現実を見ろという意味ではなくて、その策に結果が伴ったとき自らの地位が危うくなる可能性があるからだ。
特に組織内ではそんなくだらない理由で芽を摘まれてしまうことは多々あると思う。
実際にあったわけじゃないのに僕がもし他のギルド長と顔を合わせたとき、嫌な反応をされるのは目に見えているのもそういう考えを持っているからかな。もちろん10:0なんてことはないから、僅かな肯定派の人とうまくやれると嬉しい。
「私から否定してあげられないのが残念だよ」
つまりは少なからずそういう歴史を歩んできた自覚があるのか。まあ、自覚しているだけマシと言うべきだろう。
改善に向かっている可能性が残されているから。
「そういう観点でいえば、ヒースくんと同年代のベネローズくんがギルド長をしているヴィラに行って観察するのはディルの成長のためにも試す価値があると思うよ。良い子だからね、あの子は」
「たしかにヴィラは60数年の歴史がありますし、ギルドランクも高いですものね。その案はありがたく頂いて帰ります」
ただ、僕の記憶が正しければベネローズは相当な負けず嫌いだからな……。
それでいて、ちゃんと僕の実力を認めてはいた。というか、認めざるを得ないよね、1勝もできなかったんだから。
うーん、あの美酒の味を思い出すと面倒になると予測できても会いたくなってしまう。今は僕がギルドランクでいえば低い身、つまりは彼の立場を経験できるわけだ。それもちょっと楽しみ。
「それでは、本日はここで一度解散ということで、貴重なお時間をたくさんいただきありがとうございました」
「だから気にしなくていいからそんなことは。また今度会えることを楽しみにしておくよ。帰りは馬車を出そうか?」
片道とはいえ送迎付きは過保護すぎないか。
「お気遣い感謝します。ですが、まだまだ新米の僕には報告すべき相手がもう御一方いらっしゃいますので」
「あー、それもそっか」
一応リリアさんを保護者的な位置に置くことで話をしやすい。全然嬉しくないし、本当はしたくないことだとしても。
「じゃあ、私はここまでかな」
最後に一礼と再度感謝の言葉を伝えて局長室から出た。ここまで案内された道を戻り、フロントまでたどり着く。
「「ありがとうございました」」
わざわざ門前まで来なくてもいいのに。ヌエラさんと初めに身分確認してきた警備員も自分の仕事があるんだから。
「そうだ、ヌエラさん、先程お隣にいらした受付スタッフの方に、僕は何も気にしていませんから気に病まずこれからもお勤めくださいと伝えて頂いていいですか?」
「はい! ご本人からのお言葉であれば、彼女も救われると思います」
さて、これでケアは大丈夫かな。
最後はここからすこし歩いたところにある宮殿に向かってリリアさんと話をする。はぁ……一番疲れるのが残っているなんて最悪だ。
踏み出した足取りは重い。
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