Episode38
ローラの
真実を知らない僕がギルドの評価を下げないために間接的に彼女のことを庇う形にはなっている。いいように繕って後で恩を売るのもいいかもね。
「じゃあ、こういうのはどうだろう。実は事前に討伐可能な冒険者と契約のようなものを結んでいた場合だ」
うっ、あまり突かれたくないところだ。
「すこし時間をくれるかな? 職員にお願いして冒険者ちゃんの情報を書いた紙を持ってきてもらうから」
「ええ、もちろんです」
これはより厳しくなるかもしれない。ローラの貧しい家庭環境に気付かれてしまえば、今局長が出そうとしている案に現実味が帯びてくる。
それに彼女が嘘をつく理由が出来てしまう。
さらに最悪が重なる可能性もあるのが怖いな。たしか同級生にリリアさんの視察がついていたという話。
僕はそれをカモフラージュだと仮定して触れなかったけれど、もしそうでなくて、僕がダメになったときのためのものであったら? 女性であったならその後軟禁されるようなことはなかったはず。男系の世襲制に囚われているから。
それほどの実力者と知り合いであるなら貧しい点と絡められる。
局長がデスクのボタンを押して3分ほど、見知らぬ職員さんが部屋に入ってきた。それから資料を数枚置いて帰っていく。
「ふーん、出身はセルソート。商家か。業績が高いわけではなく、4人姉弟の長女となると学校に入るために相当な資金繰りをしただろうね。当然それを理解しているだろうし、感謝の裏に下の子達に対して思うことがあったはずだろうね」
そこに目がいくのは必然か。
セルソートは僕の故郷エリエスタよりも辺境にある村だ。特産物も伝統文化もない、電気がまだ普及されていないところがまさしくな雰囲気を感じさせる。
「その点は僕も着目しましたが、冒険者が先に話した情報によると学校内では浮いた存在だったみたいなんです。多くの時間を一人で過ごしていたそうで」
「つまりは付け入る隙があったというわけか。親からの愛を受けているからこそ、友人からの愛も心のどこかで求めてしまうもの。素行不良な面があるわけではないところからも誰かと仲良くなりたいという気持ちはあったんじゃないのかな?」
「それは僕にはわかりません。もちろん悪意を持って近付いたとして受け入れられた可能性がないとも言い切れません」
辛いな、ここは。避けようにも逃げ道がない。
こちらの言い分が全て願いになってしまっているから、あちらはドンドン突っ込んでくるだろう。うまくいなせればいいのだけど……。
「あらら、そんなこと言っていたら、同級生に面白い子がいるね。クリスティーヌ家といえば、慈善活動で有名なところじゃないか。もしかするとセルソートにも既に施し済みかもしれない」
そんな事情があったのか。さすがに僕も名家がなにをしているかまでは覚えていなかった。
それに彼女が憧れているのはそういう面も含めてのことだったのかもしれない。
さらに状況が苦しくなってしまったな。
「その辺りをさらに詳しく調べる必要がありそうだとは思わないかい?」
「真実をあきらかにするためには必須でしょう。早計な判断は大事なことを見落とし、狂わせてしまいかねませんから。こちらも時間の許される限りで調査してみます」
とにかく時間稼ぎをしよう。ローラ本人との連絡を取ってどうにか新たなカードを手にするしかない。
「ヒースくんは就任して間も無くで大変だろうけど、お願いしますね。では、この件についてはまた後日ということで、次は私から手紙を送りますから待っていてください」
「わかりました」
結果としては最悪には至らずとも不利な状況で終えてしまった。僕がもうすこし情報を持ってからここにくるべきだったかな。
もし局長の案が全てだった場合、ローラが話してくれていたとは限らないけどそれはそれで情報になったからね。
反省だな。
「じゃあ、この話はここでお終いで、他にもあったよね?」
「はい。ギルドの施設のことでご相談をしたくて」
「いいよ、なんでも答えるから聞いてよ」
切り替えて評価を失ったときのことも考え、多くの有意義な情報を持って帰ろう。
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