Episode27
追加で馬車を呼び、女性二人と僕で別れて帰宅した。
降りた後、ミルに聞けばずっとイブンヘイムは目を輝かせてどんな家なのかとか、生活なのかとか聞いてきたみたいだ。珍しく顔に疲れが見えていた。
「おお……」
「まだなかに入っていないのに、いちいち驚いていたらキリがないってのに」
ミルに先に行かせて一応目につく場所に僕の身分がバレてしまうようなものがないか確認させている間、少々の時間稼ぎが必要だ。
「ねぇ、イブンヘイム。せっかくこうして食事を共にするんだから、友好の証にローラと呼んでもいいかな?」
「はい! もちろんです、ヒースさん」
「ありがとう。せっかくだから反応の良いローラに見せてみたいものがあるんだ。すこしこっちに来てくれないかな?」
なんだろうと、期待が瞳に込められたのがよく分かる。内なる好奇心を抑えられない幼き子。
19歳とまだ若く年下の面を含めて可愛らしく感じる。
さて、そんな彼女に見せるものは家のちょっとした庭に置かれている物置用のロッカーだ。何の変哲もない、ね。
「えっと、あれ、ですか?」
あからさまな落胆。キラメキは失われ困惑が浮かび上がり、踊っていた言葉が静かに横に並んだ。
たしかに綺麗に駆られた雑草とスチール製のロッカーひとつの光景にどう感動しろと言うんだと抱くのは当然だ。しかしながら、なにも見せたいものがすぐそこにあるとは言っていない。
「まあまあ、焦らないで。とりあえず、そこの引き戸開けてごらん」
「わ、わかりました」
とにかく引き付ける。家が広いというのが裏目に出たか、ミルが出てくるまではもうすこしかかるだろう。
蘇ったワクワクによって、これを簡単に失いたくないという心理が働いているみたいで彼女の動きはゆっくりだ。
「それじゃあ……」
彼女が引き戸に手をかける。
大丈夫、次は本当に驚くものがあるから。
「わー‼」
期待通りの反応だな。貧しい家庭で育った彼女なら恐らく見たことのない代物だろうと思った。あまりそういう面を利用したくはないけれど、僕とミルの関係性がバレることに比べたら致し方ない。
「ヒースさん! ヒースさん! この剣、なんですか⁉」
立てかけられているそれを触れないよう指さし、無知を気恥ずかしさすらみせずに晒しながら問う姿が彼女の良さなんだろう。嫌味のないオーバーリアクションが気持ちよくさせてくれる。
ちなみに彼女を興奮させているそれはミルからの贈り物だ。鍛えていたのは知っていたし、僕が使っていた物は全て奪われたし、そういう過程を知っているからこそプレゼントしてくれたものだがもちろん開ける時間なんてなかった。
未使用なだけあって見栄えがいい。それに柄が細くて刀身により目が惹かれる。
「それは剣じゃないよ。刀だ」
「へぇ、そうなんですね!」
絶対分かってない。
「良かったらその奥に入っている打ち込み台で使ってみたらいいよ。僕はもうそれを握る人間ではないから」
「良いんです⁉」
あれだけお腹が空いたとか慌ててきて倒れたとかしたのにそんな余裕があるんだな。
まあでも、これが終わった頃には時間も程よくなっているだろう。
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