Episode26
これからイブンヘイムさんの話を聞いていく。疑問に感じたことは何でも問いただし、事実を隅々まで丸裸にするのが彼女のこれまでから予測する抜けている性格には有効だろう。
「知らなかった事実、
「もちろん、大丈夫です」
自信はありそうだな。
「依頼を受けたのはいつかな?」
「昨日です。朝早くに来て、受けました」
それを聞いてミルが昨日の依頼リストをチェックし始める。
ここで真面目に依頼を受けている冒険者が少ない分、見つかるのは早い。さっそく見せてくれた。
「間違いはないみたいだね。内容もDランクだから問題はないし」
そもそもルーキーランクからの始まりで1年でDランクに昇格しているのは、このギルドのなかで言えば相当な優等生だ。
その点を加味すれば、言葉の信憑性も多少はあがるか。
「ちなみにこれを拾った場所は覚えているの?」
「森のなかで迷ったのでここだってピンポイントでは言えないです。多分、ここだろうなっていうのはわかるんですけど」
だろうね。あまりそこは期待していなかった。そもそもよく無事に帰ってこれたなっていうのが率直な感想だ。
「じゃあ、その大まかな場所を今から渡すこの地図に書いてくれ」
ミルが近辺の地図を彼女の前にある机に広げる。マジックペンでそこに大きな丸印が書かれた。
竜の出現場所の情報は管理局に報告すればそれなりの評価に繋がる。なんていったって、最高ランクのモンスターだ。存在するだけで国の脅威となるそれを放っておくことなどできない。
それに竜を倒せるのはAランクのなかでもごく一部、殆どは勇者であるリーネさんが討伐しているというのが実態だ。だからこそ、僕はそこにも希望を持つ。またリーネさんに会えるのではないかと。
「ありがとう。ちなみに本来の目的は達成できなかったんだね」
「……はい。目覚めたときにはもう時間が遅くて、それがあって、絶対査定してお金を貰わないと生活できないから」
「そうはいっても、君は毎月それなりに討伐しているじゃないか。どうしてそれで生活が出来ない?」
「それはその、家庭の事情というか……」
健気な少女ってわけか。
ここを疑ってもキリがないし、そういう非道な嘘をつけるタイプには見えない。恐らく妹か弟がいるんだろう。
「貧しいんだね。このことに関してはもう何も言わないよ。じゃあ、話の続きをしよう」
それから気絶していたのは数時間だということ、もちろん助けてくれた相手の顔は見ていないこと、報告書を上げた後も全面的に協力することを誓った。
まあ、事実がどうこうはおいておくとして、規約違反という最悪の事態もなく、ただ助けられたのだということが出来上がったのは幸運だったかな。僕にとっても彼女にとっても。
「最後にこれは伝えておかなきゃならない。残念だけど、今回の査定を君に報酬として渡すことはできない。君が討伐したわけではないのだから。それは分かっているね?」
静かに頷きが返される。いや、ただ項垂れただけかもしれないが。
とにかく反抗の意はない。
「本来なら今日はこのまま帰ってもらい、また後日管理局からの対応を見て話をするところだ」
初めは面倒な少女がやってきたと思ったが、結果としてはギルドの評価を上向かせられるかもしれない情報を持ってきてくれた。
すこしくらいはサービスしてあげよう。
「でも、今日の宿と食事がないんだろう? それならこの後僕たちについてくるといい」
その瞬間、彼女がパッと顔をあげる。
「今日に限り、君を歓迎するよ」
「本当ですか⁉」
喜びの花が顔一面に満開だ。それほどまでに苦しい生活を自らに強いらざるを得なかったのか。
「ああ、嘘はない。ただもう時間が時間だから、このまま早く帰ろう。支度を済ませる間、下でミルと待っておいて」
「わかりました!」
今日、本来話をするはずだった3人には次の機会にまた呼ぼう。今日、急遽キャンセルになった分のお詫びを添えて。
さて、これで面倒が済めばいいけれど。なんだか嫌な予感を部屋から出ていく二人を見送りながら感じた。
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