Episode25
さて、この子の処罰をどうしたものか。
よろしくない発言が許されるのであれば、このまま隠蔽してやりたい。この問題を報告書でギルド全体の情報をまとめている管理局にあげるのは避けるために、なにをすべきか。
ひとつは、依頼受理の違反を犯したわけではない点をしっかりと伝えたうえで、適当な理由を付けて竜の尾を手に入れた嘘を作りあげること。
もうひとつは、この子がBランクである場合、1日、2日でAランクに上げて多少のずれを生んで正当化させること。ギルド長が手伝ってはならないという規定はない。なぜなら、高ランクの冒険者がそのままなる場合があるから。
ただ一応鍛えて身体はそれなりに維持しているとはいえ実戦勘が鈍っているのは否めない。それにAランクどころかBランクの敵さえ学校では対峙しなかった。
「あまりに心配だな……」
「っ! す、すみません……私のせいでいろいろと」
「ん?」
どうやら僕の言葉を自分へ向けられたものだと勘違いしたらしい。それでいて反省できているようならいいか。
これから僕が取る策に対して反抗の姿勢を見せることもないだろう。
「うん。それはもう構わないから、ちょっと前に出て扉を開けてもらっていいかな?」
「すぐに!」
まるで従順な臣下のように先に階段を上り、開く。
僕とはまるで経緯が違うが、この無力やそれに近い相手に命令をする快感が国王にはたまらないのだろうな。彼女の場合はこれ以上の悪印象を残したくないという思いが全面に出ていて、その滑稽さがまた欲を満たすんだと思う。
「じゃあ、そこの椅子に座ってカードをデスクの上に置いて」
「はい」
ふぅ、それにしても重かった。尾の部分だけで何十キロもあるのはこの切断された断面からもわかる肉がパンパンに詰まっているせいだ。
竜は背後に回られてもこの尾を振り下ろしたり、ジタバタさせて威嚇したり、いくつかの対処法を持っている。そこでこちらが怯めば羽を広げて飛び、身体の向きを変える。
そうやって陸での移動の遅さをカバーするらしい。ちなみにこれは基礎中の基礎だ。
「こうなってしまった以上、時間は気にしない。これを手に入れるに至った経緯をはっきりと思い出すまで記憶を遡ってくれ」
「頑張ります」
「頑張るじゃない。絶対にやるんだ。それが今君にある義務なんだから」
早くも顔をカチコチに固まらせて、血の気が引いていくのを見るのは面白いな。
あまり緊張させるのは悪手だと分かっていても、罪の重さは認識させておくべきだ。自身のランクより高ランクのモンスターを倒すことは誇りでも名誉でもないんだと分からせないと。
もちろん偶然落ちていたからといって無断で持って帰るのも間違いだということもね。
「それじゃあ、失礼して」
置かれた冒険者カードを手に取る。
「はいはい、名前はローラ・イブンヘイム」
背は小さいが肉付の良い元気で向こう見ずな女の子だ。
さて、現在のランクは――
「はぁ⁉」
「ヒース、どうしたんですか!」
つい立ち上がったまま大声をあげてしまった。ミルが慌てて部屋に入ってくる。でも今はそこに構っている余裕はない。
「おい、ローラ! Dランクじゃないか!」
あまりに驚かされた。もしかしてこの子のさっきの話……。
「だ、だから、本当に拾っただけなんです! 本当は違う討伐依頼を受けていたのに森で迷っていたら竜さんに遭って、気絶しちゃったはずなんです! でも目が覚めたら竜さんの血がドバーッてそこから流れてて、でも尾以外の部分はどこにもなくて」
ていうか、そんな前振りがあったのか! それならその部分を早く言ってくれ。そうしたら、誰かに助けられただけで罰も何も生まれないというのに。
いやっ、この子のことだ。今出た追加情報が本当だとしたら、もっと他にも出てくるものはあるはず。それを確かめないと安心はできない。
「……とにかく迷うところのすこし前から落ち着いて話を聞かせてくれ。ミル、報告書の準備を」
「ええ、もちろん」
油断はせずに、椅子に座り、話を聞く態勢を整えた。
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