Episode28
刀を与えたのは時間稼ぎという名目もあるけれど、ローラ・イブンヘイムの実力というものを自分の目で確かめたいという目論見もある。
まずDランクの実力を。Dランクの冒険者が受けることのできる依頼は文字付最低ランクのDランク依頼しかない。これは2年の猶予が設けられたルーキーランクのせっかくの討伐機会を奪わないためだ。
ただ、Dランクにも幅がある。明確にその基準があるわけではないが、D-、D、D+としたとき、それぞれが楽に達成できる依頼というものが生まれる。なぜなら討伐されるモンスターの種類が1種類ではないから。
皮肉なことにそれらの違いはあれど、得られるポイントは同じ。であれば、すこしでも自分に合った依頼を受けたいと思うのは必然。それを僕が理解することでギルドの活性化の一因となればと考えている。
「これ、殆ど使ってないですよね?」
「ああ、未使用だよ」
「やっぱり。癖が無いですけど、凄く硬くて握りづらいなーって」
そういうのはわかるんだね。僕は幼少期から父さんが作ってくれていたからあまりそういう感覚が磨かれていない。もし先に握っていても気付けなかったかも。
「じゃあ、お言葉に甘えて、一振りしますよ」
「お好きにどうぞ」
打ち込み台を前にして彼女の体勢はフリーだ。ただ、何もできない敵を相手にするような余裕と油断が入り混じったものではなく、型にはまらないことを好んだ結果のように見える。
視線は決して外さず、間合いも十分。奇襲の突撃もある程度は致命傷を避けられるだろう。
「ヤーーーー‼」
っ⁉ なんだ今の声だしは。冗談だろ? 声は高いし、結局打ち込み台に刺さっているのはほんの数ミリだし、まるで力が発揮できていない。
「あ、あれ? おかしいなぁ」
本気で困惑していることに不安を感じてしまう。それくらい情けない声だった。
本当にDランクに上がったのかなんて意味のない疑いをかけてしまいそう。これなら
「ローラ、遠慮しないで。それを壊すくらいの気持ちでやってくれていいんだよ」
「は、はい! やっぱりわかっちゃいました? えへへ、い、今のはお遊びですから」
「だと思ったよ」
絶対嘘だ……。これが僕のギルド『ディル』の所属冒険者だなんて。この先が思いやられるよ。
せっかく入りは良かったのに。
「お二人ともすみません、お待たせしました」
「ヤーーーー‼」
「ローラうるさい!」
「ご、ごめんなさい!」
ミルが戻ってきてくれて良かった。このままだったら、また全然刺さっていない彼女の持つ刀が実は模造品だと無理な嘘をついて彼女のフォローにまわる必要があったから。
それからローラに刀だけ戻してくれればいいと伝え、済むのを待ち、3人で順番に家のなかにはいっていく。
あまり客人だとは思っていないが、雑な対応をするわけにもいかないのでドアを開けて先に招き入れる。
「うわぁ……長い廊下だ」
玄関で靴を脱がず、特になにも装飾されていない廊下を見て驚けるのは相当な家に住んでいたのだろうと察せられる。この反応から見て家族のためにお金が必要で自分の手元に残らないという話も信憑性が高くなったかな。あとさっきの刀の扱いの拙さも含めて。
「ミル、客人用の部屋があっただろう。まずはそこにローラを案内してあげて。僕も部屋に荷物を置いたらキッチンに向かうから」
「任せてください」
「ほら、ローラも突っ立ってないで上がって」
そこでハッとした彼女はすぐに色の剥げた靴を脱いでミルのあとをついて行った。
「はぁ……」
ついため息も出てしまう。先の、リアクションが気持ち良くさせるというのは限界アリとしておいたほうが良さそうだ。
これから食事の時間も共にするとなると、そこでまた数多の驚きに一々反応してくれるのだろう。
…………
僕は再度ため息をついた。
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