そんな私の違和感に駅員さんが気が付き、声をかけてくれた。



「大丈夫です。私がついています。安心してください」



優しい声だった。



私はその声の方に顔を向けると、

優しい表情をこちらに向けた駅員さんがそこにいた。



よく見ると、少し気恥ずかしそうにしていたのを今でも鮮明に覚えている。

駅員さんも勇気を出して言ってくれたのだろう。



私はその笑顔と勇気に救われた。



さっきまで固まっていた身体が途端に軽くなった。

右足は痛むが、少しなら動けそうだ。



ーーもう怖くない。



「ありがとうございます。」



私は自然と、駅員さんにそう言っていた。



駅員さんはその声を聞き、安堵の表情をしていた。



「もし、歩き出して痛みが増したら言ってくださいね」



「はい」



今度は自然に答えられた。



依然として、周囲の視線をちらちら感じたが、もう体が強張ることはなかった。



車掌室に向かうまでの間、右足は痛んだが、

動けなくなるほどの激痛ではなかった。



あっという間に車掌室に到着し、

細心の注意を払った上で椅子に座らせてもらった。



「よくがんばりましたね。親御さんと連絡はつきそうですか?」



「今から電話をかけてみます。本当に助かりました。ありがとうございます」



「当然のことをしたまでです。

親御さんと連絡がつくまではここにいていいですからね。

ここなら、視線を感じることもありませんし」



そう言う駅員さんの顔は、やっぱり少し気恥ずかしそうで、

私も恥ずかしくなってしまい、慌てて目をそらした。



その瞬間、トクン、と私の心臓が強く脈打った気がした。



体が熱い。でもなんだか心地よい。

今まで感じたことのないような感覚だった。



なんだろうこの感覚、もしかしてこれが……。

うん、きっとそう……。



恋心と自覚するまでそれほど時間はかからなかった。



「ひとまず、他の駅員さんにも、

車掌室に親御さん待ちの人がいるって伝えてくるね。

すぐ戻ってくるから」



駅員さんは優しい笑顔でそう言い残すと、車掌室を出て行った。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


結局、その後すぐにお母さんがとても心配した様子で迎えに来てくれて、

あの時の駅員さんは用事が入ってしまったのか、

別の駅員さんが対応してくれた。



幸い、骨に異常はなく、全治2週間ほどで普通に歩けるようになった。



あの日以来、

ホームと車両の間をしっかりと確認して電車に乗り込むようになった。

どんなに急いでても、だ。



プルルルルルルルル。



警告音が鳴り、電車が出発した。



私は、緊張しながら、今日の車掌さんを確認する。



私の心臓はトクン、と力強く脈打った。



あの人だ。



駅員さんはガラス越しにみている車掌室をのぞいている私に気がつくと、

ニコッと笑顔を向けてくれた。



その瞬間、私の心臓は、もう一度、力強く脈打った。

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通学電車 雪白真冬 @Liisuna

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