中
その時、こちらに駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
だんだん近くなる。
「大丈夫ですか?」
「動けますか?」
その大きな声で私は弾かれたように顔を上げた。
そして私は懸命に首を横に振った。
そんな私を認識した駅員さんは私の前に来ると顔の前で一言。
「失礼します」
そう言って、両腕を私の脇の間に通し、私を持ち上げてくれた。
ふわっと持ち上げられる感覚。とても心地よかったのを今でも覚えている。
駅員さんは持ち上げた私を黄色の線の内側に運び、優しく下ろした。
「もう大丈夫ですよ。怪我したところは痛みますか?」
「あ、いえ……。えっと……」
私は動揺のあまり、うまく言語化できなかった。
駅員さんが少し心配そうな顔で私の顔を見つめた後、
私の右膝あたりに視線を落とした。
つられて、自分の右足を確認すると、ひざのあたりに擦り傷を負っており、
じんわりと血が流れ出していた。
自分の怪我を認識した途端、痛みがいっそう強くなった気がした。
とても一人で動けそうにはなかった。
まだ動揺していたが、小さく深呼吸し、なんとか言葉を絞り出す。
「痛みます……。一人ではちょっと歩けなさそうです……。」
その時どんな表情をしていたか、自分でもわからない。
もしかしたら泣きそうだったかもしれない。
でも、駅員さんはそんな私の表情と言葉を理解し、
「わかりました。肩を貸しますので、ひとまず車掌室に向かいましょう。
ここだと、人目につきますから」
駅員さんはそう言うと、私の隣に来て腰をおろし、
肩を貸してくれるそぶりを見せた。
あまり馴染みのない光景だったので、またもや周りからの視線を感じた。
こういうとき、見ている人は特に何も考えていないのだろう。
気になるから、見る。そんな感覚だと思う。
でも、見られる側はとても恥ずかしいし、怖いのだ。
身体が硬直してしまい、自分の身体が制御下から外れ、
浮いているような感覚に襲われる。
そんな視線を感じて私の心にも限界が近づいていた。
今にも泣き出しそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます