通学電車

雪白真冬

私が使っている通学電車には特等席がある。

そのために朝は必ず決まった時間に起きる。



朝ごはんをしっかり食べ、身だしなみチェックは忘れない。

8時発の快速列車、最後尾車両の一番後ろの扉から入って壁側の位置。

ガラス張りになっており、車掌室が透けて見える位置だ。

よし、今日もしっかり確保できた。



この春から高校生となった私はこの習慣を3ヶ月ほど続けている。

きっかけは些細なことだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



高校生になって初めての電車通学の日。

新生活を楽しみにしすぎるあまり、少し寝坊してしまった。



この電車に乗らなきゃ間に合わない。

私は必死に最寄り駅の改札を駆け抜けていた。



電光掲示板の時刻表示が点滅している。電車がホームに到着した合図だ。

ありったけの体力を注ぎ込み階段を駆け上がる。



間に合った。



ホームにいる駅員さんが発射のベルを鳴らそうとしている。

すぐさま近くの扉に入ろうと駆け出した。



しかしその瞬間、ゴン、という音とともに視界が大きく揺らいだ。

右足の制御が効かない。落ちる。



直感的にそう思った私は、反射的に両腕を前方に出し、

手のひらを電車内の床に打ちつけた。



幸運にも、制御の残っていた左脚と両腕で自分の体を支えることができた。



未だ状況が掴めていない中、右足に激痛がやってくる。

痛い。視線を痛みの方向へ向けると、

ホームと電車の間の溝に右足が落ちていた。



私はその瞬間、パニック状態になってしまい、身動きが取れずにいた。



目の前で起こった異変に、周囲の人の顔には驚愕の文字が浮かんでいたが、

程なくしてそれはひそひそ声に変わった。



恥ずかしい。



私は顔を上げることができなかった。

見ないで。見てるくらいなら助けて。私はそう叫んでしまいたかった。

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