嫌な女

ちい。

嫌な女

 嫌なことは見たくない……

 

 ていうか、それからなるべく目を逸らし生きてきた私。だけど、今まで生きてきて何か損をしたなどということも特に無く、今もそれを続けている。

 

 恋愛でも同じである。

 

 好きで付き合ったはずの人の嫌な面が見えてくると、私はそれから目を逸らし、一気に距離が離れ、別れる。それを繰り返してきた。だからといって、未練が残ったことも無いし、逆にすっきりとした感情だけが残っていた。

 

 だから私は恋愛に向いていないんだと思っている。誰かに恋しては駄目だと。

 

 本来であれば、相手の良い面だけではなく、嫌な面も受け入れてこその恋愛であるのに関わらず、自分にとって嫌なことは見たくなく、目を逸らし続けた。相手が私の嫌なことでも受け入れようとしていてくれていたにも関わらず。

 

 そして、私は気づけば三十を超えた。所謂、アラサーと呼ばれる年齢となった。

 

 一通りの家事も出来るし、料理も得意。自分で言うのもなんだが、見た目も悪くなく、よくお綺麗ですねと言われる。

 

 ある日のことである。

 

 私は仕事の取引先の新しい担当者と打ち合わせがてらに昼食を食べることになった。

 

 相手は私よりも若く、とても礼儀正しい好青年である。彼はとても明るく溌剌としており、仕事の話しだけではなく、色んな話しをしてその場の雰囲気を明るくしてくれていた。

 

 初対面の私に気を使ってくれていたのだろう。

 

 久しぶりに楽しいと思えた昼食であった。

 

 それから何度も仕事で彼とやり取りをしていくうちに、彼とは随分打ち解け親しくなっていった。

 

 そして、仕事だけではなく、プライベートでも会うようになり、その距離が近づき、彼から正式に交際しようと伝えられた。

 

 私は迷った。

 

 年の差もある。

 

 それに……私のこの性格である。

 

 嫌なことは見たくない……

 

 

 本来であれば、三十を超えた私の年齢で好青年の彼から交際の申し込みがあれば、待ってましたと言わんばかりに、肉食獣のように飛び掛かり、何がなんでも離すものかと、彼を捕まえるのだろうが、私の場合は、彼の嫌な一面を見た時、今までと同じように心が離れていくことは容易に想像できる。そうなると、仕事にも支障をきたすかもしれない。

 

 私は彼へ返事をしなかった。

 

 それから数日後。彼から会いたいとメッセージが来た。私はたぶん、この前の返事を聞かせてくれと言われると思っていた。しかし、彼は何も言わなかった。ただ、食事して、ドライブをして、いつものように過ごしただけだった。

 

 なんでだろう。

 

 なんで、私が彼に返事をしないかを尋ねないのだろう。

 

 それからも、私と彼は何度も何度も会っていた。

 

 そして、私はその疑問を彼へと尋ねてみたのだ。

 

 そしたら少し寂しそうに笑う彼。

 

「しつこく聞くと君が嫌がるかと思ってたんだ。それで仕事以外、会えなくなるより、聞かずに会えた方が良いからさ」

 

 あぁ……気を使わせてしまってたんだ。長いこと、恋愛から身を引いていた私は、彼のそんな気持ちさえ汲めなくなってしまっていたのか……

 

 否……恋愛なんて関係ない。人間として相手の気持ちを汲めなかったんだ。

 

 嫌な人間である。

 

 嫌なことは見ないようにしてきたつもりが、自分が嫌なことをしている人間になってしまっていたことに気がついていなかった。

 

 私は、彼の手をそっと握った。

 

 びくりとする彼。

 

「まだ……あの申し込みは有効?」

 

 私の言葉に驚きを隠せない表情の彼は、何度も何度も頷いている。そして、今度は喜びを隠しきれず満面の笑みを浮かべた。

 

「もちろん」

 

 あぁ……

 

 いい笑顔だ。

 

 たぶん、この人にも嫌な面はたくさんあるだろう。それに負けないくらいに私にも。

 

 だけど、今度はそれから目をそらさずに向き合っていこう。そして、受け入れれるように頑張ろう。

 

 そして、それを乗り越えた私たちの未来が素敵な色になれたらいいなと、彼へ微笑み返しながらそう思った。

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嫌な女 ちい。 @koyomi-8574

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