第8話 ジェノバース農村区にて
─『城塞都市ジェノバース』 農村区
主要区から数時間ほどかけて歩き、辿り着いた『農村区』。普通ならヘトヘトに疲れる距離だが【スタミナ回復力増進】の補助魔法により、非戦闘状態であれば1日中歩き通しでも平気だ。
区画間の関所を通り過ぎ、周りを見渡す。他の区画と違い、農村区には城壁は無いようだ……広がる地平に農作物の畑が、いくつもあるものの半分以上が枯れている……何だか寂れた場所だな。
「お願いします! ワシらの畑を守ってください! このままでは……」
「黙れ! 僕達は忙しいんだよ!」
「自分達で何とかするんだなっ!」
関所に配備されてる守備兵に、農村区の住民らしき人が
♦︎
─農村区 酒場『ささやき亭』
酒場のドアを開けてみると、冒険者や傭兵は1人も居なかった。
居るのはカウンターには頬杖をついて寝ている受付嬢だけだ……。
「あのっ、仕事は有りますか?」
僕が話しかけると受付嬢は、ゆっくり目を開けて気だるそうに応える。
「え……? あ、うん。あるよ」
そう言って、再び沈黙が訪れる。
…………。
いや、どんな仕事かあるか案内してくれよ! この人、全然やる気無いな……しかもタメ口だし……。こんな受付嬢初めて見た。
「えーっと……どんな仕事があるのでしょうか?」
僕は、顔面をヒクヒクさせながら聞いてみる。
「じゃ、カードだして」
気怠そうに片手を出してくる受付嬢……。僕は、真顔でカードを渡した。
「……何、この肩書き……ぷっ。……はい、もういいよ」
ポイっとカードをカウンターに投げられる。僕の肩書きを読み取られて笑われる事は珍しくは無いが、この対応は酷すぎる……!
「……で? 仕事はあるんですか?」
「ん〜。とりあえずモンスター適当に倒しといてよ。出来るならだけど。出現場所は自分で探してね〜。どーせ無駄になることとか、私したく無いし」
もうダメだ、僕はキレる。この受付嬢には喝を入れなくてはいけない。
「あんたなぁ! その態度……」
バァン!
酒場のドアを勢いよく開ける音がして、僕の台詞が中断された。一体誰だ?怒りの一喝に水を刺すのは……。
「うぇ〜〜ん! あの猪ちゃん強すぎるよぉ〜!」
オレンジ色の綺麗なボブヘアを
タンクトップにノースリーブの軽装ジャケット、下はホットパンツにロングブーツ。ニーソックスに包まれた太腿が何とも眩しい装いだ。腰の後ろに幅広で重厚そうな『ファルシオン型』の剣を装備している。『剣士』なのかな……こんなに可愛い剣士は初めて見た。
美少女剣士は、そのままカウンターに来て顔を伏せながら泣き言を言い始めた。
「うぇ〜ん! このままじゃ畑を荒らされて村のみんなも私も飢え死にしちゃうよ〜!」
「……別にアンタは村の人間じゃないから、いざとなったら逃げればいーじゃん。私と同じでさ」
「そんな事、出来ないよっ! この村の人達には助けられっぱなしだもん! そうじゃなくても、ほっとけな……」
と、話している最中に美少女剣士は僕の存在に、ようやく気付いた様だ。
「あっ! キミ、もしかしてソロの冒険者!? 良かったら私と組みませんかっ!? 一緒に村を守りませんかっ!?」
僕を見上げながら迫る美少女……。近い近い!めちゃくちゃドキドキするから!
「あっ、僕も、今来てさ。うん、モンスター退治でもしようかなって、うん。丁度良いから、一緒に組もうかなっ、うん」
明らかにキョドってる僕の態度に引くことも無く、美少女剣士は笑顔で応えた。
「ホント!? やったぁ! 私の名前はサニー! よろしくねっ!」
サニーか。その名の通り太陽のように明るい笑顔だ。……それを見ただけで、心の動揺は無くなり……暖かい気持ちになる。
「……僕は、魔術士のアライズ。よろしく!」
「アライズ君かぁ……。じゃ、『あっくん』って呼んでいい?」
『あっくん』……良いじゃないか。今までのあだ名といえばゴミカスやら出来損ないやら酷いもんだった……それらを払拭する為にも、是非そう呼んで欲しい。僕は快くオーケーした。
「それじゃ行こっか、あっくん! 畑を荒らす猪がいる森に案内するねっ!」
サニーと共に酒場を出る……そんな僕達を、あの受付嬢は鼻で笑っている……。
(……どうせ、〝あの人達〟戻ってきたら手柄全部とられるのに、馬鹿みたい)
……本当に感じの悪い女性だな。見てろよ、必ず成功して帰ってきてやる。
♦︎
現場まで向かう道中、互いの情報交換をする事にした。
「サニーは剣士なの?」
「うん! スキルは【軽戦士】で、素早い動きが特徴なんだよ!」
なるほど、スピードと手数で勝負するタイプの剣士か。そして腰の後ろの剣を見る限り、攻撃力も有りそうだ。どんな補助をかけるか今のうちから考えながら質問する。
「その剣、強そうだね。もしかしてエピック武器だったり?」
名工が最高級の素材で仕上げた逸品、もしくはダンジョンから出土した高性能な装備品を『エピック』と呼ぶ。
さらに上のレアリティを『レジェンダリ』と呼び……現在、片手で数える程しか確認されていない。レジェンダリ装備を持つ者は国家レベルの力を得る……と言われている。
「むっ! お目が高いっ! この剣は『
くるっと可愛く回って腰を見せてくれるサニー。おお……これはこれは、大きくて綺麗な素晴らしいお尻……もとい、煌びやかな鞘に納められつつ凄そうなオーラを放っている剣だな……もしエピックなら初めて現物を見た。これは期待できるぞ。
「あっくんの格好は魔法使いさんだよね? 魔法使えるなんて羨ましいなぁ……」
「まぁ、補助魔法専門だけどね」
「専門! なんか凄そう!」
……そんなリアクションは初めて貰ったな。補助専門と言って嫌な顔をしないサニーと組めて良かった。
「うん、凄い術をかけてあげる。最適最良の補助を導き出す為に、最初だけサニーの戦うところを見てでも良いかな?」
「うん! わかった! うう〜……ちょっと緊張する〜」
そういえば、サニーは酒場で「猪ちゃん強すぎる」と言っていたな。……エピック所持者でも苦戦する敵なら気合入れないとな。……僕も緊張してきた。
『無能』と呼ばれた補助専門魔法使い【リミッター解除】で超覚醒し、最弱から最強へ至る〜チートスキル?いいえ、補助魔法です〜 亜界ハル @osomatuningen
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