第7話 精鋭パーティ 『鬼狩』

 「なんだアンタ、ウチらに何か用かい?」

 

 筋肉質で大柄な女戦士がテーブルから立ち上がる。……師匠くらいデカイな……胸の方はSランクとはいかないが。


「あの……術士を探していると聞きました。良かったら一緒に組みませんか?」


 テーブルに座る格闘士らしき少年が笑いながら話す。


「オイオイ。オレ達『鬼狩』に気安く声をかけるとは命知らずだなオマエ」


 お……鬼狩……?何だろう、聞いた事が有るような……無いような……。


 もう1人、眼鏡をかけた槍戦士が少年を制す。


「やめてください、ラルク。その名は此方では有名ではありませんよ。いかに我々がオーガ殺しの異名を持つ精鋭3人とはいえ……ね」


 眼鏡の男性は横目で僕をチラチラ見ながら話す……この人、功績をアピールしながら話してるよな……?


「オマエら黙りな。リーダーのアタシが交渉するんだからね……。で、術士さん……ウチらにいくら出せるんだい?」


 いきなり僕を雇用主として交渉を始めて来た……僕は現在功績も無いペーぺーと同じ……。まわりくどい話し合いになるよりかはマシかな。


「この場で、即10万は出せますよ」


 女性はニヤリと笑う。


「交渉成立。よろしく頼むよ術士さん……アタイはシェル。このチビはラルク、こっちの眼鏡はルナシード」


 互いに握手と挨拶を交わす……思った以上に簡単にパーティが集まって、ホッとした。師匠から貰った餞別のお陰だ……感謝の気持ちを思いながらシェルさんに10万Gを渡す。


 もし本当に、亜人系最強種族であるオーガを倒せる3人組だとすれば10万の出費なんて、すぐに取り返せるだろう。


「待ちなさい! 鬼狩、貴方達はワタクシと組むべきよ!」


 此方に向かって甲高く叫ぶ女の声が。だ、誰だ……急に横槍を入れてくる奴は?!

 その方を見ると、白銀の髪をした美少女がいた。僕と同い年くらいだろうか。


「なんだいアンタは? 悪いけど、もう交渉は終わったんだ。他を探すんだね、消えな」


 流石の姉御肌を見せつけるシェルさん。た、頼りになる〜!同じ孤児院で暮らしていたルルさんを思い出す……ぶっきらぼうだけど面倒見が良い、みんなのお姉ちゃん……確か戦士として働いてるらしいけど、元気にしてるかな。


「ワタクシは『氷の女王』、レイズ・フローズン。養成所にてSランク認定を受けた超優秀な魔術士ですの。そんな、下等な低級術士なんかと組むよりワタクシの下で働いた方が賢明ですわよ! オーッホッホッホ!」


 なんだ、この人……初対面なのに、図々しい上に口の悪い奴だ。僕は怒りを露わにしながら静かに反論する。


「いきなり割り込んでくるなんて、何のつもりだよ。パーティ探すなら他所へ行ってくれ……! 大体、何だよ氷の女王って……聞いた事も無いぞ!」


 そう告げると、レイズの表情は固まった。


「ワ、ワタクシを覚えていないですって……!?」


 そしてレイズは、急に激昂し始めた。


「ああ〜っ!! 最悪ですわ! ワタクシが覚えていて、貴方の様な出来損ないがワタクシを記憶していない?! 有り得ませんわ! 非常識よ! 全く、記憶力さえも低級ですのね?! この『補助専の無能』!!」


 僕を『補助専の無能』と呼ぶ……という事は、養成所の同級生かっ!……この1年半の不幸がハードすぎて大事な人以外の顔なんて忘れてしまった。特に嫌味な奴等の集合クラスだった養成所のメンバーなんて1人も覚えてない。


「補助専の無能……?」

「どう言う意味だ?」


 鬼狩のメンバー達が、僕の異名を聞いて表情を曇らせる……。


「オ〜ッホッホッホ! その男は〝補助魔法しか使えない〟という低級中の低級……底辺魔術士でしてよ! さ、どうしますの? これでもまだ、そっちにつくと言えるのかしら?」


「ふぅ〜……やれやれ、全く」


 シェルさんは、ため息を吐いて肩を落とす。恐らく僕と同じ気持ち……まったく、この小娘は……と言ったとこだろう。


 が、しかし……。


「悪いね、低級術士さん。アタシらは『氷の女王』に鞍替えする事にした」

「ま、流石に……補助魔法しか使えないなら問題外かと」

「あぶね〜。僕達、騙されるトコだったぜ」


 鬼狩の全員が、レイズの元へ歩いて行った……。最悪の結果に沈黙してしまう僕。


「オーッホッホッホ!! 至極当然の選択でしてよ! オーッホッホッホ!」


「Sランク認定魔術士と組めるなんてね。こりゃあアタシ達、勝ち馬に乗ったようなもんさ。じゃ、行こうか」


 僕の事など忘れた様に酒場を去ろうとする一行を呼び止める。


「ち、ちょっと待て!! せめて、10万Gは返せ!」


 と、近づいた途端……シェルから大戦斧を突きつけられる。


「失せな。出来損ない」


 ……このクズ女とルル姉さんを重ねてしまった自分が恥ずかしい。ルル姉さんなら、こんな事は絶対しない。それに、ルル姉さんの方が100倍可愛い。

 クソッ!こんな結果になるなら植物図鑑を買った方が良かったな……!


 その場から動けない僕を、奴等は嘲笑いながら去って行った。僕達のやり取りは酒場の連中も見ていた様で……。


「あの術士、補助魔法しか使えないって?」

「絶対組みたくねーよな」

「目を合わすな!」


 ……ここじゃ仲間を見つけるのは、もう無理そうだな。


 落胆しているところに、先程まで話していた受付嬢さんが話しかけてきた。


「あのっ……、ジェノバースの『農村区』であれば単身者ソロ向けの仕事があるかもしれません。行ってみてはどうでしょうか……?」


 何もせず此処にいるよりかは、ずっと良い提案だ。


「農村区……。分かりました、親切にどうもありがとうございます」


 優しい受付嬢さんに深く頭を下げて、僕は酒場を後にした……。



 ──アライズが酒場を去った、すぐ後……酒場のマスターが、受付嬢ミントに駆け寄る。


「ミ、ミント君! もしかして農村区に行く事を勧めたのかい?!」


「えっ……!? はい、そうですが……」


「あ〜! ダメだよぉ……あそこはカンパニーの〝お坊ちゃん〟が治める『縄張り』だから荒らしてはいけないんだ……」


「そ、そうだったんですか!? ご、ごめんなさい! 私、知らなくて……あの人を呼び止めて来ます」


「ん〜……いや、いいよ。あの術士さん1人だし、すぐ諦めて戻ってくるよ多分……。次から気をつけてね」


「は……はい」


 ──そんな事を知る由も無いアライズは足早に農村区へと向かったのであった……。

 

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