第2話キミ、才能あるわよ。

 「どうしたの? ボーっとして……怪我でもしてるのかしら?」


 その美女は僕よりも背丈が高く……そして胸までもSランク超えの大きさ……その素晴らしい外見に見惚れてしまい、僕は固まっていた。


「あっ……! す、すいません! あまりの美しさに固まってしまって……!」


「あらあら、お上手ね♪ でも残念! 私、人妻なの」


 そう言って左手の薬指に光る指輪を見せられる。……イカン……余計、魅力的に見えてきた……。


「そ、それは残念だなぁ〜……。じ、じゃなくて! 助けていただき、ありがとうございます!! い、今のは魔法ですか? 凄い威力ですね……一撃でマンティコアを……」


「うーん……でも私、さっき目覚めたばっかりで本調子じゃないのよね。さっき放ったやつはホントだったら、ここら一帯全部消滅させれるんだけど……」


 さっき目覚めた?今、もう夕暮れだけど……夜型なのかな?しかも、ここら一帯消滅できるとか……。嘘か本当か、どちらにせよ……この女性、色々とヤバい人なのでは。


 しかし、近道を塞がれて下山には2日はかかる上に道中はモンスターだらけ……僕1人なら確実に死ぬしかない。どうにかして協力してもらわないと……。


「……助けて頂いた上に、厚かましいですが……良かったら一緒に下山してくれませんか? それにお互い1人では危険じゃないかと」


「あらっ、良いわよ。と地形が変わってて道も分からないし案内してくれると助かるわ」


「よ、良かった! 地図があるので僕について来て下さい!」


「モンスターも出るのよね……これで、私の武器を作るわ」


 そう言って女性はマンティコアの残骸から骨を抜き……。


「【武器生成ウェポンマテリアル】……うん、これでいいかな」


 女性が手に持った骨は一瞬にして、白く輝くロングソードへと変化した。


「便利なスキルですね!」


「そうでしょ! さ、行きましょ〜」


♦︎


 道を進んでいくと、早速レッドゴブリンが現れた。基本体のグリーンゴブリンより強く獰猛な奴だ。


 僕は戦闘態勢に入ると同時に詠唱を開始、女性とゴブリンが剣を交える前に呪文を行使した。


「【攻撃強化】!」


 術により女性の攻撃力が20パーセント上昇。彼女は見事な剣捌きによりダメージを受ける事無く、ゴブリンに幾度と斬撃を浴びせて葬った。

 ……魔法だけで無く剣技も素晴らしいな……一体何者なのだろう。そういえば名前を聞きそびれたな。もしかしたら有名人かも知れない。


 女性は、剣を見ながら、何か少し考えている……そして僕の方を振り返り問いかけた。


「……今の魔法は何?」


「攻撃力を上げる魔法です……。あ、あのすいません……僕、属性持ってなくて……こんな補助魔法しか使えないんです、本当にごめんなさい……」


 怒られたと思い、僕は条件反射で謝罪した。


「え〜っと、謝らなくても良いのよ。怒ってる訳じゃなくて……今の魔法には『属性の力』が感じられ無かったから……こんな魔法は初めてだと思ったの」


「そ、そうだったんですか……」


「これって凄い事なのよ……属性を利用しなければ魔法の行使は理論的に不可能、それは補助魔法も例外じゃないわ。……キミ、名前は?」


 この魔法が褒められた……!幼い頃にシスターマリアに褒められて以来、何年ぶりの出来事だろうか……!


「アライズ……です」


「アライズ……これからはアライ君と呼びましょうか。私の事は師匠と呼ぶよーに」


「し、師匠?」


「そう! アライ君に興味が湧いたから鍛えてあげる事にしたわ! 下山する頃には一皮二皮剥けてるわよっ♪」


 こんな美女に鍛えて貰えるなら、そりゃあ剥けるでしょうよ……でも、僕は下を向いていた。


「……ありがたいですけど、僕なんて……どうせ補助魔法しか出来ない無能ですから……」


「そんなんじゃダメよっ!」


 女性……いや、師匠の一喝にビクッと直立してしまう。


「いい!? 自分がダメだと思ってる者に、未来は無いの!」


 巨大な胸をブルンブルン揺らして向かってくる師匠。何だろう……怒られてるのに、ドキドキする……。


 そして師匠は僕の頭に手を置いた。


「……きっとキミの才能を見抜けない愚か者達の所為で、自己肯定が出来なくなってるのね。大丈夫、私がアライ君の才能を伸ばしてあげる……任せなさい」


「ハ、ハイ……!」


 初めて会ったばかりなのに、この優しい声を聞くと全てを委ねたくなってしまう……。


 ガサッ。


「ゲギャッ」


 そんな雰囲気を、ぶち壊す汚らしい声。離れた草むらから再びレッドゴブリンが。しかも次は見たところ外皮が強化され鎧を装備している『アーマードタイプ』……一筋縄じゃいかなそうだ。


「それじゃ、早速……実戦指導といきましょうか」


 師匠の期待に応えてみせるんだと、胸が高鳴る。


 そうだ……僕は、無能なんかじゃ……ない!

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