『無能』と呼ばれた補助専門魔法使い【リミッター解除】で超覚醒し、最弱から最強へ至る〜チートスキル?いいえ、補助魔法です〜

亜界ハル

第1話『補助専の無能』と呼ばれた魔術士

 全ての民は15歳になると『養成所』に入る事が義務化されている。

 期間は1年、卒業後は養成所から斡旋された職業に従い、決められた人生を送る。


 そして先天性スキル【魔術素養】がある者は養成所の魔術科コースに必ず入れられる。僕も、その1人であり1年間の教育期間を終え……無事、卒業式を迎えた。のだが……。


「アライズ。お前には何の才能も無い。史上最低の出来損ない魔術士だ」


 老獪ろうかいな魔導教官から贈られる言葉は、僕への侮辱にまみれたものだった。


 それには理由がある。この世界に生まれし者は【スキル】と【属性】を持つ。例えば【火】の属性を持ち、【剣士】スキルを持つ者は火炎を纏う剣技を扱う戦士となる。

 そして、【火】の属性を持ち【魔術素養】があれば『火の加護』を利用した攻撃、回復、補助魔法を習得していく。


 しかし僕には生まれつき属性が無かった……なので、扱えるのは攻撃力を上げたり出来るとか……そういった程度の『補助魔法』のみ。

 そんな僕を教官や同級生は見下し軽蔑している。養成所に入った日から卒業に至るまで、ずっとだ……。


「お前には異名すら与えたくないが、規則だからな……明日から『補助専の無能』とでも名乗るが良い。グハハ」


 他の生徒は『炎帝の申し子』やら『氷の女王』とか凄そうな異名を貰ってるのに、僕に与えられた酷過ぎる異名……いや、仇名に他の生徒達はクスクスと嘲笑する。


「今季の魔術科はSランクかAランク卒業生ばかりなのに、アイツだけEランクだってよ」

「しかも彼、孤児院から来たって……」

「『黄金世代』の面汚しよね」

「卒業後に、すぐ死なねーかな。それか誰か殺せよ」


 自慢じゃないが、ここに友達は1人も居ない。……孤児院の時は明るかった僕も、ここじゃ肩身の狭い日陰者だ。


 養成所での1年間も地獄だったが卒業してからも、苦しい状況は続く……。『補助専の無能』なんて異名の新人魔術士を雇うパーティなどおらず僕に与えられた仕事は……『下層』にしか無かった。


 『下層』とは『王都ラシントン』にある地下エリアの事で……分かりやすく言えば、広大なゴミ捨て場に人が住んでいるような所だ。


 文字通りの汚れ仕事を行い、報酬も極めて少ない。私生活は残飯漁りで飢えを凌ぐという悲惨極まりない生活を送っていた……。


 そんな生活を1年程経験した後に、とあるパーティにスカウトされる。捨てる神あれば拾う神あり……と思ったのだが……。


「この役立たずのゴミカスが! もっかい、立てなくなるまでボコボコにしてやんよ! 死ね!」

「おい。金貸せ、無能。あ? こないだの金を返してくれ? 黙れ、口答えするな」

「おい、雑用。手ぇ抜いてんじゃねーぞ! 部屋の掃除も完璧にしとけよ。後で雷撃喰らわすからな。ギャハハ!」


 暴言暴力恐喝カツアゲ……山賊もビックリなクズ3人組がいる最低最悪なパーティであった。既に半年在籍しているが、もう限界だ……辞めたい。


 しかもコイツら全員、家族が権力者らしく所属ギルドの職員に掛け合っても「黙って我慢しとけ」と一蹴されてしまった……もう、どうしようも無い。


 仮に逃げたところで結局は下層での生活が待っている。……あれ、僕……もしかして人生詰んでる?


 こんな最悪な人生を過ごす事になるなんて……ああ、シスター・マリアの優しい微笑みが懐かしい。

 そんな孤児院時代の思い出に浸りながら今日も馬小屋で寝る……。雑用雑務全て僕に丸投げの働き詰めにより、寝ても疲れは取れやしない。

 明日は遠征、場所は『ガラヒゴ山』か……あんまり殴られませんように……。


♦︎


 ─『ガラヒゴ山』


 パーティ全員の荷物を持ちながらの険しい山道の森林山を登っていく……溜まった疲れに追い討ちをかける苦行だ。


 今回の仕事クエストは所属ギルドの偉い人から受けたという勅命クエスト……確か内容は、強力なモンスターの討伐。……すでに何日も山登りで酷使されててキツいのに気が滅入るな……。


 こうして……ようやく山頂付近に到達。そこで見たものは……。


「グルルル……。グジュ。ガジュ……」


 翼の生えた獅子の身体に蠍の尾を持つ巨大な化物、マンティコアが筋骨隆々のミノタウロスを仕留めて捕食している場面……。よりによって依頼対象がマンティコアだなんて……。

 人間も魔物も、お構いなしに食い尽くし生態系を破壊する危険度A級の凶悪モンスター……。腕利きのパーティがコイツに全滅させられたって話も聞いた事があるぞ……!


 僕達は、気付かれないよう木々の影に隠れて身を隠していた。パーティーリーダーのザッカスは何か考えているようだ……。

 この3人組はクズだが、僕よりは遥かに強い。確か『フィアー・ローエンド』とか名乗ってて、その強さと悪名を轟かせている。

 普段、真面目に仕事してない3人だが本気で戦ったら、もしかしてマンティコアに勝てるのかな……。


「よし、帰るぞ。あんなん戦うの、怠いわ……それに、欲しいアイテムは手に入れたから用はねぇ」


 ……え? 今帰るって言った? ここまで来たのに?!


「ああ。アレは時間がかかる……まぁ、勝てるには勝てるけどな」

「賛成〜。俺、女と約束あんだわ」


 ザッカスの提案に賛成する大剣士リンタルと雷術士ネチカル。

 

 耳を疑う提案に、僕は意見した。


「あ、あのっ……勅命クエストをリタイアしたらマズイんじゃないですか? それに、あの化物が人里に下りたら大変な被害が……」


 ドスッ。


 ザッカスの腹パンが僕の身体にクリーンヒットする。


「うぐっ……!」


「誰に物言ってんだテメェ? 雑魚の癖にイキがるなゴミカスが!」

わきまえろよ無能。他人が、どうなろうが知った事か」

「偽善者うぜぇ〜……」


 ……コイツら、本当に最低のクズだ……!僕は腹を押さえて下を向きながら、何も出来ない無力な自分を悔やんだ。


「……良い事考えた。このゴミカス野郎がマンティコアを1人で食い止めるってのはどーよ?」

「ギャハハ! 名案だぜザッカス! 流石パーティリーダー!」

「ああ。自分の発言には責任持たないとな……僕が投げてやるよ」


 力自慢のリンタルが僕を持ち上げる……!う、嘘だろ?!マンティコアを1人で相手するなんて無茶だ!殺されてしまうっ!


 しかし、そう叫ぶ間もなく……事は実行された。


 ドサッ……!


 マンティコアの前に投げ飛ばされる僕……そして、大きな黒い瞳は僕を捉えていた……!


「……グォオォオッ!!」


「う、うわぁぁぁ!? うわぁぁあっ!?」


 こ、殺されるっ!! 僕は恐怖で立ち上がれず尻餅をついたまま絶叫する事しか出来ない。


「ハハハッ! いーぞリンタル! ナイスコントロールだ! 見ろ、あのゴミカス野郎を! 情けねぇ! だっせぇ! ありゃ死んだわ! ハハハッ!」


「ギャハハ!! やべぇ! 腹いてぇ! ギャハハ、頑張れ〜無能〜! 追放しとくから安心して死んで良いぞ〜!」


「フン……!あいつを痛ぶるのも飽きたし丁度いい無能を処分って訳だ。じゃあな雑魚野郎」


 草むらから下衆3人組の笑い声がする……!人生最後に聞く声が、こんなモノでたまるかっ!!


「く、くそぉぉ!!」


 自分を奮い立たせて、どうにか立ち上がる……!


 とにかく……っ! 今は逃げるしかないっ!

 

 僕は脱兎の如き勢いで逃走を開始した。


♦︎


 僕は、躍動やくどうする生存本能のままに野山を駆け回り……追跡を振り切ろうとした。


「はぁっ……! はぁっ……!」


「グルル! ガァアッ!」


 しかし……マンティコアは、どこまでも追いかけてくる……!この終わりの無い、死のレースは一体いつまで続くんだ!?


 !? しまった……岩壁……! い、行き止まり……!?


「そ、そんなっ……?!」


 立ち止まり、振り返ると……マンティコアは既に近くまで迫ってきていた……。


「グォアアッ!!」


 咆哮と共に蠍の尾が迫る……毒で動けなくしてから、ゆっくりと味わいつつ僕を食べるつもりなのだろう……。お、終わった……。僕の人生って……一体何だったんだ……?


「【対消滅バニッシュ!】」


 ……?! 


 マンティコアの身体の大部分が突如くり抜かれた様に消滅し……残った手脚がボタボタと崩れていく……音も無く、唐突に……!


 ……な、何が起こったのか全く分からない……。


 た、確か女性の声が聞こえた。誰かが助けてくれたのだろうか……。


「キミ、大丈夫? 危ないところだったわね」


 聞いてるだけで癒されそうな落ち着いた声の方を見ると、そこには綺麗な栗色の髪の……とても妖艶なプロポーションをした美女が立っていた。

 

 

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