第7話 侯爵家

 違法奴隷商に手入れがあり、思いも寄らずに自由になった。

 しかし、自由になったからと言って暮らして行けないし、帰る術も無い。


 奴隷購入と見せかけて手入れに来た衛士隊の侯爵様から侍従の勧誘が有ったので、渡りに船と見習いの契約を結ぶ事にした。

 これには一緒に教育を受けていた獣人の姉妹も一緒に働かせて頂ける様にお願いして、幸いにご息女のお眼鏡にも叶ったので、纏まって侯爵家に移動する。


「では、娘のサマンサと一緒に我が家へ向かってくれ。馬車はもう一台手配しているので、それで行くと良い。」


「はい。分かりました。お心遣いありがとうございます。」


「クロス…君は本当に…。まぁ後でゆっくり話しよう。」


「…?、はい。分かりました。」


「じゃ、頼むぞ。」

 フリードリヒ侯爵は周囲の騎士様たちに声がけして奴隷商の屋敷に戻って行く。


 そこにゴッサンが馬車でやって来た。

「乗れ。」

 ゴッサンが乗って来た馬車にロココラササ姉妹と乗り込む、と同時に馬車が動き出す。相変わらず説明の無いゴッサンである。


「これから貴族様のお屋敷に行くんだよね?」と、ロココ。


「ああ、勝手に話進めちゃったけど良かった?」


「うん。どうして良いか分からなかったし、どっちにしても帰れない見たいだし。」


 ロココラササ姉妹は売られたことを知らなかったみたいで、働きに出るつもりだったのが騙されて奴隷にされたと思っていた。

 それが最初から奴隷として売られていたのがショックだった様だ。


 その事については僕は何か言える訳じゃないけど…

「どっちにしても貴族様のお屋敷に雇って貰えるなんて事は中々無いみたいだから、良かったのかも知れないよ。」


「…うん。そうだね。」


 まだ理解はしても納得は出来ないって顔してるね。

「僕も攫われて無かったら村から出れなかっただろうし、あんな勉強や色んな事を教えて貰えなかったと思う。だからとってもチャンスなんだと思う。」


「…そっか。村から出れたし、ちゃんと働けば借金奴隷から解放されるかも知れないしね。」


「そうだよ。物は考えようってね。」


「ふふっクロスと一緒だし、ちょっと落ち着いたよ。」


「そりゃ良かった。」


 ロココとそんな会話をしている間、ラササはウトウトと夢の中だった。

 だって、ここ王都に来るまでの道に比べたら全然揺れないし、馬車にはちゃんとシートが有って、とっても乗り心地が良いんだもの。


 馬車の外を見る余裕が出て来て、窓から街を眺めると奴隷商があった商業地区を抜けて貴族街に入る様だ。

 ゴッサンが教えてくれた。

「貴族街の検問だ。」


「「はい。」」

 ラササを起こして服装を整える。


「見習いの侍従とメイド二人ですね。はい。確認しました。」


 扉を開けて騎士様が僕らを見て確認した。

 直ぐに扉は閉められて、ゴッサンに何か話しかけていた。


「---長、お疲れ様です。---今回---です。---」


 所々しか聞こえないけど、もしかしてゴッサンって偉いのか?

 いくつかやり取りをしてから馬車は動き出した。

 相変わらず何も言ってくれないが、ゴッサンの態度が貴族街の検問所でも変わらなかったのが何となく嬉しかった。


 貴族街検問所を抜けて暫く経つが、まだ着かない。

 外の風景は、広大な敷地に巨大なお屋敷が並ぶ。頑丈そうな門塀が続き、一軒一軒の間がとても広い。

 遠くにはお城と思わしき高い建物が見え隠れするが、今日は霞んでいてよく見えない。


 ここってどんだけ広いんだよ!?とウンザリする頃に馬車は止まった。

 巨大な門扉に守られた、さっきの検問所より立派な門。

 ゴッサンがまた騎士様とやり取りして僕たちを確認する。

 先ほどの門兵たちと違って、もっと若い者も混じっていて何か指導されている様子が見える。

 こちらに向ける視線に少し親近感が伺える。


 思わず鑑定しようと思ったが、感知されたら感じ悪いよなと思って踏み止まった。


「フリードリヒ侯爵家にようこそ。我々はあなた方を歓迎します。」

 一番年かさの男が前に出て歓迎の言葉をくれた。


「あ、ありがとうございます。」

「「ありがとうございます。」」

 思わず涙ぐみそうになった。ロココとラササ姉妹も僕に遅れてお礼を伝えた。


 歓迎されるなんて思っても見なかった。

 無関心か見下されると思っていた。入り口で歓迎されるなんて、メチャクチャ嬉しかった。

 ゴッサンがふっと笑った気がした。

 それが何か気に入らなかった。


 門を抜けて馬車は走り出す。

 走る。走る。つか、お屋敷なんて見えない。

 向かう先には、森です。

 そう。先には森しか在りません。


 とってもゴッサンに聞きたい衝動に駆られるが、どうせ答えて貰えないだろう。

 そんな風に考えてました。


「あの、この先には森しか見えないのですが、お屋敷はあの中ですか?」


 おお!?なんとロココがゴッサンに聞いて見てる。


「ああ。あの森の中心に侯爵様のお屋敷がある。もう少し掛かるぞ。」


「はい。ありがとうございます。」


 あれ~?なんでロココとゴッサンは会話が成り立ってるんだ?

 僕が聞いても基本はスルーか一言で済ますよね?

 な~んか釈然としないぞ。

 やはり女の子だからか?ゴッサンも男って事か?

 ちょっと悶々としてるうちにお屋敷が見えて来た。


「「「………」」」


 でけぇ…

 この一言に尽きるお屋敷が見えて来た。

 僕らは言葉無く、ただお屋敷を見上げていた。


 お屋敷の正面玄関前に馬車が横付けされた。

 そして中央にはサマンサお嬢様。その左右には使用人の偉い方々?多分、執事長、メイド長を筆頭に侍従とメイドの使用人が並ぶ。その数ったら…

 いやいや、何人いらっしゃるんですか?100や200じゃ利かないよね?


「「「「「いらっしゃいませ。」」」」」


「「「…はい。」」」

 地響きの様な全員からのご挨拶に真面に返答出来ませんでした。


 ちょっと意識飛ばし掛けました。

 いや、ロココとラササは既に意識飛ばしてメイドさんに支えられてます。

 いつの間に?


「あ、ありがとうございます。本日からお世話になります。クロスと申します。どうかよろしくお願いいたします。」

 頑張って挨拶しました。

 足はガクガク、口上もカミカミ、涙目でも何とか頭を下げました。


「「「「「おおおぉぉ!!」」」」」

 皆さんから拍手喝采頂きました。


「クロスさん。お話は聞いております。サマンサお嬢様からお言葉がありますので拝聴して下さい。」

 メイド長と思われる年かさの女性からお言葉を貰いました。

 執事長と思われる御仁はにこやかにこちらを観察?していて絶対油断ならない気配。


「クロスさん。これから我がフリードリヒ侯爵家に仕えると聞いています。ただ、今日だけはお客様です。どうかよろしくお願いしますね。」


「は、は、ハイ。どうぞよろしくお願いいたします。」

 雰囲気に充てられて飛びそうだった意識を何とか保って初見の挨拶は終了した。

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