第6話 貴族家
「次にこれからの話をしよう。」
「これからの…」
「そう。色々選択肢はある。クロス君は攫われて此処に来た。だからエルフ村に帰る事が一つ。他に折角王都まで出て来ているから此処で生活するのが一つ。最後に本当に貴族家に仕えるという選択肢もある。これは当然奴隷などでなく正式に契約をする使用人と言う扱いだ。」
「使用人…」
「そうだ。その場合は取り合えず我が家で教育してやろうと思う。聞いた処によると、中々優秀だと言う話だし前向きに取り組んでいた様だから、お勧めだと思うがね。例えば他の貴族家でも良さそうな家が有れば紹介状を書いてあげよう。少し考えてみると良い。」
「…はい。分かりました。ありがとうございます。少しだけ考えさせて下さい。」
「うむ。後程には答えは貰えるか?いつまでも此処には居られないし、色々と手続きもあるからな。」
「はい。分かりました。」
フリードリヒ侯爵はクロスに一通り説明すると、ロココラササ姉妹に向き合う。
「さて、次は君たちの番だ。良いかね?」
二人ともかなりテンパっていて、真面に返事も出来ていない。
「ロココ!ラササ!」
二人に声を掛けて促すと、
「あっ!はい!あっ!す、すいません!」
戻って来たみたいだけど、ちゃんと理解出来てるのかな?
「先ほども言ったけど、そんなに緊張する必要はないぞ。」
侯爵のセリフを考えると、試験の時も緊張でグダグダだったのかも知れないな…
「君たちも選択肢としてはクロス君とほぼ同じとなる。」
…ほぼ?違いがあるのかな?
「彼の場合は強制的に攫われて奴隷にされたのだから彼自身に落ち度は無い。しかし君たちの場合は売り渡されて対価を受け取った者が居る。だから対価を返却すれば一般市民となれる。今の扱いは借金奴隷となる。」
そう言う事か。対価ね。村での扱いは酷かったって言ってたから売られた金は村の人間に渡ったんだろう。
「で、でも私たちの知らないうちに勝手に売られたんです。だ、だから攫われたのと変わらないんでは?」
「うん。言う事は分かるよ。しかし現実に対価は支払われていて君たちも此処に居る。それに同意する署名をしているね?」
「あ……はい。署名…しました。でもそれは出稼ぎに行く契約書だって!?」
侯爵は悲しい顔をして続ける。
「残酷な言い方をするが、君たちは村の人間に売られたんだ。だから署名した以上、対価を返却しないと立場は変えられない。村に帰るという選択肢は、対価を取り返して帰る条件となる。」
ロココは俯いてしまった。
対価が幾らなのか分からないが、取り返せれば良し。ダメなら働いて返すしか無い。
選択肢のうち、王都で暮らすのに仕事も家もこれから探すには無理がある。
だったら…
「あの、侯爵様?発言して宜しいですか?」
「ああ、構わない。どうした?」
「貴族家で雇って頂くのはロココたちも条件は一緒ですか?」
「条件は全く一緒とは言えないが、給金の事を言ってるのかね?」
「はい。私たちは王都に身寄りはありませんし、今から仕事と住む場所を探すには無理があります。もし私と一緒に侯爵様の所で給金を頂ける仕事を与えて頂けるのであれば、対価を返却する近道になるのでは?と考えました。」
「ほう。聡いとは思っていたが、そこに考え付くとは子供とは思えない機敏の良さだな。この娘達が良ければ一緒に雇うのは構わないぞ。」
「侯爵様、ありがとうございます。」
「ロココ、ラササ、どうする?聞いた通りここには居られないし、良かったら一緒に働かない?」
「…はい。あ、ありがとうございます。ラササ、一緒に侯爵様にお礼を言って。」
「はい。ありがとうございます。」
3人で並んで頭を下げる。
そこに、ノックと同時に入って来た者が居た。
「お父様?お話はお済ですか?」
侯爵様の娘。サマンサと言ったっけ?
「ん?まだだな。」
「それは大変失礼しました。お父様がそんなに時間を掛けるとは思いも寄らず先走ってしまいました。」
「今回は構わないぞ。次回は無いがな。」
親子の会話とは思えない様な寒風吹きすさぶやり取りを経て本題に入る。
表面上はにこやかに話しているが…
「今回のメンバーは奴隷身分ではない者も居る。正式契約を結ぶので準備をしておけ。」
「それについてお願いがあるのです。」
「ほう。なんだ?」
「正式契約に至るのは、そこのクロスだけだと思います。」
「……何故そう思う?」
「…これまでのやり取りからその結論に至りました。」
とても苦しそうに理由を述べる。
それじゃ説得力ないなぁ…と他人事の様に聞いているが、本人の話である。
「どんなやり取りからその結論になった?」
そりゃ突っ込まれるよね。
返答に困るだろうなぁ。と思っていたら、意外とちゃんと真面な返答をしたので意外だった。
「先ずはその物腰と態度です。売られる先で主の奴隷商が襲撃されているにも関わらず冷静に物事を見て分析している。その上で闇雲に逃げたり反抗したりせずに状況に合わせて対応していたのはクロスだけだと思います。」
「ほぅ~~!!そうか!お前も随分と大人になったようだな。てっきりクロスに惚れたのかと思ったが。」
「お父様!!」
鋭い声が入って侯爵様は言葉を止めた。
「お~!怖い怖い!サマンサ。今回は及第点を上げよう。クロスとメイドの二人、ちゃんと育てて見なさい。」
「…あ、はい!ありがとうございます。」
こうして、僕とロココとサララの3人は侯爵令嬢サマンサ様の侍従とメイドになった。
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