第4話 教育

 奴隷に施す教育なんて、大した事無いと思っていました。

 そんな甘い考えの僕は吹っ飛んでいきました。

 大した事無いなんてとんでもない!!


 何でもオーナーの目指す考えが、知性ある賢い奴隷なんだそうで、起床から就寝までの規則正しい生活改善から始まって、午前中は座学で、常識事項、礼節、マナー、語学、算数。午後は魔法と戦闘訓練。

 一日朝から晩まで叩きこまれる。

 正直言って舐めてました。


 ・常識事項

 この世界と国の名称と位置付け、大陸の状況、王族と貴族の基礎知識、金の価値と通貨の状況、などなど。

 ・礼節、マナー講座、語学

 おはようございます。から、おやすみなさい迄の日常挨拶から敬語の訓練。貴族への対応と目上の人へのマナー、食事のエチケットとマナー、などなど。

 ・算数

 基本四則計算。

 ・魔法

 発動とコントロール。

 ・戦闘訓練

 剣術、短刀術、棒術、他に得意そうな武器。暗器?周囲にあるもの何でも武器にする?それって暗殺術じゃないの?


 これらをひたすら訓練、訓練、訓練、訓練、訓練・・・・・・


 お陰で3か月も経つ頃には最低限の知識とマナーは身に付きました。

 この訓練の恐ろしい所は、決して罰則が有る訳じゃない。

 ただ出来るまで繰り返す。ひたすら繰り返す。心折れても繰り返す。そうしてるうちに出来るようになる。

 ただ、日々新しい事を教わるので繰り返すことがドンドン増える。


 ロココとラササも加わるが一緒に訓練する事と別に分けられることが有って、全てを一緒に訓練する訳じゃ無い。

 ロココとラササと僕で泣きながら繰り返していたが、3人で協力してやると意外とすんなり覚えたりする。日常の行動から互いに気を付けて注意し合って覚えていく。


 そんな様子を眺めていたオーナーから声が掛かった。


「お前たちは前向きに学習していると報告を受けている。ある貴族家が試用して頂けるとの事だ。3人纏めて6か月間雇って頂ける。そのつもりで準備しておく様に。」


 ジャンとローブとゴッサンともう一人。

 キツイ顔した女の人、シャディさんが簡単に説明してくれる。

 貴族家へのお試し雇用。要するに試用期間を設けて雇用に耐えられるかのテスト期間ですね。能力や勤務態度、常識やマナーを試されて合格すれば正式雇用。

 奴隷ですけどね。


 ここで一つ疑問が生じる。

 この試用期間を経て、不合格の場合はどうなるのか?

 処分されちゃうんじゃ必死に頑張るしかないが、再教育として勉強が続けられるのなら、その方が良いかも?と思う。なんせ勉強させてくれる待遇なんて中々無いらしいからね。


 この辺りの事をロココとラササに何とか機会を伺って相談して見たが、有力な情報は無かった。


 先ほど説明の時に出て来たシャディさんはロココとラササの教育係だ。

 メイドの仕事や女性の仕事を教えてくれる人で、どんな内容かをちょっと聞いたら赤い顔して色々な事で簡単に説明できないと言われてしまった。

 シャディさんは普段は僕には関わりないのでどんな人かは良く分からない。


 不合格だとどうなるのか不安だと、ローブにそれとなく相談して見る。

 自分はエルフだから魔法を期待されても期待にはまだ応えられない。

 だから雇用不合格になったら処分されてしまうのか?と。


 意外とあっさりした答えが返ってきた。

 何でも奴隷は高価なので一発で決まる事は珍しいらしい。

 ましてや、この奴隷商は賢い奴隷を売りにしているので、一般の奴隷より高価なんだそうだ。だから色んな奴隷をお試しで使ってみて、気に入ったのを買い取って使うのが貴族家では多い。逆に商人とかはやる事が決まっているので体力や能力の出来で決まる事が多いとの事。


 因みにここの奴隷商の屋号はなんて言うのか聞いてみたが教えてくれなかった。


 そうかぁ、賢い奴隷が売りで今回のお客様は貴族家って言ってたから、変に取り繕った自己アピールするよりは、ちゃんと出来る事と苦手な事を正直に話す方が良いかも?この辺の事もロココとラササと相談しながら立ち回るのが最善ですね。


 貴族家へ派遣?されるのは1ケ月くらい先らしい、それまでは精一杯勉強しておこうと思う。

 ロココとラササに相談出来る機会も少ないから、ちゃんと考えて置かないとね。



 派遣されるまで2週間前ってタイミングでロココとラササには相談出来た。

「うん。話は分かったし、考えも分かるよ。あたしはラササをちゃんと扱ってくれる環境なら良いと思ってる。」

「ラササはロココが良いなら大丈夫。ちゃんと頑張る。でも痛いのは嫌。」


「えっ?痛い事されてるの?」


「そうじゃなくて、ここではちゃんと教えてもらってるわ。村に居た頃の方がイジメられたりしたのよ。」


「そうだったのか。…僕としては今回の貴族家で君たちが良いなら頑張るよ。ダメそうな家なら教えてくれれば何とか帰れる様にしよう」


 二人とも相談できたし、後は貴族家に行く日まで復習しておこう。

 そう思ってローブにお願いをする。

 僕たちは貴族家で何を求められてるのか分からない。

 だから、僕たち三人で命令されそうな内容を試験してくれないか?


 ローブとジャンはビックリしてた。

 まぁ、そんな前向きな奴隷は今まで居なかったって事だろう。

 ローブに相談したので、ジャンは何か悔しそうだったのが笑える。


 その話はちゃんと旦那様にも伝わって、随分と喜んでくれた様だ。

 教育の成果を見せる日は貴族家に向かう3日前となり、テストの内容は当然秘密。

 不出来な部分を復習する時間はギリギリだが取れそうだ。


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