第3話 魔法

 魔法を打って見ろと言われて、枷を外されて首輪を替えられた。

 首輪は隷属の首輪。魔力阻害の首輪から隷属の首輪に変更ですね。

 こりゃ、迂闊に逆らえないな。

 誰がご主人様設定なの?誰の言葉に逆らうと首が締まるの?

 試してみようか。

 僕は首輪の内容も知らない筈なんだし。


「嫌だよ。」


「あ?」

 ローブがめっちゃイラついた表情に変わった。分かりやすいね。


「……」

 黙ってたらジャンが前に出てきた。


「お前、逆らうと良い事無いってさっき聞いてなかったか?」


「……」

 黙って無表情でジャンを見てみる。


 ゲフッ…

 腹に蹴りを入れられた。

「何舐めた態度取ってんだ?ご主人様に乱暴するなって言われたのと教育は別だからな。」

 そう言いながら頭を引っ叩かれた。


 表面上に傷を付ける訳に行かないからこういう対応なのかな?

 無表情のままで上級の大きさの火の玉を拵えて、ゆっくりジャンを睨みつける。

 上級の火球だから大きさは1m弱くらい。


 ジャンは火の玉を見て、一歩二歩と下がった。

 驚愕の表情頂きました。

 頭の上の火の玉をショボショボと小さくして、座り込む。

 汗をかいて座り込む僕を見て、ローブが近寄って一言。


「まさか、魔力切れか?」


「……」

 チラッとローブを見上げて辛そうに座り込む。


「あぁ、そう言う事。そりゃ嫌がるよな。」

 訳知り顔のローブにジャンが問い詰める。


「そう言う事って、どういう事だよ?」


「あ?分かんねぇの?」

 ローブはジャンに蔑んだ視線を向けるが、しょうがねぇって言葉にしないで言ってから説明する。


「こいつ、魔法発動は出来るけど魔力が少なくてコントロール出来ねぇんだろ。エルフだから使えねぇ事はねぇけど、生活に使うのが精一杯なんじゃねぇか?」


「なんだ?それ?結局魔法は使えねぇって事か?」


「あー…魔法使えねぇ奴にゃ理解出来ねぇよな?」

 再度ジャンに蔑んだ視線を向けると、苛立ったジャンはローブに食って掛かるが、お前にゃ理解出来ねぇってあしらわれて悔しそうな視線をこちらに向ける。


「お前、生活魔法は出来るんだろ?やってみな?」

 ローブに言われてそこは大人しく魔法を発動して見せる。

 指先に火を灯し、コップに水を満たし、風で埃を吹き飛ばし、小石を作って飛ばして見せる。どれも基本で最初に覚える魔法だ。


「お前、エルフの里で居ずらくなかった?」

 ローブから思い通りの言葉を聞けたので、悔しそうな顔をしてそっぽを向く。

 しかし、劣悪な環境には行きたくないので言うべき事は言っておこう。

「まだ魔法修行中だから、これからだから。この先、攻撃魔法だって使えるようになるのは村長のお墨付きだから。」


「……そうか。わかった。」

 ローブは納得してくれた顔をしてた。

 ジャンはどういう事だ?って態度を露わにしてる。


「魔法使えない奴には分からないかもな。魔力はある。でも多くはない。コントロールを覚えれば攻撃魔法が出来るかも?まだ子供だからこれからに期待。でも多大な期待はすんな。ってトコかな。」


 苦虫を嚙み潰すってこんな顔だよね。って顔をしたジャンは納得出来ないと憤る。

 そりゃ苦労して捕まえたエルフがこれじゃあ何の功績にもならないよね。

 エルフだからって魔法が万能じゃないんだよ?

 な~んて思いながら上手く行ったと笑いそうなのを無表情に堪える。


「もう良いから部屋に連れてってやれよ。」

 ローブのその言葉で、腰ひもをゴッサンに引っ張られて連れて行かれる。


 無言で紐を引っ張られて、とある部屋の前で止まる。

 あれ?

 この部屋も魔法結界が張ってある。

 これじゃ、無能になってた意味無いじゃん?

 魔法が使える状態で一人部屋に入れれば勝機はあるかな?なんて甘かったね。


 ゴッサンが無言で鍵を開けて僕を部屋に押し込める。

 一緒に部屋に入って簡単な説明を野太い声でしてくれる。

 一通りの説明に頷いて理解を示す。


 ゴッサンは部屋を出るときに一言。

「ここに居る間は大人しくしとけ。」


 そう言って部屋に鍵を掛けた。


 そうか。どんな意味かな?

 僕の身の為か、彼らの身の為か?まぁどちらの為でもあるかな。

 次に隷属の首輪に付いて考える。

 ローブに逆らっても首輪は締まらなかった。ジャンも違うだろう。

 ゴッサンは……まぁ違うよな。


 普通に考えればご主人様に逆らうなって事だから、オーナーに逆らうなだろうね。

 今、逃げ出してもオーナーに知られた時点でアウトなんだろうな。

 ロココとラササもどうしてるか気になるし。

 とりあえず大人しくしておこう。



 部屋の中を物色する。

 4mx3m位の部屋でトイレと洗面所、小さいシャワーが付いている。

 これは、かなり待遇が良いと考えて良いだろうね。

 奴隷ってもっと狭い檻に閉じ込められて、下手したら垂れ流しで、風呂なんて入れなくて、飯も碌に食えない環境で暴力で言う事を聞かされる様な扱いだって聞いていた。だから絶対にエルフ狩りには捕まるなって里では言われてたんだ。


 でも、ここは真面な奴隷商なのか?劣悪な環境じゃない?旦那様が商品の扱い云々言ってたから、暴力で言う事を……いや、さっき蹴られたばかりだ。でも教育は別だって?仕入れ方法は人攫いだし、犯罪なのは間違いない。

 仕入れはともかく、環境整えて綺麗で賢い奴隷を育てて高額で売るってことか?

 いま考えても分からないか。もっと色々情報を集めてから考えよう。


 この部屋は魔法結界付だし、魔法の練習でもしてみようかな。

 考え事が多いときは無心に魔法でも使うに限るよね。


 部屋の中なんで水と風を中心に偶に火を使って魔法の修行をやろう。

 土魔法は後に残ると言い訳出来ないから、コソコソと目立たないように魔法の練習に打ち込んだ。


 水の球を浮かべて、風でジャグリングの様に回す。

 小さな火を風で煽って強い火に変える。どんどん煽ると赤い火が黄色くなって白くなりそのうちに青くなっていく。

 もっと煽ればもう少し変わりそうなんだけど、部屋の中じゃ危なそうなんで此処までにしておく。


 水を霧状にして汗をかいてるようにして、火と風の暖かい風でサッと乾かす。

 さっき上級のデカい火の玉を出したときに使った魔力切れの振りはこの魔法だ。


 僕の魔力はかなり多い。じゃなきゃ収納魔法なんて使えない。

 でも、絶対バレない様にするつもりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る