第17話 ワッショイ! 市民祭りは恋の予感?(後編)

 夕方4時を過ぎ。


 焼けつくような日差しがまだまだ残る中、くりかん御輿は出発した。


 暑さにうだる中、昼間の熱を残したままのアスファルトの上を歩くのはなかなか苦行だった。


 でも、途中途中でお庭にある水道からホースで水をかけてくれる(?)お宅がいくつもあり、山並みに日が傾く頃には、暑いとはいえ風が涼やかになってきた。


 何度かの小休止を挟み、一時間ほど練り歩いた地点で大休止となった。

 この時間に昼間買い込んだ夕食というか軽食で腹ごしらえするのだ。


 クラスのみんなにおにぎりやチキンを配ったあと、夢歌さんもおにぎりを食べ始めて……喉を通らない。


 喉がひりついて、水分不足なのが別の理由によるものか、分からないけど、とにかく飲み込むのも一苦労で。


 残っていたペットボトル半分の緑茶を使って、なんとか口をつけたおにぎりだけは食べ終えた。

 でも、チキンは手付かずのまま。


 パック入りのゼリー飲料は持ち帰るとしても、この陽気でさすがにお惣菜系を持ち帰るのは、食中毒の心配もある。


 みんなに、なるべく残さないで食べきるか、食べられる人に(主に男子)早めに分けて、と注意したから、よく分かってる。


「夢歌ちゃん、食べないの?」


 チキンを持ったまま固まっていた夢歌さんに声をかけてきたのは……歩くんだった。


「……なんか、喉通らなくて」

「暑いしね、揚げ物はキツい人もいるかも。食べられないなら、僕食べようか?」

「いいの?」

「うん、まだヨユー」


 おずおずとチキンの紙袋を手渡すと、歩くんは「ありがと」と言って、封を開けて3口で完食してしまった。


 が、さすがに一気に食べ過ぎたのか、喉を詰まらせたように、咳き込む歩くん。


 手持ちのペットボトルのお茶を飲み干しても、まだ胸をトントン叩いている。


 夢歌さんは、慌ててクラスのリアカーからお茶を取ってくる。


「麦茶でいい?」

「ん、……りが……と……」


 ゴクゴクと一気に麦茶を喉に流し込んで、やっと一息ついた。


「もう、一気に食べるからだよ」

「ゴメンゴメン……ありがと」

「ううん」

「あのさ……」


 言いかけて、歩くんは、もう一度、ペットボトルに口をつけようとして、やめた。


「……あのさ、……きは、……めん」

「へ?」


「さっきは、ゴメン! 僕、夢歌ちゃんを、傷付けたんだよね?」


「…………そんなこと、ないよ」


「でも……」


「傷付いたというか……馬鹿にされたのかと思って……ちょっと、ショックだったけど」

「やっぱり……」

「ううん、違うの、ショックだったのは……えっと、よく分かんないや」

「へ?」


 きょとんとする歩くんに、夢歌さん、微笑んで。


「分かんないから、もう、いいよ。多分、暑いのと忙しいのとで、余裕がなかっただけ……逆にごめんね。態度悪かったし、私もヒドイこと言ったし」

「いや、チャラいは、言われなれてる、し……あ、でも」

「ん?」

「やっぱり、ショックだった、かも」

「あ、ごめ……」


「夢歌ちゃんに言われたのが、わりとショックだった。こんな風に刺さると思わなかった」

「え?」


 今度は夢歌さんが、きょとんとする。


 それを見て、クスッと、いたずらっぽく笑う、歩くん。


「わりと、特別みたい、僕にとっての夢歌ちゃん」


「!」


 その意味を問いただす前に、大休止終了を告げるアナウンスが流れ。


 おー! という鬨の声と共に、くりかん御輿は動きだし……そのままメイン会場へ向かって行った。


 ……いったいどういう意味なんだろう?


 新たなモヤモヤに悩む暇もなく、気がつけばこの年の市民まつりは、大団円を迎えたのだった。

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