事例14 恐怖⑤
「──この、背信者めが!」
霧のたちこめる廊下にて、牧師の格好をした初老の男と、その息子である魔法少女の格好をした筋肉
「フン」
発砲の度にナネロは目にも
(た、
しかし、ナネロの父親はそれでも「何の!」と再び引き金を引こうとする。しかし、次の瞬間にはナネロは父親の目の前に立ち、拳銃を握って──否、握り潰している。
「
「遅い」
ナネロはその場の誰も知覚できないほどのスピードで手刀を繰り出し、父親を気絶させようとする。
「ぶげ」
結果として、父親は気絶するどころか手刀の勢いをもろに食らい──顔面から床のコンクリートに突っ込み、めり込んでしまう。
「……ム、少しやりすぎた、か」
目の前の惨状を『少し』で片付けたナネロは深呼吸し、再び光に包まれる。そして、元のスーツ姿に戻る。
「……さて。これでひとまずは安心であろう。
ナネロが、ヘドルのいた方を振り向く。そこには、床に土下座しているヘドルがいた。
「ごめんなさい。おれもうわるさしない。だからおねがい。あそこまではしないで」
「……いや、まあ、せぬとも」
2人の間に、シュールな空気が流れた。
*
「フゥ~、疲れた」
霧の中の病室にて、左目を前髪で隠したエスマナフが軽く伸びをしている。その前には、やや壁にめり込んで力なく座り込んでいる、エスマナフのかつての先生がいる。その顔は見るも無惨にボコボコにされており、完全にダウンしてしまっている。エスマナフはリラックスしたふうに振る舞ってはいるが、目の前の男に対する警戒は解いていない。何故なら──
「──全ク、善良ナ市民ニ何テコトヲスルンダ」
ダウンしていたはずの目の前の男が、フラフラと立ち上がる。それを見て、エスマナフは心の内にあった仮説が事実であると確信する。
「やっぱりそうか。アンタら多分、敵の
「ふ……ふふふふふふふふ。ヨクゾ、ヨクゾ見破ッタナ、えすまなふ。面白イ、面白イゾ……」
先ほど受けたダメージをあまり気にしていないかのように、教師がエスマナフを睨み付ける。その顔面は、いつの間にか殴られる前のものに戻っている。エスマナフは、顎に手を当てて考える。
(さて、と。このゴリラと戦っててもジリ貧だし、一時的にでもいいから無力化したいところだけど。病室のあっち側の会話を聞く限り、どうやら班長の強制気絶能力は通用するみたいだから──班長がゴリラの攻撃を感知してるのを信じて、3撃目をかまさせるのが良さそうね)
そして、エスマナフは両手を広げ、敵の攻撃を受ける構えを取る。
「さあ、来なさい。ジャングルに送り返してあげるわ」
その様子を見た教師は、下品に笑いながらフラフラと歩き出す。そして、次の瞬間にはエスマナフのいる前方へと突進し──
「なッ──」
「誘ッテルノガばればれダ、えすまなふ!」
──そのまま、エスマナフを通りすぎて霧の中に消える。エスマナフはすぐに、あの教師が何を目標に走り出したのかに気がつく。
(ヨールか……! しくった、班長とあの子の間にはまだ能力が発動するだけの絆が無い! このままじゃ、あの子が──)
*
ゴリラ教師の初撃の際、エスマナフに突き飛ばされたヨール。彼は今、病室の壁を
「あ、2人とも!」
「……ヨールか。無事か?」
ヨールは「大丈夫です」と言いながら、ゆっくりとタナリオたちに近づく。アゲンバもまた、ヨールの声を頼りに近づいていく。
「ヨールさん。エスマナフくんとは離れたのですね」
「あ、はい。正直、霧で何が起こってるのか良くわかんなくて……」
「結構。まあ、敵の攻撃のカウントが2つしか貯まっていないのに対して、とてつもない数の打撃音がしますから……あちらはかなり圧倒しているようですね」
タナリオが、服についた
「……ところで、班長。オレ、敵の能力がある程度わかったかもしれません」
「おお、本当ですか? いやはや、流石の洞察力ですね……。では、早速伺いましょうか」
「はい。この病室には、アゲンバ班長のお母さん、そしてエスマナフのかつての担当教師が現れました。これを鑑みるに、恐らく敵の能力は恐怖の具現──」
「ヨール、逃げてッ!」
タナリオの話を遮るように、霧の向こうからエスマナフの叫び声が聞こえる。そして、次の瞬間には、タナリオたちの前に今にもヨールに殴りかかろうとするゴリラ教師の姿が現れる。タナリオが手を伸ばそうとするが、あばら骨の痛みで思わずまた床に突っ伏してしまう。そして、ヨールの眼前にゴリラ教師が登場した瞬間──
「──えっ」
──ゴリラ教師が、見たこともないような白衣の女性の姿に変形する。それを3人が目撃した
──辺りに、大きな爆発音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます