(参加作品その6)スマホで繋がる異世界戦争(夏木様)
『スマホで繋がる異世界戦争』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888196641
【コンテスト】第19回角川ビーンズ小説大賞
【一次選考通過数/応募総数】53作品/620作品
(私からの一言)
あらすじの冒頭に『才能がなく劣等感しかない高校生の光は』と書かれているように、学校内でも家庭内でも虐げられている立場の主人公ですが、いじめられている場面の描写や説明は序盤だけなので大丈夫。すぐに暗いイメージも払拭されて、物語は進んでいます。
学校内でのいじめは、それを助ける仲間を描くための必要性を感じましたし、ならば家庭内のいじめの方はどんな意味があるのだろうかと思った部分もありましたが(ただ単に「家族に無視され気味なので主人公は自由に行動できる」というだけならば他の設定でもよかったのではないか、と考えてしまいましたが)、読み進めるうちに「それこそ物語上必要な部分だった」と理解できました。おそらく「家族とわかり合う」というのが、作品のテーマの一つなのですね。
また、序盤では「キャラクターがうまく描かれている」という印象を受けました。特に、主人公とその仲間たちです。
人物紹介編のあたりで「ああ、こういう性格の人間なんだな」というのが、説明ではなく行動描写から伝わってきます。これは本当に見事だと思いました。勉強になります。でも、こういうのは作者様のセンスでしょうから、真似したくてもなかなか真似できない気がします。
ただし、あくまでも序盤の印象です。キャラクターが増えていざ物語が動き出すと、逆にそうした印象は減ってしまいました。
あくまでも私の『印象』なので、こちらの読者としての心構え次第で変わってくることかもしれません。それでも、とりあえず、一通り読んだ現時点で考えさせられたことを、思い切って書いておこうと思います。
今まで読んできた作品でも気づくべきだった点に、今回ようやく気づいた、という要素もあるかもしれません。この作品そのものの感想からはかなり逸脱して、少し創作論っぽい話になってしまうでしょうが、ご容赦ください。
それも含めて、この作品を読んで考えさせられたことですから。
まず、物語展開そのものは面白かった、ということ。面白かったのですが、それが頭に入って来にくくて、とても勿体なく感じました。
正直、作者様の責任ではなく、読者である私の読み方が悪い気もするのですが……。
一つには、文章が私の好みに合わなかったのでしょうね。「軽い」「薄い」と言ったら言い過ぎであり、適切な表現を思いつかないのですが、とにかく「もっと違う文体で読みたかった」と感じる物語でした。
具体的に見ていけば描写が少ないわけではないのですが……。なんだか小説を読んでいるというより、プロットを(プロットにしては詳しく書き過ぎたものを)読まされているような気分にもなりました。
プロットっぽい、と私が感じた理由。
一つには、この作品が三人称で書かれているせいかもしれません。全体的に、かなり遠くから見ているような印象でした。
以前にどこかで「ラノベが一人称で書かれることが多いのは、その方が感情移入しやすいからだ」という話を聞いたことがあり、その際は全く意味がわかりませんでした。一人称であれ三人称であれ、読者とキャラの距離感は同じだろう、と思ったのですが……。
今回この作品を読んで、その「三人称は感情移入しにくい」というのを初めて実感できた気がします。
ひとくちに三人称といっても、色々な書き方があるのですよね。私が今まで「一人称であれ三人称であれ読者とキャラの距離感は同じ」と考えていたのは、自分自身の三人称の書き方が一人称に近かったからなのでしょう。
私が書く場合の三人称は、遠くに視点を置くのではなく、パートごとに誰か一人にフォーカスして、視点はそれぞれに固定。だからそれぞれの内心なども書き込めますし、むしろ三人称の方がフォーカスされるキャラの人数が多い分、完全な一人称よりも心理的な記述が多くなります。
こうなると、もはや語り手が場面ごとに変更される一人称みたいなものです。それでも敢えて一人称ではなく三人称にするのは、群像劇要素がある場合、主人公の目線ではわからない(主人公一人称の形態では記述できない)部分が出てくるからです。
この作品も、途中から「主人公以外の行動を描く」という場面が増えてくるので、そのために一人称ではなく三人称にしたのではないか、と想像しました。もしかするとそうではなく、ただ単に作者様は三人称で書くのを好む、という可能性もあるので、試しに同じ作者様の別長編も少しだけ読んでみたのですが、そちらは一人称で書かれており、この作品のような「読者とキャラとの遠さ」も感じませんでした。
だから、この内容だからこそ三人称になったという想像も、三人称で書かれているからこそ遠さが生まれるという推測も、あながち間違っていないような気がします。
誰のセリフかわかりにくい場面が結構ある、というのも、この作品を読んでいて惜しいと思った点の一つです。
会話の前後だけでなく、主語が省略されている場面も多くて、今誰が何をやっているのか、わかりにくいこともありました。
例えば一人称の小説ならば、主語がなくても主体は語り手だろう、と自然に判別できますよね。でも三人称で、特に視点が固定されない書き方ならば、そうはいきません。
この主語の省略の仕方を見ても「作者様が描き慣れているのは三人称ではなく一人称小説であり、今回は内容的にやむを得ず三人称にしたのだろう」と考えてしまいました。
誰のセリフなのか、誰の行動なのか、少しわかりにくい。
これは上の方で述べた「プロットっぽい」という印象にも関わってくると思います。
一般的に小説では、登場人物たちの細かい仕草やふとした行動がそれぞれの感情を表す、という場面もありますが、そういうのが少ないからプロットっぽく感じるのかもしれません。冒頭のあたりで書いた『キャラクターが増えていざ物語が動き出すと、逆にそうした印象は減ってしまいました』という点ですね。
視点がそれぞれのキャラに固定されず頻繁に動く感じもありますし、「登場人物たちの細かい仕草やふとした行動」がないまま次から次へとキャラを動かされると、キャラの名前表記が記号表記っぽくなって「これ誰だっけ?」と思ってしまうのかもしれません。
いや、本当にその辺りは、文章の好みにもよると思うのですよ。「キャラの名前表記が記号表記っぽくなって」という方がシンプルで読みやすい、という読者もおられるでしょうね。
でも私は個人的に、それでは箇条書きっぽく感じてしまう。小説というよりプロットを読んでいるように感じてしまう。
だから自分が書く時はなるべく「登場人物たちの細かい仕草やふとした行動を、随時挿入したい」と考えています。物語展開に気を取られて、細かい動きまで意識する余裕がない場合も多いですけどね。
いちいち細かい仕草などを書いていたら文章がくどくなる、と考えれば、私の目指す方向性は間違っているのでしょう。でも私は読者を信用しておらず「特にラノベやWEB小説では、わざわざ読者は行間まで読んでくれない」と考えているので、なるべく細かく書き込む方が好きです。
ただ単に「〇〇は言った」では読者の意識に引っ掛からず、名前表記が記号表記っぽくなるのではないか。例えば「グラスの縁を指で無意識になぞりながら、〇〇は言った」の方が、読者が絵として場面を思い浮かべやすいし、それこそ行間まで読んでくださる読者ならば「無意識のうちに空いている手が遊んでしまう時の人間の心情は……」というように、キャラの内面まで想像してくださるかもしれません。
どちらにせよ、そういう一言があるだけで、キャラの印象を一時的に強めて、「名前表記が記号表記っぽくなる」のは防げる、と考えています。
とはいえ、これは「私の目指す方向性」に過ぎず、私自身、まだ自然に出来ていることではありません。それをつくづく感じさせられるのは、小説の挿絵をイラストレーター様に書いていただく時です。
私は他サイトでは挿絵つき小説も連載しており、担当様と相談の上で挿絵場面を決めてイラストレーター様に発注していただく、というのを頻繁に行ってきました。描いていただいた挿絵は作者のイメージ通りになるはずですが、いざイラストを拝見するたびに驚かされる。確かにイメージは一致しているのに、具体的なポーズや表情などは、私の思い描いていた絵を遥かに凌駕しているのです! 私の脳内絵図では棒立ちだったキャラ、ただ座っているだけのキャラ、首だけを曲げていたキャラが、手をぶらぶらと動かしていたり、椅子の座り方の微妙な角度に感情が出ていたり、首だけでなく腰からグイッと上半身を捻っていたり。
作者の脳内絵図になかった以上、イラストをいただくまで文章で表現できないのは当然ですが、本当は執筆段階でそういうのを思い描いて、それぞれ作中で一言でも書けていたら、その分キャラクターが生きた人間になるから、単なる駒や記号になるのも防げる。日頃執筆していて、そんなことを考えています。
どんどん話が逸れていくので、この辺りで終わらせましょう。
念のためお断りしておきますが、この作品に対してダメ出しするつもりはありません。上でマイナスっぽく指摘したことも、しょせん程度問題。全く書かれていないわけではなく、それなりに作中でも書かれていることでしょう。
そもそも「マイナスっぽく」というのが本当にマイナスかどうかもわかりません。私は人気作家ではありませんし、紙媒体の出版経験もありませんからね。私の目指す方向性が正しいとは限らないのです。
それでも、今回の作品を読んで考えさせられたことなので、自分自身への覚え書きも兼ねて、こちらに記させていただきました。
真似したい部分もあり、逆に「自分ならこうする・こうしたい」と思う部分もあり……。大変勉強になる作品でした。
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