第9話公爵令嬢とお茶会①
噂の隣国の公爵令嬢がこの国に文化交流のために留学して来て1週間が経った。
隣国の公爵令嬢はルナマリア・クリスチナ様というのだそうだ。
彼女が入国してすぐに、アルから手紙が届いた。
手紙には、暫く会えないと書かれていた。
どうやら、公爵令嬢だけでなく、隣国であるアスタリーベ帝国の第一王女であるリリアンナ様も一緒に留学することになったらしく、王宮は対応に追われているらしい。
昨夜夜遅く帰ってきた側近であるお兄様でさえ、ぐったり疲れていたのだから、皇太子であるアルフレッドの疲労具合はいかほどか。
心配するしかできない自分が嫌で、ラフィールを使った疲労回復薬を大量生産してお兄様に呆れられ、アルフレッドが好きな香りの薬草を集めて乾燥させたポプリを小さな巾着に積めて兄に託した。ポプリは好きな香りだとリラックスできることと、その中に魔除けの効果もあるものを一緒に入れていることを手紙で伝えた。香りが気に入らない時は、また調合し直すので教えて欲しいということも添えて。
自分が傍にいられないときに、少しでも疲れや悪いものからアルフレッドを守ってくれるように。月夜の晩に月の光に照らして、月の加護も加える徹底ぶりに、お兄様はもう何も突っ込んで来なかった。
暫くは、香りは私が最初に調合したものが好みであるとか、疲労回復薬の効果がすごいとか、感謝の気持ちとともに他愛のない手紙の返信をお兄様が持って帰ってきてくれていたが、そのうち返事もなくなった。
お兄様に聞いても、歯切れの悪い言葉が帰ってくるのみ。
今朝もポプリの香りが切れる頃だからと、お兄様に新しいポプリを手紙とともに預けた。
返事はないだろうと、期待する自分を戒めつつもお兄様が帰ってくるまでなんとなく寝付けずに本を読みながら起きて待っていた。
玄関がにわかに騒がしくなる。
お兄様が帰ってきた!
私は逸る気持ちを抑えて、走らないようにゆっくり階段を降りる。
「おかえりなさい、お兄様。お仕事、お疲れ様でした。」
お母様がいるため、淑女らしく挨拶をする私に、お兄様は困ったように笑みを浮かべた。
やはり、今回も手紙の返事はもらえなかったようだ。
寂しい気持ちを隠しつつ、アルは元気ですか、と聞いた。
「元気だよ、とても。」
そう返事をする兄は、やはり疲れているのだろう。いつもの覇気が感じられない。
そうですか、と顔を伏せて、もっとアルフレッドのことを聞きたい、なぜ返事がないのか詰めよりたいという気持ちを必死で押さえつける。
「本日もお疲れ様でございました。おやすみなさい。」
しっかり笑えていただろうか。お兄様の反応を確認する前に、私は部屋へと駆け込んだ。
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