第4-22話 捜査協力

 「こないだの仕事明けに、あの火災現場に寄ったんだ」

始業点検が終わった事務室で、俺はおもむろに話し始めた。

誰に話しかけたわけでもないから、なんとなく薄い返事が返ってくる。

 みんな作業から手を止めないで聞いた。

「そしたらあの女の警察官がいた」

全員が反応したが、食いつくのもはばかられたのか「ふーん」と軽く相槌を打った。

「なんかやけに深刻だったんだよな・・・」

俺が一度軽く落とすと、江尻が気を遣った。

「そりゃ、あれだけの火事です。深刻にもなるんじゃないですか?」

ふと鈴木隊長の方に目をやると、明らかにこちらを意識しながら新聞を読んでいた。

「そうなんだけどさ、なんというか、仕事ってだけではない気がするんだよな」

あの火災現場で、俺と彼女のやり取りを見ていたのは鈴木隊長だけだった。その違和感も鈴木隊長にしか理解できない。

「んー、なんすかね」

江尻が困ったところに落としたもんだから、俺も着地点を失った。

 話を片付けたのは浅利だった。

「なんすか?恋の予感すか?」

これ以上この話を続けるもんじゃないと思って返さなかった。俺が浅利を睨みつけることで、この話は一旦幕を閉じた。

「にしても、犯人の手がかり、見つかったんすかね?」

「どうかな?今朝の新聞だとまったく容疑者も浮上してないようだったけどな」

渡部隊長が割り込む。

「イシの件だが・・・」

 ふわふわと漂いそうになった話を切り替えたのは鈴木隊長だった。

「今日は本署も忙しいだろう。次は土日で休みだから、来週あたりに本署へ話しに行こうと思う」

忘れていたわけではない。それでも目の前のことで感情をやり過ごしていた。どうにもならない現実を見ないようにしていた。とはいえ、お互いの表情に曇りはなく、少し間が空いたことによって気持ちの整理ができつつあったのかもしれない。

 俺はしっかりと口を結び、それでもどこか笑顔のような表情で何度か頷くことで理解を示した。

 椅子に座ったまま深くのけぞった。腕を組んで足を交差させた。石田の方を見てもう一度小さく頷く。

 石田は目を合わせてハッキリと頷き返した。

「今日は訓練でもやるか」

出口の見えやすい話を見つけたところで、事務室の電話が鳴った。

 一拍置いて鈴木隊長が出ると、隊長はリズムよく返事を繰り返した。

 どうやら電話の内容は俺らしい。話しながら俺のことを見ていた。

 電話を切ってもなお、俺から目を離さなかった。

「警察がお前に用があるってから、今日警察署に出向してほしいって本署からの連絡だ」

「ほお・・・」

 きっと事件のことだろうが、察しはつかなかった。

「なんですかね、ムラさんに用事って・・・」

石田もハテナで返した。

「なんか悪いことしたっすか?」

江尻が茶化してきた。

「してねーよ」

ツッコんでから、目を上にやって悩んでいると、浅利がまたもや話を終わらせた。

「淫行じゃないすか?」

口にチャックを結ぶジェスチャーで返した。


 消防車で警察署に向かう。

 到着すると、お出迎えの警察官が俺を案内した。

「どうぞこちらへ」

そう言いつつ、無言で江尻以下を静止した。

 三人を消防車に残し、俺と隊長は警察署の中へ案内された。

 中に入ると、俺達は明らかに「取調室」と書かれた部屋に案内された。

 しばらくすると、見るからに刑事課だろうという格好をした警察官二人が入ってきた。

 決して悪いことをしたわけでもないのに、まるで自分が犯人かのような気分を味わった。

 それを察してか、その警察官達は第一声で崩した。

「この部屋しかなくて・・・すいませんねぇ」

俺達は揃って一礼をして返した。

「しかもお呼び立てしてしまって、重ね重ねすみません」

「いえいえ、とんでもありません。警察の方々も今はお忙しいでしょうから」

鈴木隊長が丁寧に返した。

「消防さんもお忙しいでしょうから、手短に話しますね」

そう言って机の上にいくつかの資料を並べると表情が一気に変わった。

「今朝の新聞や報道はご覧になられてますか?」

「まぁ、それなりには」

「そうですか。あの報道についてなんですが、我々も検討がついてないわけでは無いんですよ」

「ほう・ ・ ・」

そう言って机に目を落とすと、何人かの男の写真が並べられていた。

「我々としても逮捕状が無い状態でこんなお話をするのは異例なのですが、あなた方には知っていていただきたいと強く主張する者がいましてね」

 そう言うと、警察官は頭を掻いた。

「この中に、三人の男の写真があります。今日は、この男達の顔を覚えていただきたくお呼び立てしました。よくご覧ください」

俺も隊長も全く見に覚えのない顔だった。

 やっと、なんとなく言わんとしてることが分かってきた。

「つまり、今後放火らしき火災に出た場合にこの顔を探して欲しいということですか?」

二人の警察官は小さく頷いた。

「はい。ですがもちろんそちらの業務が優先ですので、余裕がありましたらお願いしたい次第です」

「分かりました。出来る限りご協力いたします」

「それからもう一つ・ ・ ・」

そう言って二人は言いづらそうにした。

「これは我々が内々で行っていることですので、どうかご内密にしていただきたいです」

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