第3-4話 フラッシュオーバー
「延焼が広がってる。活動時間はあまりないぞ!」
「わかってます!」
江尻と石田が資器材準備完了の合図をした。
「積載はしごを建物西側に架けてくれ!」
そこに清水はしご隊の霧島隊長が到着し、鈴木隊長とやり取りをしていた。
「わかった!補助する!」
そう言った霧島隊長の声が聞こえた。
「ムラ、はしごの確保は俺達がやる!お前らは三人で突っ込め!」
当初、俺は二人での進入を想定していた。
「ありがとうございます!」
建物西側二階部分に架けられたはしごの前に敷島小隊と霧島隊長が集まった。
清水小隊はホースの準備をしている。
集まったとはいえ、訓練の時のようにいちいち動作ごとに止まったりはしない。活動は流動的に進んでいく。
一番にマスクをつけ終わった俺がはしごに登っていった。二階のベランダに上半身を突っ込むように進入する。俺の「進入よし」の合図を待たずして江尻が登ってくる。江尻も同じように入り込むと、すぐさま石田が登りだす。
「イシ、お前はそこで清水からホースを受け取れ!受け取ったらホースの中を充水させてもらえ!それから、清水隊の隊員には下で待機させろ!もしフラッシュオーバーが起きたらお前は退避しろ!」
俺がそう指示すると、石田はマスクの中でわずかに迷った表情をした。
「そのときはお前が迎えに来るんだ!いいな?」
石田ははっきりとしたサムズアップで返した。
「ミナトー!ミナトー!どこにいるー!」
マスクの中で大きく叫ぶ。
「ミナト君!どこだー!」
江尻も必死になって叫んだ。
教室を進むと廊下に出る。
(クッソ、どこだ・・・)
廊下を伝って隣の教室に入り検索する。
(クソ、居ねぇ)
廊下の反対側にトイレがあった。
男子トイレと女子トイレがあり、女子トイレのドアだけが閉まっていた。
(先生達、避難するときに必ず見るはずだよな・・・)
「エジ、あそこだ!」
女子トイレに入ると、三つある個室のうち、一つだけ扉が閉まっていた。
「ミナトー、居るのかー?」
俺が叫ぶとゆっくりとドアが開いた。
ミナトは「ゲホゲホ」と咳をしながら答えた。
「ウラちゃん・・・やっぱきた」
俺は防火衣のファスナーを開き、その中にミナトを抱え込んだ。
奥に小さな女の子がいた。
「エジ、この子を頼む!」
俺は奥の子を引っ張り出し、江尻に渡した。江尻も同じように防火衣に包み込んだ。
「ミナト、お前何してんだ!」
「だって・・ミエちゃんがこわがってたから」
「バカヤロー」
強く抱きしめながら優しく言った。
「よし、帰るぞ」
無線機を握った。
「要救助者発見、救出開始!」
廊下に出ると、火災は思いのほか進行していた。ミナト達を確保している間、一階から爆発音が聞こえていた。
石田と俺達を繋ぐ検索ロープが強く引かれる。
俺達は急いで戻ろうとしたが、ミナト達を抱きかかえているせいで低い姿勢がとれない。姿勢を上げると、熱くてマスクが溶けそうな気がした。
右手でミナトを抱え、左手を地面につく。
進入し始めた教室にたどりつくと、熱さはやわらいだ。しかし、異様な煙の色をしていた。
「ムラさん、煙の色が!」
江尻が這いずりながら言った。
「あぁ、もう少しだ!」
教室の真ん中あたりまで進み、意を決して立ち上がり、走り始めた瞬間だった。
煙が一気に建物の心臓部分に向かって吸い込まれた。
「エジ、伏せろ!」
その瞬間、一気に熱気と爆風が、床に伏せた俺達の上を通過し、江尻のヘルメットが転がった。
同時に、反対側から俺達を包み込むように水の膜が張り巡らされ、俺と江尻の間に誰かが滑り込みながら割って入り、天井に向かって水を打った。
間髪入れずに、俺達は後ろ襟を掴まれてベランダへと引きずられていった。
一瞬のことで何が起きているのかわからずに起き上がると、石田が背を向けて水を打っていた。
俺達を引きずったのは、清水隊の大林さんだった。
「わり、ムラ、遅くなった!下でみんなが構えてる!投げろ!」
ベランダの腰壁から覗き込むと鈴木隊長と清水はしご隊が待ち構えていた。
俺はミナトに声を掛けた。
「ミナト、ちょっとジャンプするぞ!」
そう言ってミナトの両脇を掴み、腰壁の外に出した。
「隊長!お願いします!」
下で清水隊の隊員が手を挙げて合図した。
「いいぞ!来い!」
俺が優しくミナトを離すと、ミナトは飛んだ。
清水隊の隊員が衝撃を緩和するように受け取ると、江尻があとに続いた。
江尻が女の子を投げ下ろし、俺達は身をかがめて小さくなった。
「大林さん、脱出しましょう!」
俺が声を掛けると、優しげな言葉で返した。
「俺が最後に行く、お前達先に出ろ!」
大林さんはホースのノズルを石田から奪い取った。
「エジ、先いけ!」
江尻を先に脱出させ、そのあとに石田の背中を押して出させた。
江尻がはしごを降りていると、最後の数段を踏み外すように転がり落ちた。
石田が駆け降り、俺がはしごに手を掛けた瞬間、二度目の爆発が起きた。
外を向く俺は、爆風でベランダの腰壁に押し付けられ、背中に滝のような水がかかった。大林さんによって建物の内側に向かって膜状に打たれた放水が、爆風で吹き返された。
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