第十二話 ナグ―ニャの日常
※ナグーニャ視点
ベリアの街に向かって出発し、四日が経った。
何度か、除雪してあった雪の壁が崩れていたこともあったけど、おおむね順調だってベルンハルトパパは言ってた。
自分としても初めての雪でリズィーと雪遊びをしたり、輸送隊の人たちといろんなお喋りができて、世界が広がった気がしてる。
「ナグーニャちゃん、何かいいことあったの? 今日はいつにも増してニコニコしてるよ」
「んー、ないしょー」
「えー、なんで。教えてくれてもいいと思うんだけどなぁ」
エルサと一緒に、夕飯のお片付けできてるのが、とっても嬉しいけど恥ずかしいから言えないよー。みんなと一緒に居ると、最近になって夜によく見る怖い夢のことも、忘れられるしね。
ずっと、ずっとみんなと一緒に旅して、いろんな場所に行って、いろんな経験をして、大人になっても一緒に冒険する。……したい。うん、するんだ!
「エルサ、ずっと一緒だよね?」
「何? 急に? そんなの当たり前だよー。ナグーニャちゃんは、大事な仲間だし」
「ほんと?」
「本当よ。ナグーニャちゃん、どうしちゃったの?」
夜に見るようになった怖い夢の影響で、みんなと離れ離れになるかもって予感がしてるなんて言えない。できれば、こんな予感は外れて欲しいし、夜に見る怖い夢も見たくない。
けど、日を追うごとに、夢は鮮明さを増してきて、自分ではない誰かの声がはっきり聞こえてくるようになってる。
みんなに相談しようかとも思ったけど、ただでさえみんなに迷惑をかけてるのに、怖い夢の事も喋ると、一緒に居れないよね。
「なんでもないよー。ナグーニャはみんなとずっと一緒に暮らしたいなって思ってるー」
「あーなるほど。そっか、そうだね」
エルサは何かを納得したように自分だけ頷いた。
「実はあたしもずっと一緒がいいなって思ってるんだぁ。ほら、ヴァネッサさんもベルンハルトさんもいい人だし、ナグーニャちゃんもいい子だし、ロルフ君もいるしさ。それに、あたしさぁ、家族が亡くなってて、独りだし、姉弟もいないから、勝手にナグーニャちゃんを妹だって思ってるの」
お皿を洗っているエルサが、ちょっと照れたように頬を赤くした。
「ああ、ごめん! 迷惑だよね!」
妹⁉ エルサがお姉ちゃん⁉ ヴァネッサママと、ベルンハルトパパだけじゃなくて、エルサお姉ちゃんって呼んでいいのかな?
急に妹だって言われてびっくりしちゃったけど、エルサの妹なら全然嫌じゃない!
「ナグーニャが妹でいいの? 本当にいいの? エルサお姉ちゃんって呼んじゃうよ?」
「よ、呼んでくれるの⁉ あたしがお姉ちゃん呼びしてもらえるの⁉」
「うん、うん、呼びたい! エルサお姉ちゃん!」
お姉ちゃん呼びしたら、エルサの顔が真っ赤に染まる。照れてるのかな。は、恥ずかしいとか思ってないよね。ちょっと急に呼んじゃったけど、嫌いになってないよね。
皿を取り落とした、エルサが自分の胸元に抱き寄せてくれた。
「ありがとう。ありがとうね。ナグーニャちゃん。すごく、温かい気持ちになれるよ。妹ってすごいね。これからはお姉ちゃんでも大丈夫だよ。むしろ、お姉ちゃん呼びして!」
よかったぁ。エルサお姉ちゃんはとっても喜んでくれてるみたいだ。自分もお姉ちゃんが増えてとっても嬉しい気持ちで爆発しそう。
「あらー、わたしは未婚のまま二人の子持ちになっちゃったのかしらねー」
テーブルで広範囲魔法についての文献を読んでたヴァネッサママが、自分たちのしていた会話を茶化してくるのが聞こえた。
聞かれてたのは知ってたけど、怒ってる様子はないみたいでよかった。ヴァネッサママもエルサのことは大好きだって言ってたし、お姉ちゃんになってもらってもいいってことだよね。
「ヴァネッサママ、ナグーニャにお姉ちゃんできたよー!」
いちおう確認のため聞いてみた。本当のお母さんみたいに世話をしてくれてるヴァネッサママの気持ちはちゃんと聞いておかないと。
「エルサちゃんが、ナグーニャちゃんのお姉さんか……」
ヴァネッサママが、顎に手を当てて考え込んでいる様子が見えた。
だ、ダメってことかな? ダメって言われたらガマンするしかないよね……。
「ヴァネッサさんは、まだ若いですし、あたしのお母さんって年齢じゃないですし――」
エルサもヴァネッサママの考え込んでる様子を見て、空気が悪くならないよう配慮をしてくれる。
「ん? わたしの年齢? ああ、そんなのはどうでもいいわよ。娘二人にどんなカワイイ服を着せようか悩んでただけよ。わたしも孤児だし、家族が増えるのは歓迎よ」
「ふぅううう! びっくりしたぁ! ダメって言われるかと思ったよー」
今でも十分にわがままを言って一緒にいるから、もしかして嫌われたのかと思った。
「そんなこと言うわけないじゃない。ママをみくびりすぎー」
「あたしも、本当にマズいことを言ったんじゃないかって思いました」
エルサも自分と同じようにホッと安堵してる様子だった。
「あの偏屈なベルちゃんが、みんなを受け入れてる時点で、家族みたいなもんよ。娘が増えたお祝いにパパにまた服を買ってもらわないとねー。エルサちゃんが娘ってなると、ロルフちゃんは息子かー」
ヴァネッサママと話していると、外に通じる扉が開いて、ベルンハルトパパ、ロルフ、リズィーの三人が見回りを終えて室内に戻ってきた。
「僕の名前が聞こえましたけど、何の話です?」
「ロルフ君、あたし、妹ができたの!」
「リズィー、ナグーニャにお姉ちゃんできたのー」
「ベルちゃん、娘が増えました」
ロルフもベルンハルトパパもリズィーも困惑した表情を浮かべてるみたい。ちょっと、説明が足りなかったかも。
「あのね。あのね。エルサが、ナグーニャのお姉ちゃんになってくれる。だから、ヴァネッサママの娘が二人になるのー」
「そう言うことか……。またヴァネッサの妄想が酷くなったのかと心配してしまったぞ」
ベルンハルトパパも、ヴァネッサママのこと大好きなのバレバレなのに、なんで結婚しないのかなって思う時はある。ヴァネッサママは意気地がないだけーって言ってたけど、大人はいろいろ考えてるのかな。
「ベルンハルト、ヴァネッサママに娘が増えても問題ない?」
「ああ、問題ない。ロルフ君とエルサ君は大事な仲間だし、すでに家族みたいなものだ」
「よかったー」
「エルサさん、妹ができてよかったですね。僕も一人っ子だから、姉弟ができるとどんな感じなのか気になりますけど」
「エルサお姉ちゃんの婚約者になってるロルフは、ナグーニャのお兄ちゃんだからねー」
「ああ、そうなるわね。ロルフ君、義理の妹ができたよ」
「僕がお兄ちゃん⁉」
ロルフもびっくりしてるけど、エルサお姉ちゃんと結婚したら、お兄ちゃんになることは間違いないはずー。今のうちからお兄ちゃん呼びに慣れておかないとー。
話を聞いていたリズィーが近寄ってきたかと思うと、袖を咥えて引っ張ってきた。
「ああ、そうだ! リズィーはナグーニャの弟だからねー」
「わふう!」
リズィーも尻尾を振って喜んでくれてるみたいだ。今日は家族がいっぱいできた最高の一日だったなぁ。忘れないうちに後で日記帳に書いておかないとー。
ああ、今日も楽しくて、いい一日をすごせた。明日もまたいい一日がすごせるといいなぁ。
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