第三七話 白化した森
集落に着くと、ギルド職員の人が代表者であるトッドさんを呼びに行ってくれた。
待っている間に、僕たちは周囲の様子を確認していた。
「本当に白化しているんですね……」
集落の近くにある白化した木に触れたら、幹がボロボロに崩れて、自分に向かって倒れてきた。
「おわっ! 木がっ!」
木に潰されるかと思ったら、僕の身体に触れた木は、灰のように細かい粒子になって砕け散った。
全然、痛くないや。かろうじて樹皮で形を保ってただけか。
「ロルフ君、大丈夫?」
「ええ、中はスカスカで触れただけで倒れちゃいましたよ」
「酷いありさまだね。森が死んじゃってるよ。落ち葉もないし、下草すらも生えてない。これじゃあ、小動物も餌がなくて別の場所に移っちゃったと思う」
猟師をしていたエルサさんは、白化した森の様子を見て、とても心痛めている様子だった。
「でも、なんで白化なんですかね? 普通、木がこんな状態にはなりませんよね?」
「ええ、枯れて倒れる木はあるけど、燃え尽きた灰みたいに白化する木なんてみたことないよ」
エルサさんが別の木に触れると、同じように幹がバラバラになって、灰のように細かい粒子になって木ごと崩れ落ちた。
「んー、白化現象ねー。ちょっと、自然現象としては考えにくいわよね」
「たしかに、自然の影響で木が白化するとは考えにくい。何かしら別の影響が、この白化現象を引き起こしていると見て間違いないだろう。それが、何かが今のところ分からないが。ナグーニャ、危ないから触らないように」
ベルンハルトさんの注意を受けたナグーニャが、木を突こうとした手を止めた。
「あい、しょうちー! リズィー、危ないからダメだって」
ナグーニャの隣にいるリズィーが、地面をクンクンと嗅いで回っていた。
地面になにかあるんだろうか?
それとも、お腹空いたのかな?
そう言えば、ご飯食べ逃した気がする。
バタバタと依頼を受けて、冒険者ギルドから出てきたため、昼食を取り逃したことを思い出し、お腹が鳴った。
「ロルフ君、お腹空いてるの? よかったら、食べる?」
僕のお腹の音を聞いたエルサさんが、携帯用の保存食であるクラッカーでチーズを挟んだものを差し出してくれた。
「ナグーニャ、たべるー! エルサ、ちょーだい!」
「そういえば、バタバタしてて、食事をするのを忘れてたわね。冒険者たる者、食べれる時に食べといた方がいいわよ。ナグーニャちゃん、リズィー、こっち食べなさい。エルサちゃんのやつはロルフ君専用に作ってたやつだからねー」
「あい! リズィーも食べよー」
え? そうなんだ! だったら、もらわないと! 褒めるタイミングだよね! きっと!
「エルサさん、もらいます!」
差し出されたクラッカーサンドを受け取り、口に運ぶ。
んまぁ。塩気がちょうどいい。
「あ、そうだ。これ付けてみて」
エルサさんが、小さなガラス瓶を取り出すと、ふたを開けた。言われるがまま、ガラス瓶の中身である赤いソースを少し付けて、クラッカーサンドを放り込んだ。
辛みがあるけど、これはこれで美味しくなるやつだった!
「んまぁい。美味しいですね。このソース付けると味が激変します」
「ロルフ君が好きかなーって思って作っておいたの。また、今度試食してね」
「あ、はい。ぜひ、試食したいです!」
やっぱ、エルサさんの料理はうまいや。
なんか、他の人の作る料理の300倍くらい美味しく感じる。
「んんっ! 代表のトッド殿が見えたみたいだ。食事はそこまでにしてくれ」
ベルンハルトさんが、咳ばらいをすると、集落の奥からギルド職員に伴われた男性が、こちらに向かってきているのが見えた。
あれが、この炭焼きの森の代表者トッドさんか。
手足が煤けてて炭焼き職人って感じの人だけど、まだ若そうな感じだ。
「よく来てくれました! この炭焼き職人たちの集落の代表を務めているトッドです。フィード様には、何度も森の調査をしてくれと頼んでいたのですが、人がいないとの返事ばかりでこまっておりました。かの有名な冒険商人のみなさんが問題解決に当たってくれるということで、わたしも一安心です」
この一ヵ月の苦労が窺い知れる疲れた顔をしたトッドが握手を求めてきた。
「お力になれるか、分かりませんが。いろいろとお話を聞かせてもらえると助かります」
「立ち話もなんですし、我が家へお越しください。お食事も用意しております」
トッドさんは、ヴァネッサさんにもらったクラッカーで頬を膨らませたナグーニャと、干し肉をもらって頬がパンパンに膨らんだリズィーを見て笑みが浮かんだ。
「申し訳ない。急いできたもので……」
「いえ、遠慮なく」
ギルドの職員に別れを告げると、トッドさんについて、集落の中に入っていった。
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