第二二話 精霊樹破壊作戦


 翌日、夜の救出作戦決行に向け、昼間はみんなしっかりと睡眠をとっており、日が沈みかけたころ、起き出してきた。



 僕はというと、緊張と興奮のあまり昼間は寝れず、逃走ルートを間違えないよう、地図を確認しつつ、武器の手入れを行っている。



 猟師をしていたエルサさんは、夜に活動することも多かったらしく、昼間に寝だめするのは得意だといって、さっきまでベッドでナグーニャと寝ていた。



「ロルフ君、寝られなかったみたいだね。大丈夫?」



「ええ、大丈夫です。徹夜くらい何度もしてますし、体力には自信があるんで!」



「んにゃー、ロルフ、ナグーニャ、起きたー! えらいー?」



 まだ寝ぼけているナグーニャが、床に伏せていたリズィーを僕と勘違いして抱き着いている。



「ナグーニャ、それはリズィーだからね。はい、起きて」



 守護者の剣を鞘にしまうと、リズィーに抱き着いてたナグーニャを立たせてあげる。



「あい、ナグーニャ、起きる」



「はいはい、みんな準備してよー! パーッと派手に精霊樹の森を焼き尽くすんだからねー」



「ヴァネッサ、森は燃やすんじゃないぞ。ゴーレムで死なない程度に私兵たちは殴ってもいい」



「ちぇー、つまんなーい」



 ベルンハルトさんたちの話を聞いたナグーニャが目を覚ましたようで、拳を突きあげていた。



「ヴァネッサ、悪いやつ、ぶっとばーす!」



「そうよねー。燃やさずに、ぶっとばしちゃいましょうか!」



「あい! ぶっとばーす!」



 起床を終えたみんなが揃うと、簡単な食事を済ませ、各自が装備を確認していく。



 夜の闇が周囲を包むと、精霊樹の森へ先発する僕とエルサさんは、馬車を離れ、精霊樹の森の中を目的地に向かって出発した。



「ロルフ君、足もと大丈夫?」



「エルサさんこそ、大丈夫ですか?」



「あたしは、夜中の猟もしてたから、わりと暗闇の中を進むのは平気よ」



 手元のランタンは、敵に見つかりにくいよう明かりを絞ってあり、足もとがかろうじて見えるくらいの光量しかない。



 正直、僕には暗すぎて、足もとがおぼつかないけど、転ぶわけにはいかない。



「ロルフ君、敵」



 前方の茂みからマッシュルームドールが3体飛び出してくるのが見えた。



 すぐさまエルサさんの弓から矢が放たれる。



 剣を抜いた僕は、矢を受けて怯んだマッシュルームドールの首を飛ばした。



「右のやつ、匂いを出そうとしてるよ!」



 エルサさんの声に反応し、匂いを身体から噴き出すため、屈みこんだ魔物に剣を振り下ろす。



「ぎゃひっ!」



 マッシュルームドールが、くぐもった声を発すると、匂いを出すことなく、そのまま地面に伏せた。



 残る1体は、形勢不利と察したようで、森の奥に向かって逃走していく。



「追わなくていいですよね?」



「うん、あたしたちは精霊樹を破壊するのが先決だよ」



 エルサさんはマッシュルームドールに突き立った矢を回収すると、先を急ごうと僕を手招きした。



 それから、慎重な足取りで暗い道を進み、精霊樹の根元まで到達する。



「あれが、砦なのね」



「ええ、でも僕たちのいるここは、向こうから見えない場所ですよ」



 眼下には、砦の私兵たちが、檻の中にいる人を監視して巡回する様子が見えている。



「あっちは、ベルンハルトさんたちがなんとかしてくれるから、あたしたちはあっちだね」



 エルサさんは、他の木が絡まってできた急斜面を登った先にある白い巨木を指差した。



「はい、ここからは魔物もさらに凶悪化すると思いますんで、油断なく行きましょう!」



「うん、気を付けて行こうね」



「じゃあ、僕が先頭を行きます。エルサさんは後ろを頼みますね」



 エルサさんが頷くのを確認し、僕は急斜面になった精霊樹の根元を登り始めた。



 いちおう、道みたいなものはあるけど、狭いし細い。



 それにところどころ、瘤が飛び出してて、登りにくいな。



 チラリと振り返ると、エルサさんもしっかりと付いてきていた。



 こんな場所で、魔物になんて襲われたくないから、早いところ登っちゃわないとな。




 次の足場を選んで、邪魔な木の瘤を乗り越える。


 慎重に足元を確認し、精霊樹に直接触れられる場所を目指した。



「ふぅ、登れた。エルサさん、手を」



「ありがと!」



 エルサさんに手を貸して、引き上げた。



「近くで見ると、本当に大きな木だよね……」



「ええ、でも、感心してる場合じゃないですね」



 エルサさんに警告すると、腰に差した守護者の剣を抜き、背中に背負っていた盾を構えた。



「魔物! って、あれはパペットウッド?」



 だと思うんだけど、なんか違う気もする。やたらとデカい気が……。



 前方に見える木材でできた人型の魔物が、3体ほど近づいてくる。


 近づいてくると、その魔物の大きさがパペットウッドのそれではないことが判明した。



「エルサさん! こいつ、ウッドゴーレムだ!」



 近づいたウッドゴーレムが、こちらにめがけて大きな拳を振り下ろす。



「精霊樹が大きすぎて、見間違えたみたいだね」



 拳を回避したエルサさんは、弓を構えると、矢を放つ。


 矢はウッドゴーレムの身体に突き立つが、怯んだ様子は一切ない。



「エルサさん、下がって! 僕がいきます!」



 声に反応したウッドゴーレムが、次々に僕へ襲い掛かり、拳や蹴りが飛んできた。



 落ち着けば、かわせない攻撃じゃない。危ない致命傷になりそうなやつだけ、盾で受け流せば、攻撃の機会もくる。



 相手の隙を狙い、回避と受け流しに徹する。



 攻撃が止んだ! 今だ!



 ウッドゴーレムたちの動きが一瞬だけ止まった隙を狙い、目の前のやつの胸を貫く。



 胸を貫いた守護者の剣によって、ウッドゴーレムは痙攣し、膝から崩れ落ちる。



「まず、1体!」



「ロルフ君、援護するわ!」



 ウッドゴーレムの背後に忍び寄ったエルサさんが、一気に肉薄すると、素手で触れ、破壊スキルを発動させた。



 眩い光に包まれたウッドゴーレムの身体が分解されていく。



「ありがとうございます! エルサさん!」



「あとは1体。ロルフ君に任せるね!」



「はい! 任せてください」



 残り1体となったウッドゴーレムは、こっちに狙いを定めると、振り上げた拳を打ち付けた。



「1体なら、そんな攻撃は隙だらけになる!」



 拳を回避した僕は、両足を切り落とす。


 足を失いバランスを崩したウッドゴーレムが地面に倒れると、頭部に剣を突き立てトドメを刺した。



「よし、やった!」



「ロルフ君、すっごく剣の扱い方が上手くなってるよ! やっぱ、ベルンハルトさんと練習してる成果かな?」



「だと思います。アグドラファンに居た時は、ずっと父が教えてくれた基礎の型しか練習してなかったんです。けど、ベルンハルトさんが基礎は十分にできてるからって、いろんな技を教えてくれて、劇的に戦いやすくなりました」



「うんうん、やっぱずっと地道な努力してた賜物だね。ロルフ君は剣の才能もあるんだよ。たとえ、神様がくれるスキルによる恩恵がなくてもね」



 僕に剣の才能があるのか……。



 でも、才能ってなんだろう。



 スキルによる恩恵は技能の成長を約束してくれるって話だけど、もしかしたら人の何倍も練習すれば、同じ領域まで達せられるのかもしれない。



少なくとも剣の技能は多少なりともまともになってきてるわけだし。



「もっと、頑張って練習します!」



「うんうん、あたしも弓の練習は続けることにする。ロルフ君には負けてられないもん」



「はい! 頑張り――」



 ニコリと微笑むエルサさんの背後に鋭く尖った木の枝が見えた。



「危ないっ!」



 エルサさんをそのまま押し倒すような格好で、地面に倒れ込む。



 鋭い枝はエルサさんを貫くことなく空を切った。

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