第二〇話 擬態する木々
「ベルンハルトさん、魔物の気配はなくなりましたね」
「まだ、いるぞ! 気を抜くな!」
ベルンハルトさんに警告され、周囲を見るが、動くものの様子は感じとれない。
どこだ? どこにいる? ん? 振動?
腐葉土の地面が微かに揺れているように見える。
「下か⁉」
「ロルフ君、来るぞ!」
地面から根っこが突き出たかと思うと、鋭く尖った先端が、こちらにめがけていくつも飛んできた。
盾を前面に構え、鋭い根っこの先端を逸らす。
「ロルフ君、それは本体じゃないぞ」
「これ、ミミックウッドですよね? 木に擬態してる魔物の」
「そうだ。ここは群生地らしいな。私も手伝おう」
馬車を停車させたベルンハルトさんが、短剣を引き抜き御者席から飛び降りると、地面から飛び出している根っこを断ち切った。
「じゃあ、わたしがあぶり出してあげましょうかね!」
ヴァネッサさんの杖が光ると、光の波動が周囲に広がった。
探知の魔法で、周囲に魔物がいないかを確認してくれてるようだ。
「木に擬態してるやつが淡く光ってるわ!」
周囲を見回すと、取り囲むように二〇個ほど、淡い光をまとっている木があった。
「擬態を見破られたから、動いてくるぞ!」
メキメキと根っこが千切れる音がしたかと思うと、木が動き出し始める。
エルサさんが放った矢が、動き出した木に刺さると、不気味な声が森に響き渡った。
仲間を傷つけられたミミックウッドたちが、いっせいに根っこや枝先を伸ばし、僕たちに襲いかかってくる。
「エルサさんたちをやらせるか!」
馬車の上に陣取っていた二人を狙って伸びる枝を切り払うと、切り口から赤い樹液が噴き出す。
ミミックウッドたちの狙いは、痛みを与えた僕に向いた。
「うおぉおおっ!」
束になって襲ってくる木の根や枝を切り払い、道を作ると、淡い光をまとったミミックウッドの幹を薙いだ。
幹がズズズという音を立て、ズレ落ちると、血液のように赤い樹液が噴き上がる。
「右のやつは任せたまえ」
左目の眼帯を外し、見切りスキルの能力を発動させたベルンハルトさんが、自身に迫る根や枝を華麗に避け、ミミックウッドに近寄ると、駆け抜けるように一閃する。
僕の時と同じように、幹がズレて地面に落ちると、赤い樹液が噴き上がった。
「エルサちゃん、枝が来てるわ!」
「大丈夫です!」
白い手袋を口で咥えて外したエルサさんは、迫ってくる枝をかわすと、手で触れた。
眩い光が発生し、触れられたミミックウッドが、エルサさんの破壊スキルによって分解状態にされる。
あれに僕が触れちゃうと再生されちゃうから、放置しとかないと。
別の魔物に狙いを変えた僕は、ベルンハルトさんやリズィーと協力して、ミミックウッドを倒していった。
最後のミミックウッドが、僕の振るった守護者の剣で幹を断ち切られ地面に伏せる。
「ロルフ、エルサ、ベルンハルト、ヴァネッサ、すごい! かっこいい! つおーい!」
居室の窓から戦闘を見ていたナグーニャが、僕たちのことを褒めてくれた。
「ありがとう! なんとか、勝てたよ!」
「だが、やはり精霊樹の森は魔物が多い。放置されたことで強い個体もいる」
「修行には、もってこいの場所ねー。ロルフちゃんもエルサちゃんもバンバン魔物を倒してね」
「は、はい! 魔物と戦うロルフ君のかっこいいところいっぱい見れて、ちょっとうれしい」
「あらー、ノロケられちゃったわね」
「最後の魔物を退治したところって、すごくかっこよくなかったですか?」
「あー、はいはい。エルサちゃんは本当にロルフちゃんが大好きねー」
馬車の屋根でエルサさんたちが、僕の話をして盛り上がっていた。
まだまだ、ベルンハルトさんには遠く及ばないし、修行するべきことはたくさんあるけど、一歩、一歩、エルサさんの隣に立っても恥ずかしくない男になっていかないと。
エルサさんの方を見ていた僕の脇腹をベルンハルトさんが突く。
「ロルフ君、疲れているだろうが、素材と魔結晶は急いで集めておこう。ラポが弾劾され、精霊樹の根が被害者支援のために使われるまで、少しばかり時間がかかる。それまでの当座の生活資金はこれで捻出してもらおう」
「は、はい! そうですね。お金はいくらあっても困らないでしょうし! すぐに集めます!」
「ナグーニャも素材拾うおてつだいしたい! ベルンハルト、お外に出ていい?」
「魔物の気配もないし、リズィーのそばにいるなら許可しよう。リズィー、ナグーニャを頼む」
鼻をクンクンと動かしていたリズィーが、馬車の方へ駆け寄って行く。
扉を開けたナグーニャが、外に出てくると、素材となったブラッティウルフの皮やミミックウッドの樹皮を集め始めた。
「おしごとー! リズィーもおてつだいしてー」
「僕も手伝うよ。一緒にやろう」
「あたしも手伝うわ。みんなでやれば早いしね」
「周囲の警戒はわたしがしておいてあげる」
先ほどと同じく、ヴァネッサさんの杖から光の波動が周囲に広がった。
僕たちだけだったら、ヴァネッサさんも魔法を使ってまで周囲の安全の確保はしないけど、ナグーニャがいるので、厳重に安全確保をしてくれたようだ。
「おもいー。けど、おしごとー! ナグーニャ、がんばる! でも、リズィーちょっとだけおてつだいしてー」
リズィーとナグーニャがお互いに協力して、大きなブラッティウルフの皮やミミックウッドの樹皮を運んでいく。
素材の回収を終えた僕たちは、再び精霊樹の森をゆっくりと馬車で進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます