第一五話 地図入手
「大至急、こちらの書状を届けてくれる冒険者を手配して頂きたい」
「グウィード・アルカイデ伯爵⁉ そ、その書状の封蝋はベルンハルト殿のもの。この件にグウィード・アルカイデ伯爵殿を巻き込むつもりか⁉」
僕は自分の口に人差し指を当てる。
「声を潜めてください」
「す、すまない。まさかの名前が出てきたのでな。驚いてしまった」
ドグラスさんもさすがに他の貴族まで巻き込んで、僕たちが砦の囚人の解放を行うとは思ってなかったようだ。
「本気なんだな?」
「ええ、僕らは『本気』で受けた依頼を遂行するつもりです。そのために、ぜひとも冒険者ギルドの持つ地図と、この書状を確実にグウィード・アルカイデ伯爵に届ける依頼を受けて欲しい」
ドグラスさんは、厳しい目付きでこちらを睨むが、やがて諦めたように肩を垂らすとため息を漏らす。
「はぁー、しょうがねえ。ベルンハルト殿とグウィード・アルカイデ伯爵を敵に回してまで、あの領主を守りたいとは思わねえよ。よし、精霊樹の森の地図は提供してやるし、足の速い冒険者たちを見繕ってやる」
ドグラスさんが近くにあった鈴を鳴らすと、入口の扉の向こうにいた職員が入ってくる。
「精霊樹への道筋を示した地図もってこい! それと、この書状をグウィード・アルカイデ伯爵に届けてほしいらしい。依頼は『イダテン』の連中にまわせ。拒否するようならギルドマスターからの特別依頼だと言え!」
「はっ! 承知しました」
書状を受け取った職員が個室から出ていく。
「地図はじきに持ってきてくれるし、書状は最速明日の朝にはグウィード・アルカイデ伯爵の手に届く。うちのギルドに属する『イダテン』は足の速い健脚揃いだからな。馬よりも早いぜ」
馬よりも早い足を持つ冒険者たちか。会ってみたいけど、今はナグーニャの依頼を達成する方が先決だ。
「ご助力感謝いたします」
「ロルフ、勘違いするな。冒険者ギルドは、今回のあんたらの受けた依頼を遂行するのを、見てみぬふりをするだけだし、精霊樹の森の地図は存在してない。それに、グウィード・アルカイデ伯爵殿へ書状を届ける依頼を受けただけだからな」
冒険者ギルドとしては、表向き直接的な支援はできないが、僕たちのやることを静観してくれるって意味だろう。でも、それだけで十分だ。
「承知しております。ベルンハルトさんは、ドグラスさんのお立場がきちんと守られるように配慮していますので、ご安心ください」
僕の言葉を聞いたドグラスさんは、手を差し出し握手を求めてくる。差し出された手を握り返し、商談が成立した。
「で、ここからは、オレの独り言だ。適当に聞き流せ。5年ほど前に赴任してきたクソ領主様が勝手に精霊樹の森を私有地化する布告をしてな。行方不明者は続出するわ、魔物討伐はされず、狂暴化と巨大化した魔物によって、農村が荒らされ、人が何十人も亡くなっている。だから、街の連中も魔物討伐を行う冒険者も、領主に私物化された精霊樹を憎々しく見てるわけだ。その精霊樹が魔法でぶっ飛ぶところを見れたら、オレを含め、街のほとんどのやつが喜ぶだろうさ。だから、構わず派手にやってくれ。オレには手が出せなかった精霊樹だからな! 押し付けるような形になったが、依頼の成功を願っているぞ」
「お任せください」
ドグラスさんが握っていた手を放すと、外套を被っているナグーニャの前に移動する。
そして、額を擦り付け平伏した。
「すまねえ。オレはあんたらのことを知ってて見てみぬふりしてた。許してくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ」
キョトンとしたナグーニャがしゃがみ込むと、平伏するドグラスさんの頭を撫でた。
「ギルドマスター、大事な地図をくれた。ナグーニャ、助かる。なんで、謝る?」
「すまねぇ……」
「あとはロルフ、エルサ、ベルンハルト、ヴァネッサ、それとナグーニャとリズィーが頑張る番。みんな助けてくる。あと、精霊樹、ぶっこわーすだけ!」
たしかにその通り。ここまでくれば、あとは、僕たちが頑張ればいいだけの話だ。
「ドグラスさん、頭を上げてください。職員が戻ってきますよ」
「あ、ああ、そうか」
階段をあがる足音が聞こえたため、ドグラスさんを立ち上がらせた。
ドアがノックされると、職員が顔を出し、折りたたまれた地図をドグラスさんに差し出す。
「ごくろうだったな。ベルンハルト殿の依頼はどうなった?」
「すでに『イダテン』の連中を捕まえて、出立してもらってます!」
「そうか、そうか。だったらいい」
職員が一礼して、室内から立ち去り、扉を閉めた。
「聞いてもらった通り、書状はすでにグウィード・アルカイデ伯爵の領地に向かっている。あとはこの地図を持っていけ」
広げた地図には、目印となる目標がびっしりと書き込まれていた。
「5年前の地図に、最近の情報が書き加えられている地図だ。連中も物資の補給や搬出には荷馬車を使う。その荷馬車が通れるのが道だ。だが、この道は相手に見つかる。だから、発見されずに砦まで行く道はこっちを使え。こっちは、連中も使わない」
書き込みが一番多い道をドグラスさんが指でなぞっていく。
「最近の情報まで書き込んであるんですか?」
「まあな。精霊樹の森に巣食う魔物討伐が、許可された時のことを想定して、ギルド所属の熟練冒険者たちに、常に偵察をさせていたからな。ただ、現状のオレらには、これ以上のことができない。だから、お前らに託す」
広げた地図を綺麗に折りたたむと、ドグラスさんが僕に手渡してくれた。
「ありがたく使わせてもらいます!」
「精霊樹の森は凶悪な魔物が多く隠れ潜む。ロルフ、絶対に油断するなよ」
「はい、肝に銘じます!」
地図を手渡してくれたドグラスさんは、僕の肩を叩くと個室から出ていった。
「ふぅ、緊張した」
「お疲れさま。でも、これで地図も手に入ったし、ベルンハルトさんの書状も届くよね」
「はい、そうですね。僕たちにとって、冒険者ギルドは、十分な助力をしてくれたと思います」
「ナグーニャたちのおしごとかんぺきー! ベルンハルトたちだいじょうぶ?」
「大丈夫さ。ベルンハルトさんたちは、僕以上に完璧な仕事をしてくれるはず。さぁ、僕らは停車場に戻って、精霊樹の森へ行く準備を進めよう!」
「あい! しょうち! リズィー行くよー」
「ナグーニャちゃん、1人で行ったらダメよ。あたしと手を繋いでね」
「あい! おてて!」
エルサさんと手を繋いだナグーニャが、部屋を出ようとすると振り返った。
「ロルフ君、置いてっちゃうよ?」
「ま、待ってください。すぐ行きます!」
地図を大事にポーチにしまった僕は、エルサさんたちの後に続いて冒険者ギルドを後にした。
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