第五話 訪問者?
「ロルフくーん! ご飯できてるよー!」
馬を厩舎に戻すと、エプロン姿のエルサさんが、居室部分の窓から顔を出して呼んでいた。
「ベルンハルトさんたちも戻ってきてます?」
「うん、さっき戻ってきた」
ちょうどすれ違いになったみたいだ。だったら、待たせるのも悪い。
「すぐに行きます!」
「冷めちゃう前に来てねー!」
「分かってまーす!」
後片付けを急いで終え、居室に入る扉を開けると、ベルンハルトさんたちがいた。
「遅くなってすまなかった。ちょっと、面倒な話を持ち込まれてね。どうするべきか、迷っていたらこんな時間になってしまった。結果、荷物の整理をロルフ君に任せることになってしまったようだ」
「荷物の整理は僕が勝手に始めたことなんで気にしないでください。それにしても面倒な話ですか?」
「ああ、本当に面倒な話だ」
ベルンハルトさんの顔は険しい。
相当、面倒なことを持ち込まれたのかな。
「はい! そこの2人! 仕事の話は終わり! もう配膳してもらってるんだから、これからはご飯の時間!」
ヴァネッサさんが、パンパンと手を叩いて、話を遮ってきた。
「待ちくたびれたリズィーちゃんが、床で干からびてるわよ」
ヴァネッサさんに言われ床を見ると、お腹が空いているのか、リズィーが横倒しに倒れて目を閉じていた。
「ごめん、ごめん、リズィーお腹空いたんだね。さぁ、食べよう」
床に倒れていたリズィーを抱え上げ、席に着くと膝の上に座らせる。
「でも、ちゃんとロルフちゃんを待ってるのはえらいわねー。あたしのお肉どうぞー」
膝の上に座ったリズィーから涎が零れ落ちる。
同時にお腹が鳴った音がした。
「では、仕事の話は後程することにして、リズィーを待たせるわけにはいかないので、頂くとしよう。エルサ君、いつも食事の支度を任せてすまないな」
「いえ、お世話になってますので、これくらいさせてもらわないと、気が引けますから」
「ベルちゃんは、基本的に衣食に関して贅沢しないし、食べられれば保存食でいいって言う人だから、ちゃんと調理してある料理を出してもらえると、引き返せなくなるわ」
わりと、ベルンハルトさんはストイックというか、徹底する感じの人で、食事も寝床も気にしない感じなのは最近理解してきた。
どちらかというと、ヴァネッサさんは、いろいろと寝床と食事にこだわってる人だよな。
でも、2人とも長い付き合いで、お互いに分かってるから、妥協するところと、譲れないところを上手く見つけて仲良くやってる感じだ。
僕とエルサさんも、2人みたいにお互いの違いを素直に認め合える存在になりたいよね。
チラリとベルンハルトさんを見たら、視線が合った。
「ん? ロルフ君、私の顔に何かついているかね?」
「いえ、なんでもないですっ!」
「ロルフちゃん、あたしとベルちゃんみたいになりたかったら、絶えずエルサちゃんを褒め称えないとダメよー」
「エルサさんを褒め称える⁉」
「そう、ベルちゃんみたいに、釣った魚には興味をなくしてしまい、仕事に励まれると、いろいろと考えちゃうわけ。ほら、適齢期? ってやつもあるわけじゃない」
ヴァネッサさんが、ジト目で隣に座るベルンハルトさんを見つめた。
「ヴァネッサはいったい何の話をしているのだ? 君が修行したいって言うから、私は――」
「あら、そうだったかしら? そんなことも言った気はするわねー」
えっと、ヴァネッサさんの言い分の方が正しい気もするんで、いちおうエルサさんを褒め称えた方がいいってことかな……。
慌ててエルサさんを見ると、リズィーのご飯の様子を見守っていた。
「リズィー、テーブルにこぼしちゃダメよ。ロルフ君、ご飯、口に合わなかった? 昼間の精霊樹の燻製焼きをちょっとあたし流にしてみたんだけど」
僕と目線が合ったエルサさんは、ニコリと微笑み、食事の味を尋ねてくる。
ほ、褒め称えないと! 今のタイミングだよね! きっと!
すぐに自分の皿によそわれた食事を平らげると、咀嚼して飲み下す。
「お、美味しいですよ! さすが、エルサさんの食事です! 僕は幸せ者だ!」
「ありがとう。そういってもらえてよかった。まだ、食べる?」
「は、はい! もらいます!」
エルサさんにお皿を差し出すと、おかわりをよそってもらい、二食目に突入した。
「そうそう、そうやって褒めてもらえるとエルサちゃんも嬉しいわけ」
「もー、ヴァネッサさん。恥ずかしいから言わないでくださいよ。あ、でもやっぱ嬉しいですよね」
「でしょー。やっぱちゃんと言ってくれる方がいいわよー」
ベルンハルトさんが、どこか遠くを見つめてる気がするんだけど……。
「しっ! 何か聞こえる! 声を潜めてくれ!」
遠くを見つめていたと思ったベルンハルトさんが、急に表情を引き締め、声を潜めるよう促した。
「来客です?」
「もう日が暮れているので、それはないな」
「だったら、泥棒ですか?」
「街中の停車場で盗みを働く者がいるとは思えないが……」
馬たちのいななく声が聞こえるが、自分には人の気配は感じ取れなかった。
「ちょっと、気になるので周囲を見回ってこよう。ロルフ君も手伝ってくれ」
「はい! 行きます!」
「ロルフ君、剣!」
エルサさんが、刀身に文字が装飾された剣を渡してくれた。
受け取ったのは、父からもらった剣だが、アグドラファンのダンジョンでキマイラという魔物を退治した際、守護者の剣へ変化したものだ。
切れ味は伝説級の鉄の剣と同等かそれ以上。でも、エルサさんの破壊スキルの力を受け付けないため、強化ができなくなっている。
でも、刃こぼれとか切れ味が落ちたりしないんだよなぁ……この剣。
受け取った剣をベルトに差すと、ベルンハルトさんとともに、周囲を警戒しつつ扉をゆっくりと開き、車外に出た。
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