第二十話 謎のダンジョン
できあがった棍棒を二人で眺めていたら、破壊して窪んだ地面がガサリと崩れ、中からスケルトンが這い出してくるのが見えた。
「エルサさん、敵です! スケルトン!」
「なんで地面から!」
「たぶん、破壊した土が消えて、抉れた部分とダンジョンの天井が繋がっちゃったのかも」
スケルトンが這い出そうとしているので、手にしていた小鬼骨の棍棒をおもいっきり振り落とした。
堅い骨同士がぶつかる感触が手に伝わってくる。
叩きつけた小鬼骨の棍棒は、スケルトンの頭部を砕いていた。
「ロルフ君、まだ動いてるよ!」
「ええ、分かってます!」
頭部を失ったスケルトンは、まだ地面から這い出そうと手を動かしている。
再びスケルトンに向け小鬼骨の棍棒を振り下ろすと、身体を動かしている骨を砕いた。
バラバラになったスケルトンは、素材と魔結晶を排出して消え去る。
「ふぅ、ビックリした。でもこんな街の近くにダンジョンがあるなんて聞いたことないや」
素材化したスケルトンの骨片と魔結晶を拾いつつ、開いた穴の中を覗き込む。
穴の中はかび臭い匂いが充満しており、灯りはないようで地表から差し込む光でわずかな範囲が見えるくらいだった。
「やっぱりダンジョンっぽいですね」
「ロルフ君、たいまつを作ったわ。ダンジョンの中を行くなら必要でしょ」
穴の中を覗き込んでいる間に、エルサさんが手早く折れて乾燥していた木の枝に火を点けてくれていた。
エルサさんは猟師をしてたらしいから、火起こしも早いや。
とりあえず、このまま放置すると魔物が街に出てきちゃうかもしれないし、探索だけはしておこうかな。
手強い魔物がいたら、冒険者ギルドに報告して討伐してもらわないといけないし。
「ありがとうございます。危険がないかだけ確認するため、潜ってみましょう。危ない魔物がいたらマズいですしね」
「じゃあ、あたしもたいまつ持っていく。少し待ってて」
ダンジョンに潜ることを伝えたエルサさんは、すぐに火打ち石を取り出すと、手早く木の枝に枯れた草を巻きつけて火を灯すことに成功していた。
「お待たせ。じゃあ、探索しよっか」
「僕が前を歩くんで、エルサさんは少し離れて後ろからついてきてください」
「一緒じゃダメなの?」
「罠がないとも限りませんし、少し離れておいた方が二人一緒に罠にかからずに済むと父親に教えられたので。先行する僕の歩いたあとを、ちゃんと踏んでついてきてください」
探索済みのダンジョンなら、罠の位置を示した地図などが手に入るけど、この穴は探索されたダンジョンなのか分からないので、罠の用心をしておいた方がいいと思われた。
「分かった。先輩冒険者の助言には従った方がいいわよね。でもロルフ君も十分に気を付けて」
「はい! 気を付けます!」
ダンジョン内に入る準備を終えた僕たちは、たいまつの明かりを頼りに、穴の中へ入っていくことにした。
ダンジョンの中は空気が淀んでおり、かび臭さが鼻へ常に刺激を与えてくる。
「掘った後が全くない。岩も露出してるし、自然の洞窟ですかね?」
たいまつの明かりが照らし出した壁は、つるはしで掘ったあとが見えず、綺麗につるりとした表面をしていた。
「でも、地面は少し手が入ってるみたいだよ。でこぼこしてないし」
自然の岩が露出している壁とは違い、エルサさんが言った通り地面にでこぼこはなく、土で平らにならされている。
ゴブリンの巣かな? それにしては通路が綺麗すぎるけど。
父さんたちが、ゴブリンの巣ならやつらは掃除をしないので、ゴミが散乱して悪臭が充満してるはずだって言ってたし。
自分の持つたいまつの明かりを頼りに、足元にも気を付けて綺麗にならされた通路を進んでいった。
通路を奥へ進んでいくうちに、壁がそれまでの自然の岩壁から、切り揃えられた石材を積み上げた壁に変化してきていた。
けっこう手がかかってるダンジョンみたいだ。
やはり、ゴブリンの巣とかじゃなさそうな気もする。
罠がないか辺りを注意深く観察しながら進んでいると、手にしたたいまつの火が風に揺れる。
ん? 風? 壁の方から吹き込んでる気がするが?
揺れるたいまつの火が気になり、吹き込んでくる先を視線で追ってみる。
切り揃えられた石材の壁の奥から微かに水の滴る音が聞えた。
壁の奥が空洞になってるのか?
見たところ入り口はなさそうだけど……。
一本道の通路の途中に隠し部屋みたいなものがあるのか。
「どうしたの? 何か気になることでもある?」
僕が立ち止まったことを不思議がったエルサさんが、いつの間にか隣にまできていた。
「この壁の向こうに部屋があるみたいなんですよ。隠し扉でもあるのかなと思って見てるんですが、そういったものはなさそうで」
「壁の向こう? 普通の壁に見えるけど。あたしのスキルで破壊してみるわね」
「ちょ!? エルサさん!? 敵がいるかもしれませんし――」
「その時はロルフ君が一緒に倒してくれるよね?」
「ええ、まぁそうですけど」
白い手袋を外したエルサさんが、素手で壁に触れ破壊スキルを発動させていた。
とっさに盾を構えて彼女の前に入りこむ。
淡い光をまとって浮いた壁材の奥には、数人が入れそうな空間が広がっていた。
「ロルフ君の予想した通りだったね。隠し部屋かな? 水が溜まって水没してる場所もあるみたいだし」
「壁になってるところに入り口はなさそうですし、もしかしたら入り口は水没してる方にあったのかもしれませんね」
部屋の中をたいまつで照らしていくと、魔物の姿はなく、部屋の端に祭壇のような物があるのが見えた。
「祭壇があるみたいなので、ちょっと見てきますね」
「あたしも一緒に行くよ」
ついてくると言ったエルサさんを先導する形で、祭壇の方へ近づいていった。
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