第二十一話 警報
隠された部屋の奥にある祭壇に近づくと、台座の上には赤い石が置かれていた。
魔結晶かな? それにしては色が血のように赤いけど。
魔結晶なら、向こう側が透けて見えるくらいの透明度を持っているはずだ。
でも、この石は透けてないしな。
「これは、宝石かしら?」
「宝石という感じでもなさそうですけど……。ほら、カットもされてませんし」
台座に置かれていた真っ赤な石を手に取って、隣にきていたエルサさんに見せようとすると、けたたましい音が祭壇から発生していた。
この音、まさか罠!?
室内に耳をつんざく大きな音が響き渡る。
隣にいたエルサさんは、急に鳴った音に驚いた顔でこちらを見ていた。
「ロルフ君? 何が起こったの?」
「す、すみません! たぶん、罠だと思います! 何か来るかもしれないんで警戒しましょう!」
「罠!? そういえばここはダンジョンだったわね」
「ええ、ダンジョンにある宝物庫とか宝箱に、魔物を呼び寄せる罠がしかけられることがあると、両親から聞いてましたけど……祭壇の台座にしかけられてるとは……」
台座の石に仕掛けられた罠によって鳴り響く爆音の中、たいまつを地面に投げると盾と剣を構えてエルサさんを守るため前に出る。
部屋に入口はなかったし、魔物が来るとしたらエルサさんが破壊した壁の方からか。
祭壇側は壁で囲まれてるから、エルサさんに近づく魔物はいないはず。
警報の鳴り響く中、慌てないように冷静になって自分たちの状況を確認した。
落ち着いてエルサさんの壊した壁の方へ視線を向け、魔物の出現に集中していたら、背後にいるエルサさんから声がかかる。
「ロルフ君! 水没してるところからスケルトンが五体!」
「水没してるところから!? 嘘!?」
慌てて視線を水没している方へ向けると、エルサさんが持つたいまつの揺れる火に照らされた骸骨たちが手に斧や剣を持ち、こちらへ近づいてくる姿が見えていた。
スケルトンは、水の中も関係なく歩いてこれるってことか!
でもスケルトン五体くらいなら、やれる!
「エルサさんは、そこでたいまつの明かりが消えないようにしててください。お願いします」
「う、うん。援護はしなくて大丈夫?」
「ええ、この暗闇の中だと、明かりが一番の援護ですし、スケルトンくらいなら僕だけでも倒せます」
「分かった。それじゃあ、ロルフ君のたいまつにも、また火を点けてもう少し明るくするね!」
盾を構える際、地面に置いたたいまつはすでに火が消えていたので、エルサさんが拾い上げ自分のたいまつで再点火をしてくれた。
室内の光源が増え、近づいてくるスケルトンたちの姿がより鮮明になる。
「ありがとう!」
エルサさんにお礼を言うと、近づいてくるスケルトンたちに向かって剣と盾を構えて駆けた。
侵入者を排除するために近寄ってきたスケルトンたちは、自らの武器を掲げ、ガシャガシャと音を立ててこちらに走り寄ってくる。
普通の剣だと堅い骨に対して刃が立たなくて倒せないだろうけど、この伝説品質の剣なら骨ごと断ち切れるはず。
棍棒で倒した時と同じように、身体を動かす重要な骨を断ち切っちゃえば簡単に倒せるはずだ。
こちらを斬り殺そうと剣を振り下ろしたスケルトンの斬撃の軌道を見定め、慌てずに鉄の円盾で受け止めて刃筋を逸らす。
スケルトンの斬撃は刃筋を逸らされ、刀身は円盾の表面を滑り、体勢が崩れていた。
もらった! 脊椎を断ち切る!
攻撃を逸らされ体勢を崩したスケルトンの脊椎を、伝説品質の剣で縦一直線に断ち切るのに成功した。
「簡単に一つやっつけた! すごい! さすがロルフ君!」
エルサさんの喜ぶ声が、僕の中に更なる力を与えてくれる。
スケルトンたちは、何もない眼窩の奥に赤い光を宿らせると、手にした武器を次々に振り下ろしてきた。
丸盾で斬撃を受け止め逸らしつつ、受け止められなそうなのは伝説品質の剣で根元から断ち切っていく。
すぐにスケルトンたちの武器は用をなさなくなり、できた隙を狙って脊髄を一刀両断にしていた。
部屋にいたスケルトンを全て退治すると、けたたましい音を出していた警報の音が止む。
これ以上増援がくる様子もなさそうだし、台座に置いてあった赤い石は手に入れられたみたいだけど。
この赤い石は警報作動装置の一部だったのかな?
盾を持っていた方の手に、ずっと握っていた赤い石を見ていたら、背後から抱き付かれる感覚に襲われた。
「すごい! すごいよ! ロルフ君! あんなにいっぱいいたスケルトンを簡単にやっつけちゃうなんて!」
エルサさんが喜んだ声で、僕に抱き付いてくれているが、正直大きな胸が後頭部に当たるので反応に困ってしまう。
注意するとエルサさんが悲しむだろうけど、かといってこの状況は色々と困ることが発生してしまうんだよな。
後頭部に当たる物をどうするべきか迷っている間も、エルサさんが自分のことをずっと褒めてくれていた。
「あっ! ごめん! また、やっちゃった! わざとじゃないから、ごめん」
こちらが固まっていた理由に気付いたエルサさんが、そっと自分の身体を離していく。
「分かってますから大丈夫です。僕がきちんと言えば良かったんですけど。その、言えなかったので」
「ロルフ君ならいいかなって思って、つい抱き付いちゃうの。あたしの方が、身長が高いのを忘れてね。でも、それが嫌だったら言ってね」
僕の眼の前に来たエルサさんが、伏し目がちにこちらを見て謝ってきていた。
そんな照れた顔をされて言われると、嫌だって言えない。
むしろ、存分にしてくださいとか口走っちゃいそうだ。
照れた顔で謝るエルサさんに、僕の視線は釘付けだった。
「大丈夫です! 嫌ではないですから!」
「ほんとに? 無理してない?」
「ええ、全然無理してないです! むしろしてもらえてよかった――」
口に出した瞬間、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言っていたことに気付き、顔が火照るのが止まらなかった。
「違うんです! そういう意味じゃなくて!」
「え? どういう意味?」
「いや、あのエルサさんが気にしてるようなことはない、ということでの無理はしてないですし、してもらえてよかったですからっ!」
「あたしが抱き付いても問題はないってことでいいんだよね?」
確認するように聞いてきたエルサさんに、無言で頷くことしかできなかった。
恥ずかしい……絶対に変なやつだとか思われた。
火照る顔を見られたくなくて、倒したスケルトンから変化して地面に転がった骨片と魔結晶を拾うことにした。
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