第十二話 草類錬金術


 新品になった衣服に着替え終えたエルサさんが、恥ずかしそうに顔を赤らめて、こちらを見ている。



 顔を見るだけで、さっきのことが思い出されちゃうんだけど、どうしようか。


 変に思われたくないし、かといって勝手に心臓がドキドキしちゃうんだが。



 さきほど起きたことをどう弁明しようか迷っていたら、エルサさんの方が先に口を開いた。



「さっきのは、ロルフ君だから見せたんだからね。だから、気にしないでも大丈夫」


「え? いったいどういうこと――」



 理由を聞き返そうとした僕の口に、エルサさんは自分の指を当てていた。



「これ以上は内緒――」



 そんな照れた顔で言われたら、とんでもなく意識しちゃうんだけど!


 そのつまり、さっきの言葉は『僕』だったから、裸体を見せてもよかったということかな?


 いやいや、そんな都合のいい解釈をして嫌われるのは避けたいし、事故だから問題ないって意味に考えておいた方がいいよな。



「わ、分かりました。僕もさっきのことは全力で忘れます!」


「忘れちゃうんだ……」



 そんな残念そうな顔をされると、覚えておいた方がいいのかなと思っちゃいますが。


 でも、『覚えてます』なんて言えるわけもないし、どうするべきだろうか。



 エルサさんへの答えに窮した僕は、話題を変えることにした。



「そ、そんなことよりも、エルサさんの膝や肘に擦過傷があるみたいだし、すぐに傷を癒す薬草を摘んできますね。ここら辺は薬草や毒消し草の自生地ですし」



 ゴブリンから逃げる時に、彼女は膝や肘を擦りむいたようで、傷は深くないものの痛そうであった。



「薬草かぁ。もったいなくない? これくらいの傷なら唾を付けておけば大丈夫だと思うし」


「でも、放っておくと膿んだり、大きな病気を引き起こしたりするし、それに傷が残ったら大変だし。こう見えても、薬草集めは得意なんですぐに取ってきますよ。ここで待っててください」



 街の清掃活動とともに、薬草類の採取も生活困窮者の救済依頼に入っていた。


 滅多に魔物の出ないこの辺りに薬草や毒消し草を摘みに来て、冒険者ギルドに一つ五〇ガルドで買い取ってもらえる依頼だ。


 ぼっちの冒険者だった僕は、何度もその依頼を受けていて、効率よく薬草や毒消し草を見つける方法を編み出していたのだ。



 エルサさんをその場に待たせると、薬草の生えていそうな草むらを探す。



 薬草は日がよく当たって、周囲に木々や背丈のたかい草がないところに自生してるはず。



 条件に当てはまりそうな場所に見当を付けると、すぐにその場に向かった。



 あった! やっぱりまとまって自生してるな。四個くらいあればいいか。



 自生している薬草を取り終えると、すぐにエルサさんの待つ場所に戻る。



「ありましたよ。すぐに擦過傷の部分に潰した薬草の葉を当てますから」


「そんな大した傷でもないから、やっぱりもったいないよ」



 エルサさんは傷の治療をしないでも大丈夫だと言うが、この辺りには大量に薬草類が自生してるので、身体の安全の方が大事だった。


 摘んできた薬草の葉を手で小さく潰し、中の汁が出てきたところで拡げ、傷口に押し当てると、綺麗な布で巻いた。



「染みる……」


「大丈夫です。擦過傷にはよく効くんで」



 膝と肘の二か所に潰した薬草の葉を張り終えると、エルサさんが摘んできた薬草を手にしていた。



「ロルフ君、薬草とか毒消し草とかお金になるよね?」


「なりますけど、でも一つ五〇ガルドにしかなりませんよ」


「伝説品質を狙ってみるのはどう? いっぱい生えてるって聞いたし、多く集めて伝説品質に挑戦してみるの」



 再生スキルで品質の高いのを創り出すのか。


 たしか品質のいい薬草とか毒消し草は、高値で取引されるとか聞いたことあるしな。


 数はすぐに揃えられるし、、やってみてもいいかもしれない。



 エルサさんからの提案を受け、薬草や毒消し草の高品質化に挑戦してみるのも悪くないと思った。



「ここなら、薬草も毒消し草もいっぱい生えてるし、再生を失敗しても元手は自分の労力だけだからお金もかからないし、やってみて損はないかも。じゃあ、僕は薬草と毒消し草を採取して――」



 早速、薬草類の自生している場所へ行こうとした僕の手を、彼女が引いてきた。



「あたしも一緒に手伝わせて。二人でやった方がいっぱい取れるだろうし。薬草や毒消し草の生えてそうな場所を教えてくれるかな?」



「それもそうですね。見つけてすぐに再生していった方が効率的ですしね。じゃあ、一緒に行きましょう!」



 再生した新品の武器と素材を草で隠し目印をすると、僕たちは周囲に自生する薬草と毒消し草を摘んで回ることにした。



 自生している薬草を引き抜くと、エルサさんに破壊してもらい再生スキルを発動させる。


――――――――――

 再生スキル

  LV:4

  経験値:8/30

  対象物:☆薬草(分解品)


 >薬草(普通):93%

 >薬草(中品質):73%

 >薬草(高品質):53%

 >薬草(最高品質):23%

 >薬草(伝説品質):13%

―――――――――――



 現時点での伝説品質の成功率は13%だ。


 かなり低いけど、再生に成功したらかなりの金額になると思いたい。



 伝説品質を意識して再構成させる。


 しかし、失敗したようで薬草から黒い煙が出ると、灰となって消えていった。


「さすがに一回目からは無理よね。まだいっぱいあるし、もっと挑戦してみればきっと成功するはずよ」


「はい! まだ、一個目ですしね」



 今はエルサさんを献上奴隷から解放してもらうため、緊急で金が要るので、なんとしても高額で売れる品物が欲しかった。


 失敗にめげず新たに採取した薬草を使い、伝説品質に挑み続けていく。


 七回目の試行を終えた時、手には伝説品質の薬草が再生されていた。



「やった! エルサさん! 成功しました! 伝説品質の薬草です!」



 手元には神々しさを発するような七色の葉をした薬草がある。


 鑑定機能が実行されて、伝説品質の薬草の効果などが視界の端に表示された。



 >薬草(伝説品質)の再構成に成功しました。


 >薬草(伝説品質)


 回復量:500 重度裂傷即時回復 重度火傷即時回復


 資産価値:五〇万ガルド



「エルサさん! この伝説級の薬草ですけど、なんかとんでもない回復効果があるし、一個五〇万ガルドになるみたいです!」


「そんな色の薬草なんてみたことないしね。一個五〇万ガルドするって言われてもおかしくないかも!」


 エルサさんも僕の手にある伝説品質の薬草を見て、顔を紅潮させて喜んでいた。



 そこらへんに生えてるただの薬草が、一個五〇万ガルドになるんだもんな。


 これ一個売れるだけで僕の半年分近い稼ぎになるよ。


 鉄の剣といい、今回の薬草といい、伝説品質で成功すると資産価値がとんでもなく高くなるみたいだ。



 手にしていた薬草の価値を知り、よりいっそう薬草と毒消し草摘みに意欲が湧いてきていた。



「エルサさん! ドンドンと挑戦しましょう! あっちに毒消し草が生えてますから!」


「うん! やりましょう!」



 それから毒消し草を伝説品質で再構成を続け、試行回数四回目で伝説品質の再生に成功していた。


 成功した伝説品質の毒消しは真っ黒な葉をしており、見ているだけで苦さを想像できそうな色をしている。


 >毒消し草(伝説品質)の再構成に成功しました。


 >毒消し草(伝説品質)


 回復効果:即時解毒(強)効果


 資産価値:六〇万ガルド



「毒消し草の方が、少し資産価値が高いみたいです。一個六〇万ガルドになりますよ。強い毒もすぐに解毒できるみたいです。そんな毒消し草なんてあるんだ……」



 薬草も毒消し草も欲しい人がいたら、資産価値よりも高くても買う人がいるだろうなぁ。


 それにしても、一個五〇ガルドの薬草や毒消し草の品質が上がるとすごい資産価値になる。



 鑑定結果に表示された効果を見て、手にしている毒消し草のすごさを改めて感じた。



「すごい……やっぱロルフ君ってすごい。すごいよ」


「エルサさん! これでお金いっぱい作りましょう!」



 その後、日暮れ間近まで二人で試行した結果、薬草四〇個から伝説品質五個、毒消し草五〇個から七個の伝説品質を入手するのに成功した。

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