第20話 涙のキス
「終わったぁ」
学校から解放されて、鉋はのびをしていた
「全員揃ったしカフェ行こうぜ」
鉋を先頭に校門からでて、歩いていく
「荒良々木さんは昨日カフェで何頼んだの?」
「私は季節限定のプリンといちごパフェ」
「光希は?」
「俺は人生初のミルフィーユ」
「お前ミルフィーユ食ったこと無かったの?」
「あんまりカフェとか行かないし、食べるとしても普通のケーキばっかだったからな」
「で、どうだった、初めて食べたミルフィーユの感想は」
昨日未華に伝えた感想を光希にも話すと、光希も昨日の未華と同じようなことを言った。ケーキに美味しい、美味しくないなんてあるのか?
今更ながらそんな疑問が生まれた
「美味しくないケーキってどんなのがあるのか分かるか?」
しばらく二人は黙って考えてたが光希の方が口を開いた
「美味しくないって言うより、甘ったるいケーキとかかな。ただただ甘い。そんなケーキ食ったって最初は幸せかもしれないけど、途中から嫌になってくる」
次に未華が
「私は美味しくないケーキの話は聞いた事があっても実際食べたことないかな」
意外だな。未華は結構ケーキとか食べてたと思うけど、美味しくなかったのはないのか。
「光希はただただ甘いだけのケーキは食べたことはあるのか?」
「あるよ。食い終わったあとも、しばらく口の中が甘くて最悪だった。」
「これから行くカフェはそんなんじゃないから良かったな」
「そりゃよかったよ。」
三人で話しながら向かっていると、未華の足がもつれて、転びそうになった。
「大丈夫、荒良々木さん?」
「どっかでちょっと休んでいこう」
二人で休める場所を探して、クレープ屋があったので、そこで休むことにした。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「そんなことないよ。荒良々木さんこそ体調が良くないなら言ってくれればまた今度にしたのに」
「ごめんなさい」
「謝んなくていいよ。今日は帰ろうか。荒良々木さん家って、こっからだと結構遠いだろ」
「昨日思ったけど結構遠かったよ。あとこれ、水買ってきたよ」
水を受け取って、こくこくと少しだけ水を飲んだ。
話し合った結果、今日は帰ることになった。
さすがに未華も朝から学校で、終わったあとちょっと離れたカフェまで、なんて厳しかったのだろう。
俺がもうちょっと気を使っていれば、鉋とも一緒にカフェにたどり着くことが出来たのだろうか。
鉋と別れたあと未華としばらく、自販機横のバス停で椅子に座って休憩することにした。
「結局話せなくなっちゃったね。私の事」
俯きながら、膝の上で両手を強く握っていた。
「仕方ない。また今度機会があったら話せばいい。それより、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。私は大丈夫。でも、身体が思うように動かせなくて辛いかな。私の想いが心と身体を追い越してるって感じかな。私の思い描いてた未来が壊されていく。三人で楽しくカフェでお話したりしたかった。鉋君に私の身体を話しておきたかった。私の頭の中で思ってることと違う私が今ここにいて…」
もし、神様が存在するのだとしたら、これはあまりに残酷すぎる。目の前で俺の彼女は、思うように行かない現実に打ちのめされて、苦しんでる。俺はそれを治してやることは出来ない。ただ、できることはある。
横にいる未華を抱き寄せて頭を撫でた。空いてる左手で未華の手を握った。
「未華はよく頑張ってる。それは一番近くにいた俺がよくわかってる。今日だって未華は俺なんかのために早起きして、弁当と朝飯作ってくれた。一日学校を頑張ったし、さらに寄り道までしようとした。」
「でも、最後は行けなかった」
「結果じゃない、未華が頑張ったって言う過程が重要なんだ。やりたいことが出来なかったなら、また次がある。俺が支えてやる。もし、次に足が思うように動いてくれないなら、俺がおぶってやる。もし手が動かないなら、俺が代わりにやってやるし、手伝ってやる。もし未華が苦しいなら、俺がその苦しみから解助けてやる。もし、声が出せなくなったら、俺が未華の口の代わりになってやる。もし耳が聞こえなくなったら、俺が話の内容が伝わるまで何度だって伝えてやる。もし、笑えなくなったら、俺がまた、笑顔にしてやる。悲しいなら、下手くそだけど今みたいに慰めてやる。抱きしめて、手を握って声を出して、未華を、慰めてやる。こんなことしか出来なくてごめん。」
「あり…がとう。私、怖かった。これから歩くこととかどんどんできなくなっていくんじゃないかって。だから、ありがとう」
震えた声、濡れた声で彼女は怖かった事を話してくれた。払拭しきれない恐怖と、未華は常に戦っている。未華の心がそれに耐えきれなくなったら、俺が代わってやる。
「どうしようもならない事に、未華が耐えきれなくなったら、俺のせいにしてくれ。俺にその恐怖を怒りをぶつけてほしい。俺が全部受け止めてやる。」
「そんな理不尽なこと出来ないよ。でも、ありがとう。もし、本当にそんな時が来たらその時はよろしく。」
「ああ、ドンと来い。」
腕から未華を解放すると、少しだけ未華の目は腫れていた。だけど未華はスッキリした顔をしていた。
「帰ろうか」
立ち上がろうとすると、未華が手を引っ張り、ベンチに尻もちをつく。未華を見ると目を瞑った未華の顔が近づいて口に柔らかな感触がした。しばらくして、一度唇をはなし、今度はディープキスをした。
初めてのキスとは違い、今日は涙の味がした。
今度こそお互い手を繋いで、家へと歩き出した。
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