第19話 サプライズ弁当

授業が始まり、教室は、机の上で寝る人、絵を描く人、真面目に授業を受ける人、友達と話し合う人でいっぱいの中、俺は鉋にいつ未華のことを話すか、悩んでいた。許されるなら、話さないでそのままでいたいと思ってしまった。話したら、余計な気を使わせてしまうから。いつものようにバカ話が出来なくなる気がする。

黒板を写しては、悩み、また写しては、考えの繰り返しだった。ふと視線を感じて、視線の先を見ると未華が不安そうな顔でこちらを見ていた。未華と目を合わせて笑顔を作ると、未華は黒板に向き直った。

授業が終わると「「光希」」と俺を呼ぶ声が聞こえた。

その声は重なって発せられたからなのか誰が俺を呼んだのかすぐには分からなかった。俺に向かって来てるのがわかってようやくわかった。

「トイレ行こうぜ」、「さっき何悩んでたの?」

また、タイミングよく未華と鉋、二人の声が合わさった。

すると、未華が鉋に手でどうぞと言ったような動きをした。鉋も同じような動きをした。

「鉋君から先でいいよ」

「いや、ただ連れションしたかっただけだからやっぱいいや。」

そう言って、教室を出ていった。

「授業中ずっと何悩んでたの?問題が分からないって感じじゃなかったよね。」

「授業が始まる前、鉋に未華の体について聞かれたんだ。本当に治ってるのかって」

「それで」

「それで、鉋にいつ話すべきか悩んでたんだ。仮に話したとして、あいつともうバカ話とか、できなくなったりするんじゃないかって思っちゃって。」

「そんなことないと思うな。鉋君なら私の体の事を聞く前から何を聞かれても見捨てないって思ってそうだけどな。」

「なんでそう思うんだ。あいつが覚悟を決めて未華の話を聞いてくれたとして、動揺しないはずがないだろ。」

「うーん。動揺はするだろうけど、態度を変えたりはしないんじゃないかな、多分。さっきだって、気軽に話しかけに来てたでしょ」

「確かにそうだけどさ…」

「鉋が思ってるようなことにはならないと思うから、話してもいいと思うよ。私は別に光希の大切な人になら私の事を話してもいいよ。」

「なんの話しをしてんだ?」

話の途中で鉋が入ってきた。

「今日の弁当の中身の話だよ」

適当に誤魔化すと、愛妻弁当か。ラブラブだなと茶化してきた。

「そんなことより、今日部活ないから昨日のノートお礼できるんだけど。今日なんか放課後予定ある?」

「いや、特にない。そういえば美味しいとことしか言ってなかったけど具体的になんの店なんだ?」

「あれ、そうだっけ。最近できたカフェなんだけど、そこのケーキが上手いんだよ」

昨日行ったカフェも最近できたって聞いたけど、同じところか?さすがに偶然だろ。

「そこって、学校の正門出て右を、まっすぐ行ったところ?」

パチンと指を鳴らした。

「そうそこ。よく知ってるね荒良々木さん。やっぱ女子はそういうところに詳しいね」

まさか、同じところだったとは。未華も同じことを思ったのかバツが悪そうな顔をした

「そこ、昨日私たち行ってきちゃったんだよ…ね」

それを聞き、「ん?」と聞き返すようにいった。

「え、昨日行ってきたの?二人で?仲良くてなんか繋いじゃったりしながら?」

未華と顔を見合わせて頷く。するとまた、鉋から、「はぁぁぁ」と大きなため息をした。

「左様でございますか。俺との青春より、リア充の青春ですか。」

「なんだそれ。なら今度は三人で行けばいいだけの話だろ」

「俺はお前らのデートスポットとなったところに踏み入る勇気はない。ましてや独り身の俺はそんなところに行こうと思っちゃいけなかったんだ」

どんどんネガティブ思考になる鉋に未華がすかさずフォローを入れた

「別にペアがいなくても入ってもいいと思うし、三人でいけば、三人の思い出の場にもなるから行っちゃ行けなくないと思うんだ」

「今日三人で行こうぜカフェに。ノート貸した礼だったら、ケーキ奢ってくれるだけでいいからよ」

「ちゃっかり奢られようとしないの。」

「荒良々木はん、慰めありがと。光希、お前にはケーキは奢らない。荒良々木さんに奢ることにした」

「なんでだよ。俺がお前にノートを貸してやったんだから俺にも奢れよ」

「いーや、奢らない。俺は荒良々木さんの優しさに救われた。だから俺は荒良々木に奢る」

まぁ、いいか。次にノート写させてと言ってきたら絶対に貸ないからな。絶対にだ。

「まぁ別にいいや。俺と未華は今日予定ないから別に大丈夫だぞ。」

「よしっ、じゃあ放課後行くか。」

予定が決まると、授業の始まりチャイムがなった

二限目が終わり三限目に入っても今日の未華の調子は良かった。むしろいつもより元気だった。心配だった四限目も、変わった様子もなく終えることができた。

「さぁ、注目のお弁当タイムの時間が来たね光希」

はしゃぎながら机の上に弁当を置いた。

「開けてみて」

楽しそうな未華。ドキドキしながら弁当の蓋を開けると、右側に桜でんぶで作ったハート型に、その上から、海苔で「Love kouki」と書かれていた。

「どう?可愛いでしょ」

可愛い云々の問題じゃなく、教室の中でこの弁当の中身を周りに見られてると思うと恥ずかしい。ラブラブなのはいいと思うが、ラブラブすぎるのはどうかと思う。ましてやそれを周りに見られるのは恥ずかしい。

「可愛いけど、さすがにこれは恥ずかしいかな。」

「え…。」

ショックを受けた顔で弁当を眺めていた。

「嫌だった?ごめんね。てっきり喜んでくれると思って…」

「いや、嬉しいよ。嬉しいけどこ場合場所の問題かな。学校とか、知り合いの多い場所でこういう弁当なのは、恥ずかしいっていう意味で、家とかだったら全然こういうのは嬉しいんだ。」

「そっか。じゃあこれから気をつけるよ。」

「頑張ってくれたのに、こんなこと言っちゃってごめん。家なら全然こういうのでいいから、むしろ大歓迎だよ。」

そっか、と言いながら未華は自分の弁当を開けた。

未華の方は普通のもので、文字が書かれてるわけではなかった。おかずの方は俺も未華も何かのキャラクターで作られた、いわゆるキャラ弁となっていた。

食べてみると、どれも美味しいかった。

「あのさ、未華」

「ん?」

「今日の放課後、カフェで未華の体のこと話してもいいかな。」

「うん、いいよ。光希は話さなくていいよ。私が話すから」

「そっか。ありがとう」

「別にお礼を言われるような事じゃないよ。私のことなんだから。」

「話すのが辛かったらいつでも言ってくれ。そしたら俺が話す」

「うん。その時はよろしく…」

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